083 / 寝床を別にして
私たち夫婦の間に、夜の営みがなくなって久しい。
もう愛情がさめてしまったとか?
いやいや、普通に考えて、中年のくたびれた女体に興奮しなくなっただけだろう。
その証拠に、「この子かわいいな」なんて、テレビに映るアイドルの女の子を見て言っているし。
こうして、恋人同士からはじまった夫婦は、育児期に同士となり、子供が独立してからは良きパートナーへと変化するのだろう。
と、前向きに考えたいところだ。
正直なところ、夫が浮気していようが、今の私には何一つ傷つくことなんてない。
それだけ、私の方でも夫に対する関心が冷めてしまっているからだ。
私が年をとった分、夫も年をとっている。
若い頃はあんなにがっしりしてかっこよかった体格も、無駄なぜい肉がつき、おなかがぽっこり出ている始末だ。
私だって他人に言えたもんじゃないけれど、出産でたるんだおなかの肉は元には戻っていないし、顔のシミだって目立ってきた。
お互い様なのだ。
と、理解のある妻を演じるのは今日この瞬間までだ。
先日、夫のスーツから香水の匂いがした。
女の勘で、十中八九、浮気だと思われる。
私は考えた。
相手をつきとめて慰謝料を請求してやろうかしら、と。
しかしさらに私は考えた。
夫が外で楽しんでいるのだから、私だって楽しんでもいいのではないか、と。
その晩、私は夫に、「寝る場所を別々にしない?」と提案した。
提案はすんなり通り、翌日から、夫と私は寝床別々になった。
寝床を別にして、はじめての夜、とんでもない解放感につつまれた。
夫一人分いなくなるだけで、こんなにすっきりするのか!と思わされた。
私はひとり伸び伸びとできる寝室をおおいに活用し、夜は好きなクラシックを小さくかけて寝ることにした。
ちなみに夫はクラシックが大嫌いである。
更に、夫のいびきが聞こえなくなったことで、私の快眠は加速した。
朝、寝覚めがすっきりしており、いつもより体調が良くなった。
私は調子に乗り、ベッドの脇に好きな男性アイドルの写真を置いたりしてみた。
毎晩、彼の顔を見ながら眠りにつくのだ。
最高である。
こうして、私と夫の距離は開いていった。
しかし、離婚はしていない。
別々にした寝床の分、気持ちもすっかり離れてしまったけれど、それでも夫婦という関係は変わらない。
夫と私の、これが夫婦の在り方なのだ。
寝床で写真立てを眺めながら、これでいいんだよね、とつぶやいて眠る、今日この頃である。




