006 / 俺の禁煙
「36番」
今日も俺は、いつものコンビニで、いつもの煙草を注文する。
メビウスの10mgソフト。
早速店内のごみ箱前でフィルムをはがす。
そして店先の喫煙所でまずは一本吸うのだ。
うまい。
家に帰って更に一服。
うまい。
これが長年の俺の日課。
だった。
そんな長年の俺の習慣を変えたのは、妻の妊娠だった。
なんでも、副流煙はおなかの子供に悪影響だとかで、俺は禁煙を約束させられた。
それでもベランダで吸っていたら離婚騒動にまで発展したので、それ以来、妻と一緒の時には吸わないようにしている。
これがつらい。
どれぐらいつらいかと言うと、襲い来る便意をわざと我慢するほどにつらい。
妻にはニコチン依存症だと言われたが、そんなことは誰も聞いちゃいない。
何の依存症だろうが俺の勝手である。
そういうわけで、妻のいないときを見計らって、俺は以前の倍は煙草を吸うようになった。
やがて娘が生まれた。
妻に似て美人の、目の大きな女の子だった。
名前を「彩音」と名付けた。
彩音は一年もすると俺を認識しはじめた。
妻の真似をして片言で「とーちゃ」と呼ぶので、かわいくて仕方がなかった。
二年もすると簡単な言葉をしゃべりはじめた。
するとこれまた妻の真似をしてか「とーちゃん、くさい」と言うようになった。
それで妻を叱ったことがあるのだが、彩音の口癖はなおらなかった。
そんな彩音が今度孫を見せに来るという。
「36…いや、92番」
俺は今日もコンビニで煙草を買う。
妻のため、娘のため、それでも禁煙できなかった俺だが、今度は孫のために少し努力してみようと思う。
いきなり禁煙は無理だから、まずは電子タバコから。
はじめての電子タバコは、口に合うだろうか。
俺は真新しいフィルムに爪を立てて勢いよく開封した。




