080 / いざ、尋常に
今朝、家を出る前に、軽く夫婦喧嘩をした。
きっかけは、俺が会社の書類をリビングのテーブルの上に置きっぱなしにしていたこと。
それを見つけた妻が、お得意の「こないだだって」を持ち出してガミガミ言って来たのだ。
朝からアレは、たまらない。
俺は朝食をとらずに、そそくさと逃げるように家を出て来た。
コンビニでおにぎりを買いながら、妻のことを、どうしたもんかな、と思う。
つきあいはじめた当初は、あんなではなかった。
俺の顔を見るたびに、ぱっと笑顔になったし、お互い、なんでも話し合えた。
それがいつの頃からか、俺の顔を見るたびに真顔になり、あんなにかわいらしかった口調もぶっきらぼうになり、いつしかお互いに深い話はしなくなった。
そう、話をしたとしても、この頃では互いの違いが浮き彫りになるばかりで、問題解決がいつのまにか口論になっていたりする。
どうしたものか。
朝から嫌な気分で一日をはじめたため、仕事は手につかず、今日もミスを連発してしまった。
これではいけない。
俺はたまらず仕事帰りに本屋に寄った。
学生の頃からの癖で、問題があると、いつも本屋に寄る癖があるのだ。
そうして、目についた本を片っ端から拾い読みしていく。
何か問題解決のヒントになるようなことは書かれていないか――と目を皿のようにしてページをめくる。
それが功を奏する時もあれば、当然、不発に終わるときもある。
けれど、問題解決に向けて、「何かした」という実績は積みあがる。
それが少しの心の余裕につながって、これまで、大体の問題は解決できて来たように思う。
果たして今回は――。
何冊か拾い読みし、最終的に俺が手に取ったのは、自己啓発本の『できる人がしていること100選』という本だった。
その本では、自分のこと、家族のこと、職場のこと、周囲の環境のこと、というふうに章分けがされていた。
俺は導かれるように、「夫婦のこと」のページを開く。
するとそこには、「お互いに完璧を求めすぎない」「パートナーを友人のように、いやそれ以上に大切にしているか」「セックスでは互いを尊重する」などと題して、短い説明書きがなされていた。
これだ。
俺は「とにかく話し合うこと」と書かれてあるページをめくった。
そこには、いかに夫婦間で会話が大切かが書かれていた。
よし。
俺はその本を購入し、お守りのように鞄にしまうと、戦に臨む戦士のように家のドアを開けたのだった。




