078 / 老年期の予習
「老年期における精神機能の変化は、『精神機能』と『知的能力』という2つの側面で理解することができる」
と、文章は始まる。
「高齢になると、『精神機能』では、記銘力・短期記憶・想起力が低下する」
俺はぶつぶつと繰り返す。
うち、「記銘力」というのは、新しいことを覚える能力のこと。
また、「短期記憶」というのは、さっき行ったことを覚えている能力のこと。
さらに、「想起力」というのは、以前の出来事を思い出す能力のことだ。
文章は続く。
「『知的能力』では、単純作業や知的作業の能力の低下が見られる」
しかし、
「一方で、言語的理解能力のような、経験や知識に結びつけて判断する能力は、比較的高齢まで維持される」
はた、と俺の目が止まる。
「高齢者」と呼ばれる65歳を過ぎても、俺は結構、健康なほうだった。
そりゃあ、老眼はひどくなるし、年々体力の衰えを感じてはいたものの、自分が年をとると言うことに関して、結構無頓着だったように思う。
しかし、75歳を過ぎてから、急に体が言うことをきかなくなった。
というか、特に頭に問題が出てきだした。
俺はひとり暮らしをしているが、ついさっきまで行っていた作業を思い出せなかったり、それこそ、新しい情報を覚えられなくなってきたのだ。
具体的には、夜、風呂に入ったのを忘れたり、医者から新しい薬を処方されたのにそれを覚えられないでいたりした。
これは、まずい。
俺はようやっと、危機感を持ち始めた。
そこで、手早くネットで、「高齢者 精神 変化」で調べてみたのだ。
さきほどぶつぶつ繰り返していたのは、そこに書かれていた文章だ。
確かに、そこに書かれている通り、俺の「記銘力」「短期記憶」「想起力」は低下しているようである。
単純作業や知的作業も遅くなってきている。
しかし、一筋の光明が見られる。
それは、「言語的理解能力のような、経験や知識に結びつけて判断する能力は、比較的高齢まで維持される」の一文である。
俺は何度も口の中で繰り返す。
文章はなおも続く。
「過去に行われた研究などからは、言語能力は70歳前後までは保たれているといわれている」
俺は文章を二度見、三度見した。
俺は今、77歳である。
70歳など、遠に過ぎてしまったではないか。
俺はがっくり、肩を落とした。
しかし、今の時点でこれだけ文章が読めていたら、俺はまだまだ大丈夫だという気がしてきた。
よし。
俺は満足してサイトを閉じた。




