094 / 子供部屋と俺
「子供部屋おじさん」もしくは「子供部屋おばさん」という言葉がある。
大人になっても親の世話になり、自分の部屋に子供の様に引きこもっている人間という意味である。
俺の子供時代は、どこにでもいる、その辺を走り回る元気いっぱいの男児だった。
それが小学校の頃いじめにあい、自室に引きこもるようになったのがすべての始まりだった。
中学校、高校と不登校を続ける俺を、父も母も、怒鳴ったり慰めたりして、あの手この手で登校させようとした。
しかし俺の意志はかたく、一歩も家の外に出ない日々が多くなっていった。
当然のように大学には進学せず、就職もしなかった俺は、親の嫌味にも友人の少なさにも耐えつつ、今年四十三歳になった。
親が倒れたらどうしよう。
病気になったらどうしよう。
そんな不安を見て見ぬふりをして、今日も俺は煙草を吸いながらYoutubeを眺めている。
モニタの上では、馬鹿なことを言ったり、ためになることを言う配信者がせわしなくしゃべり倒している。
「マルモ@take」というアカウントを運営している俺は、多くの同士とともに、そんな配信者にそっとコメントを残したり、たまに投げ銭をしたりする。
布団はあったかいし、俺を傷つけるものは何もない。
俺の邪魔をするものは、たとえ親だって許さない。
「武、今月のお小遣いだよ。降りといで」
三食の食事とトイレに風呂、たまにする散歩以外は下の階に降りない俺だが、例外的にお小遣いをもらうときだけはいそいそと降りてゆく。
「いつもありがとうね、ママ。何か困ったことがあったら言ってね」
俺の優しい言葉にママは感動してますます俺を甘やかす。
それを知っていてそんな言葉をかける俺を卑怯だというやつがいるかもしれないが、これは俺の処世術なのだ。
誰にも邪魔はさせない。
しかしママも年をとった。
俺も同じ分だけ年をとっているはずだ。
いつか親も弱っていくのかもしれないが、まだそれは先の話だ。
YoutubeのアレクP先生が言っていたように、そうなったら親には施設に入ってもらって、俺は生活保護を受給すればいいのだ。
一人暮らしとなると身のまわりの世話をする人がいなくなって面倒だが、それでも俺の悠々自適な生活は続くのだから、よしとしなければならない。
あ。
今日は追いかけているアニメの新しい配信がある日だ。
ふと思い出し、俺はママをおいて2階へあがる。
俺の大事な「子供部屋」のある2階へ。




