077 / 母親みょうり
「お母さん、僕、この人と結婚するから」
大きくなった息子がそう言って、ある日、一人の女性を紹介してくる。
そんな夢を見て、私はソファから跳ね起きた。
「なんだ、夢か」
壁にかかった時計を見ると、もう夕方の4時である。
ちょうど、息子が小学校から帰ってくる頃合いである。
「ただいまー!」
と、思った矢先に息子の声がした。
「おかえり、まずは手と口を洗って」
帰ってくるなりランドセルを放り出しゲームをしようとする息子を注意する。
このところ、息子はずっと、同じゲームにはまっている。
「こんなので、大丈夫なのか?」
とは、先日の夫の言いぐさだ。
我が家では、育児のことは私に一任されている。
私も最近、息子があまりにも勉強を嫌がるので、どうしたものかと思案に暮れているところだった。
「いっそ塾にでも放り込もうかしら」
「それにしたってタダじゃないぞ。それに、幼いころから勉強勉強で締め付けるのもなぁ」
夫との話し合いは平行線をたどっている。
しかし、そんな親の心配をよそに、息子のテストの点数はいいのだ。
「見て、ママ、また90点」
それは先日行われた国語のテストの結果だった。
漢字の書き取りの細かなミス以外は、すべて丸。
ずらりと紙面に並ぶ赤ペンの丸に、親としては誇らしい限りだが、一方で、いつまでこれが続くものか、と思ってもいる。
小学校の頃は、私だって、特別な勉強をしなくても高得点が取れたのだ。
問題は、その後。
中学校に入り、高校に上がると、生来の勘だけでは点は取れなくなってくる。
どうしても、無理やりに詰め込む勉強が必要なのだ。
そういう試験を繰り返すことで、目標に対して何をどの程度こなせばいいかを、体感で身につけていくのだ。
「あなたは、どういう大人になるのかしらね」
夜、眠っている息子の顔を見つめながら、そんなことをつぶやいたりする。
「せいぜい立派な大人になって、結婚なんかもしちゃって、親を泣かせてちょうだいね」
ふふふと笑って、私は息子の寝室を去る。
思春期ともなれば同じことはできなくなるだろう。
今だけの、特別な儀式だ。
願はくは、世の中の子供が、私の息子のように、皆すくすくと育ちますように。
傲慢な願いかもしれないが、心の底からそう願ってやまない。




