072 / 小説家の一日
俺の職業は小説家。
大学生の時に応募した新人賞で運よくランキング上位に食い込み、そこからT出版社の相田さんという編集者とコネが出来て、猛特訓の末、数年後には同じ新人賞で受賞を果たすことができたのがはじまりだ。
小説一本でやっていく目途がたったため、考えていた大学院進学はやめることにした。
サークルで知り合った由利にプロポーズしたのもこの頃だ。
由利は快諾してくれ、以来、俺は由利と二人きりの生活を楽しんでいる。
子供のいない俺たちの生活をちょっとご紹介しよう。
まず、朝7時になると、アラームが鳴り、二人そろって布団から出る。
洗面所を由利に譲り、俺は庭のプランターの植物に水をやる。
それが終わったら今度は俺が洗面所を使う。
顔を洗い、歯を磨き、髭を剃り、髪の毛を整えたら出来上がり。
その頃には、由利がテーブルの上に朝食を用意してくれているので一緒に食べる。
俺と由利は、毎朝、そろってトーストにバターとジャムを塗っていただく。
ジャムは、由利が職場からもらってきた柑橘類を煮詰めたものだったりして、とてもおいしい。
家具と雑貨を極力少なくした我が家のインテリアは二人の共通の趣味で、毎日そんなすっきりした景色を確認して、心が豊かになる心地を味わう。
その後、由利は仕事へ行き、それを見送った俺は、ひとり二階の書斎にこもる。
小説は午前に一本、午後に二本進めることにしている。
水曜だけは小説を書かない日と決めており、編集者との打ち合わせや飲み会などはその日に合うようにセッティングしている。
午前中の仕事が終わったら、昼ごはんはインスタントで簡単なものを作る。
30分ほど仮眠をしてから、午後の仕事にとりかかる。
午後の仕事が終わったら、夕方、近所のジムで汗を流すことにしている。
作家はどうしても運動不足になるので、予防もかねて軽めに流す。
夜は由利とゆっくりと食事を楽しむ。
夕食は俺が作るときもあれば、仕事から帰ってきた由利が作るときもある。
お互いに無理をせず、楽しく過ごすのが二人のモットーなので、日々、それを確認し合うように暮らしている。
正直、俺の小説はそんなに売れていない。
だから世間で言われる「小説家」のような、莫大なお金は稼げてはいない。
しかし由利のおかげもあって、今の俺たちはそこそこの暮らしをしていると思う。
「今日もありがとうな、由利」
俺は今日も由利にそう、投げかけて一日を終える。




