069 / 私と梅の木
「おまえんち、梅、作ってんだろ」
小学校の頃、東京から転校してきた男の子から突然、そう声をかけられた。
私は、「うん、そうだよ。おじいちゃんたちが作ってるの!」と笑顔いっぱいにして答えた。
すると男の子は、
「馬鹿じゃねえの!農家はだせぇんだぜ!」
と言って去って行った。
私は、一瞬、何を言われたのか分からず呆然としてしまったが、言われた言葉の意味を理解した途端、ぶわっと両目から涙があふれてきたのだった。
土日とあって実家に戻っているせいか、今朝は、そんな夢を見て目が覚めた。
あれから二十年経った今でも、私の実家は梅農家だ。
着替てリビングに降りていくと、母がみんなの朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう」を言い合い、私は顔を洗う。
洗面所から、梅の林が見える。
一月に入り、今の時期は皆で梅の剪定作業をしている。
枝の切り方ひとつで、今年の実りが決まる。
切りすぎてもいけないし、逆にまったく切らなくても駄目。
とても難しい作業だ。
いつだったか夕飯の席で、「梅農家もデジタル化できたらいいのにねー」などと言ったことがあった。
すると父が「一個一個の梅の大きさを機械で測ってどうするんだ。要は大きさと品質さえ揃えればいいんだから。結局、昔ながらのやり方が一番早いんだ」と答えた。
「でも時代はAiだよ?21世紀だよ?いつまでも人の手に頼ってちゃあ、進歩がないよ」
私はそんなことを言ったと思う。
すると父は「生意気なこと言ってないで、お前は都会で仕事してろ」なんて言っていた。
実家は既に兄が跡継ぎとして働いている。
だから跡継ぎ問題は大丈夫なんだけど、問題はやはりデジタル化だろう。
そう思い、それとなく兄に打診してみると、「その辺はちゃんと考えている」とのことだった。
本当かしら。
大体、デジタル化といっても、何をどうデジタルに頼ればいいのかが分からないのではないか。
そうこうしているうちに時代に取り残されていくのではないか。
大体、まずもって資金がない。
それが第一だ。
次いで知識もない。
それが第二だ。
だから農家は駄目だと言われるのだ。
くそ。
思わず手に力が入り、乱暴に枝を切ってしまった。
「あ、ごめん」
と、私は梅の木に向かって謝る。
今は土日、実家に帰って農作業の手伝いをしているけれど、その時間をいっちょデジタル化の勉強に充ててみるか。
そんなことを考えながら、私は、ぱちん、ぱちん、と梅の枝を切るのだった。




