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『キリトリセカイ』  作者: くさかはる@五十音


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070 / 僕の1万円


隣の席の池谷が、新しい靴を履いて登校してきた。

某ショッピングサイトのランキングで上位に入っていたモデルだ。

なぜ僕がそんなことを知っているのかというと、僕も秘かにそのモデルを狙っていたからだった。

でももういいや。

池谷が履いてきたことで、僕のスニーカーへの興味は失せてしまった。

どうせ求めたって無駄なのだ。


僕の月々のお小遣いは1万円。

そこから通信費を引くと5千円ほどしか残らない。

それを丸々貯金しても、1.2万円のスニーカーを買うには3か月かかる。

そうまでして欲しいかどうか自分の心に尋ねてみると、否という返事が返ってくる。

大体、お小遣い1万円で必要なものがすべて揃うだろうという僕の両親がケチなのだ。

僕にだって好みがあるし、たまには贅沢もしたい。

でも僕の両親は、その自由を「贅沢だ」と言って認めない。

制服や参考書はいくらでも買ってくれるくせに、こと他のことに関しては本当にケチくさくて、勉強だけは人一倍頑張れと強要してくる。

だから僕は、池谷が僕の欲しかったスニーカーを履いて登校しても、高橋が昼時に購買で好きなパンを買って食べていても、相沢が放課後にゲーセンで小銭を溶かしていても、見て見ぬふりをして過ごしてきた。

僕には最初から縁の無い話だとして。


そんな僕は、大学進学で都会での一人暮らしが始まってから、解放感からバイト三昧となる。自分の自由になるお金を、自分の好きなように使える自由をめいっぱい楽しんだ。おかげで僕は単位を落とし留年し、大学を中退する羽目になるのだが。

以来、僕はフリーターから抜け出せないでいる。

今の僕が、学生の頃の僕に言えることがあるとしたら何だろうか。

「親のことは我慢して、大学に入っても羽目を外さずに勉強を怠るな。そしていい会社へ入れ」だろうか。

僕はふっと笑ってしまう。

そんなことを言ったって、当時の僕は、僕なりに必死に両親を我慢していたのだ。そんな僕にそれ以上何かを強要しても、当時の僕は、つっぱねるか潰れるかしてしまったろう。

結局、僕は僕なのだ。

もしもの話はやめて、僕は今日のシフトを確認する。

今では、稼ぐ金すべてが自由になる。けれどその中から家賃や光熱費、通信費や医療費を出して、その残りを貯金して、余った金が自由になる。

1万円の使い方も、だいぶ身についてきたな。

来し方、行く末を思い、今日も僕はバイトへ行く。


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