066 / ひとり東屋で
しばらく乗っていないとバッテリーがあがってしまうので、天気のいい休日を選んで、俺はバイクで遠出することにした。
よく後ろに乗せていた妻の真美とは、先日、離婚が成立した。
よって今は一人である。
一人になってみると、いかに自分が重荷を背負っていたのかが分かる。
バイクに乗るとき、もう誰も俺の腰にしがみついてこない。
カーブを曲がるとき、後ろに乗る人間一人分の負荷がかかることを気にしなくていい。
休憩所に立ち寄る際に、連れのトイレのことを考えなくていい。
昼飯時、一緒に食べる奴のことを考えなくていい。
もう誰にも、歩調を合わせなくていい。
何より、もう財布の中身を気にしなくていい。
真美とは喧嘩別れだった。
子供のいない俺たちは、どうしたってお互いしか毎日顔を合わせる相手がいないものだから、気の強い者同士、主張を譲らず、喧嘩が絶えなかった。
ああ、そのわずらわしさを思うと、今の身軽さといったら。
出来ることなら、俺は自由だ!と叫びたい。
俺は展望台の東屋で仰向けになり、「わーっ!」と叫んでみた。
誰も反応しない。
視界いっぱいに、なだらかな山脈が遠くの方まで続いているだけだ。
当然だろう。
これが、ひとり。
しばらく慣れるのに時間がかかるかもな。
「な、お前もそう思うだろう、真美」
俺はそう言って、後ろを振り向いた。
そこには、それまで俺が乗ってきたバイクが一台あるだけである。
思わず苦笑いをしてしまう。
その苦笑いにしたって、見る者は誰もいない。
一人になると、見る人が誰もいなくなるから、いちいち表情をつくるのも面倒になって、段々と無表情になっていくのかもな。
と、そんなことを思う。
いつか、女の肌恋しさに再婚でもするのだろうか。
まるで他人事のように、そんなことを考えてみる。
しかし、今はまだ、離婚直後の身軽さを楽しもう。
そう思い、俺は今一度、東屋の板張りの上に大の字になって、大きな声で「やっほー」などと叫んでみるのだった。




