表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『キリトリセカイ』Vol.01(001~100)  作者: 百字八重のブログ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/100

081 / 一本の針の向こうに


光代は今日も、スポーツ『AGASA』のカウンターに立つ。

二、三十代の若い他の店員と同じ制服(ただしサイズは大きい)を着て、首にはおそろいのスカーフを巻いて。


光代が鍼灸の学校に入学したのは、十八の頃だった。

田舎から出てきて、右も左も分からない中で、当時の光代は懸命に勉学に励んだ。

というのは半分嘘で、半分本当。

田舎から出てきて、すっかり舞い上がってしまった光代は、化粧や煙草を覚え、徐々に都会の色に染まっていった。

仕送りでは十分に遊べないため、夜の仕事に手を出し、その分、光代は昼の勉強では決して手を抜くことはなかった。

遊びに勉強に、とにかく光代は懸命に励んだ。

そのかいあって、無事卒業し、はり師、きゅう師ともに資格を取得することに成功した。


はじめての仕事は、町の鍼灸院だった。

商店街の一角にあるこじんまりとした店で、ガラス製の開き戸には、縦にでかでかと白い文字で『なかむら鍼灸院』と記されていた。

そこで光代は、持ち前の愛嬌を武器に、順調に客をつけていった。

そして、ちょうど二十五歳の時に結婚。

相手は親の紹介による見合い相手だった。

会社員勤めの夫を支えるべく、また子育てに専念すべく、光代は仕事をやめる。


再び仕事を始めたのは、下の子の手がかからなくなった四十五歳頃のことだった。

再就職先は、住宅地の真ん中にある『ひまわり鍼灸院』という名の店だった。

さっぱりとしたセンスのいい店で、若い店長の下、ここでも持ち前の愛嬌を武器に順調に客をつけていった。

とはいえ、姿形は若い頃とは違うので、同じ愛嬌でも「かわいいお姉さん」ではなく、「元気なおばちゃん」としての人気ではあったが。

毎日元気に働いているうちに、光代は次第に同年代の中年男性の人気を集めていった。

その中でゴルフなどに精を出す、いわゆる金持ちにかわいがられるようになり、その流れで光代は昨年、スポーツ『AGASA』へと転職した。

夫は一昨年にがんで亡くなっており、子供たちも独立しており、光代は今、一人暮らしである。

「この年で転職するなんてねぇ。やっていけるかしら」

先日、珍しく弱気な発言を上の子供に吐いてみると、「何言ってるのお母さん。お母さんなら何が起こっても大丈夫だよ」と言われた。

そんなもんかしら。

鏡を見てにっと笑って、今日も光代は出勤する。

多くが自分より若く、多くが自分より弱っている、そんな客たちを元気づけるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ