096 / 再婚はまだ
朝6時。
今日も、早めに起きた両親に階下から呼ばれ、俺は自分の部屋のベッドで目を覚ます。
着替えてから下に降りて、朝食の準備をしている母と、テーブルに陣取って新聞を読んでいる父に朝の挨拶をする。
「おはよう父さん、おはよう母さん」
「おはよう巌。今日はいい天気だぞ」
両親と交わす元気な挨拶で、今日もいい気分で一日が始まった。
朝食を食べて、歯を磨いて、家を出る。
出る時にはもちろん、「いってきます」と大きな声で家の中の者に告げる。
「おはよう」
「おはようございます、部長」
会社の自分の机に到着するなり、部下の田崎が挨拶がてら、いつものように前日の未達事項を伝えてくる。
田崎は気づいているだろうか、先週から、俺の左手の薬指の指輪がはめられていないことに。
俺と由香が離婚したのは、由香の浮気が発覚したからだった。
俺は怒るでもなく、絶望するでもなく、なんとなくそうだろうなと思った勘が当たったという感じだった。
子どももおらず、身軽な俺たちはすぐに離婚という選択肢に飛びついた。
まだお互い三十過ぎだから、再婚の道も開かれているだろうという結論だった。
「ただいま」
「おかえり、ご飯にする、お風呂にする」
いつものように母が尋ねる。
「ごはんから」
「はあい」
今日も食卓には、春らしい季節の料理が並ぶ。
若い頃から料理教室に通っている母の手料理は天下一品である。
「巌は、再婚とかは、さすがにまだ考えていないよな?」
父が尋ねる。
「お父さん、ダメですよ、せかしちゃあ」
すかさず母が止めに入る。
「でも、もし、いい相手がいるなら、知っておきたいだろう。巌、早めに紹介するんだぞ」
「わかってる」
「由香ちゃんは駄目だったが――」
「お父さん!」
最初はうっとうしいと思っていた両親とのこの会話も、最近ではそういうものだとして気にならなくなった。
風呂上り、自室に引き上げ、パソコンを開く。
久々に、ジャーナリングをしたくなったのだ。
ジャーナリングとは、紙でもパソコンでもいいから、とにかく自分の思っていることを全部書き出して頭を整理するという作業のことを指す。
自分の名前を中央に書き、そこから枝葉を伸ばすようにして、「離婚」「由香」、そして「再婚?」の文字を続けて書く。
そして小さく、「田崎?」と書いて、慌てて二重線を引いた。
今日はもう寝ようと思い、俺は静かにパソコンを閉じた。




