008 / 母の平手打ち
僕は今日で十二歳になる。
それがなんだかとても嬉しくて、僕は朝から手足をばたばたさせて動き回っていた。
ママは「じっとしてなさい!」なんて叱るけれど、だって誕生日なのだ。
仕方がない。
学校では朝の会で先生が「今日は酒井良太さんの誕生日です。おめでとうございます」と発表してくれた。
クラスじゅうの視線が僕に集まった。
僕はもじもじしながら「ありがとうございます」と言った。
学校で、僕は一日中特別な人間だった。
家に帰るとママがケーキを作っていた。
「ママ、何か僕に言いたいこと、ない?」
僕はもじもじしながら聞いてみた。
「ちょっとあっち行ってて。邪魔だから」
とママは言った。
なんだよ、今日は僕の誕生日だぞ。
特別なんだぞ。
面白くなかった。
ママのいるテーブルから離れて壁をまわったところで、僕は大きな声で「くそばばあ!」と言った。
するとママがケーキを作る手を止めて一目散にやってきて僕の頭を平手で思い切りたたいた。
僕はびっくりした。
だって今日は僕の誕生日なのに。
なんでこんなことが僕に起こるの。
でも僕は泣かなかった。
でも僕はママを絶対に許さない。
だって誕生日に僕の頭を叩いたんだ。
暴力を振るわれたんだ。
僕はママを絶対に許さない。
結局、この年の誕生日は夜には機嫌を直してステーキを頬張っていた気がする。
あれから20年が経った。
僕もママもそれなりに年をとった。
僕には今年、娘が生まれた。
僕はあの時のママの平手打ちを今でも覚えている。
だから、自分の娘に手を上げることだけは決してしないでおこうと決めている。
ママは今も、テレビでパワハラが問題になると、パワハラを擁護するような発言をするが、暴力を振るわれた方はいつまでも覚えているものだ。
すやすやと眠る娘をのぞきこみながら、これからやってくるこの子の誕生日が祝福されたものでありますようにと僕は願っていた。




