087 / ふたりのバイオハザード
「あー、しっかり雨だねぇ」
ベランダから空を見上げ、由紀がぼやく。
「天気予報、しっかり当たったな」
夫の大輝が、由紀の背後で歯を磨きながら言う。
「どうする?今日」
と、やはりパジャマ姿の大輝が問う。
「どっか出たいよねー。室内で、楽しめる場所。映画館で映画見る?ランチして、イオンでショッピング?」
「でも小さい町だし、誰かに会いそうで嫌。家で過ごしたいな、俺」
「家で何すんの」
「ゲームは?」
「ゲーム?」
由紀はリビングのテレビ台の下にあるゲームコーナーに目をやった。
「あ、新作のバイオハザード、まだ開封してないじゃん。これやる?」
「いいねー。ポテチやジュース、ウーバーで買ってさ、部屋、薄暗くしてさ」
「あはは、雰囲気出すんだ」
「そう」
「いいよ、やろ」
そうして、着替えもしないまま、由紀と大輝はテレビの前にあぐらをかいてゲーム機のコントローラーをにぎった。
部屋を薄暗くして、ウーバーで頼んで持ってきてもらったポテチやチョコレートなどのお菓子類やコーラやルイボスティなどの飲料を床に広げて、気分はさながら屋外キャンプだ。
「なんだろ、この背徳感」
由紀が笑いながら言う。
「な」
大輝もそれに同意する。
ゾンビを倒しまくり、アイテムを拾い上げ、中ボスや大ボスに挑んでいいうるちに三、四時間があっという間に過ぎた。
そこへ、ピリリリ、とスマホが鳴った。
「お義母さんだ。出てよ」
鳴っているのは由紀のスマホだ。
「いやいや由紀が出てよ」
「えー今いいとこなのに!」
「あ、切れた」
「また漬物できたから持っていく、とかかな」
「そうじゃね?」
「お義母さんの漬物、おいしいよね」
「な」
「次かかってきたら絶対出るから、不機嫌にならないでよね」
「分かったから」
それから、私たちは二時間ほどゲームを続けた。
カーテンも閉めないまま、夜を迎えた。
朝からの雨は降り続いていて、三月となり暦の上では春だというのに、部屋の床はひんやり冷たい。
「冷えてきたね。暖房つけるよ」
「うん。夕飯どうする?」
「ピザでも取ろ」
「いいね」
時計の針はずんずん進む。
結局二人は徹夜をして朝をむかえた。
目の下にクマをこしらえて、昨日の朝から着替えていない二人が、歯を磨きながらベランダに出てくる。
「晴れたねー」
「なー」
未明まで降っていた雨のものだろう、ベランダの手すりには、いくつもの水滴がキラキラと輝いていた。




