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『キリトリセカイ』  作者: くさかはる@五十音


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063 / うつ病の私

どこか調子が変だなと思い出したのが、いつの頃だったろうか。

まず、朝起きれない。

私のように仕事をやめた高齢者ともなると、朝は早く起きるようになるものだが、それが起きれない。

昼頃までぐずぐずと寝ていて、起きてもぼんやりとしている。

夫は「大丈夫、仕事をやめてまだ日が浅いから、体がついてきてないんだよ」と言う。

だからとりあえず歯を磨いて身支度をして、夫と私のお昼ご飯を作り始める。

しかしこの作業がずいぶんとしんどく感じられる。

食べ終わった頃には疲れきって、皿洗いをする夫の背中に、むしょうに抱きつきたくなる衝動に駆られる。

そんなわけで、午後もベッドに横になり、浅い眠りについている。

連日そんな具合なので、さすがになかばいらついた夫と息子のすすめで、精神科を受診した。

すると、ついた診断は「うつ病」。

噂に聞いたことはあっても、そういうのって他人事だと思っていた。

「うつ病、ですか。本当に?私が?」

と私は二度、医師に尋ねた。

「お薬出します。まずは休んでください。休むことが仕事だと思ってください」と言われた。

そんなこと、急に言われたって。

医師に言われたことを夫と息子に説明すると、案の定「今だって相当休んでるけどな」という苦笑いが漏れた。

「そうよねぇ」と、私も困ってしまう。

「でもとりあえず、明日からお前は家事も何もするな。卓也、お前どうせ仕事してないんだから母さんの代わりに家事しろ」

と、夫の一声で方針が決まった。

息子の卓也は「えー」と言って面白くなさそうな顔をしていたが仕方がないとあきらめてくれたらしい。

私も、ここは家族に甘えることにした。


翌日から、私はとにかく休んだ。

寝て、食べて、寝て、寝て、寝た。

一歩も外に出ない日が続いた。

かと思えば、することがなくて近所をぐるぐると歩き続ける日もあった。

あんなに好きだったSNSも完全にお休みして情報を遮断して、とにかく体が求めるまま、休みに休んだ。

人生の楽しみは何もなく、食事もただ食べるだけの作業、そんな時間だけがただ過ぎていった。

すると、ある時から徐々に症状が緩和していった。

いわゆる「回復期」だった。

今はまだ、その途中。

家族には迷惑をかけているが、医師によると、今はそんなことは考えなくていいという。

だから今は何も考えずに、回復を喜ぼう。

自分を責めたくなる時もあるが、今は、とにかく落ち着いて日々を過ごしていこう。

大丈夫、大丈夫。


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