ドラゴンの卵を連れ帰る
ボクが夕刻にギルドに戻ると、受付嬢のレイナさんが出迎えてくれた。
「あ。レイナさん。ギルマスはいる? 内緒の報告と相談があるんだけど?」
「あら。ディランくん。今日は早いのね。少しは休まないとダメよ?」
「うん。ありがとう。心配してくれて」
「それよりギルマスに報告があるの? ギルマスは執務室にいるから、今すぐ連絡するわ」
連絡機で連絡するとレイナさんはすぐにボクに笑顔を向けた。
「待ってるから来いって」
「父さんは優しいね。じゃあ行ってくる!」
「あ。ディランくん!」
「なに?」
振り返るとレイナさんが、ちょっと言いにくそうに言ってきた。
「その父さんて呼び方。ギルマスの前でしてあげたら、きっとギルマスも喜ばれると思うんですけど」
「え? いやだよ、そんなの」
「どうしてですか? 私たちにはいつも」
「本人に面と向かってなんて呼べないよ。恥ずかしくて」
「いつか呼ぶことができる日が来たら、そのときは呼んであげてくださいね。ギルマスは待ってると思いますから」
「うん。そのときがきたらね」
じゃあ行ってきますと告げて階段を登っていく。
ギルマスの執務室の前まで行ったら、緊張してノックする。
「ディーか? 入っていいぞ?」
「失礼します。邪魔じゃなかった?」
中に入るなりそう言えば、ギルマスは笑いながら否定した。
「いや。今一息入れようとしていたところだ。というかディー。なにかやらかしたな? 北の森でかなり激しい戦闘が確認されている。ディーの仕業だろう? 今度は何が出た?」
「ドラゴンが‥‥‥二体」
「ドラゴンが二体も? 一体どんなドラゴンだ? いや! それよりも無事なのか? ディー!」
「色々欠損とか深手を負ったりしたけど、エクストラヒールで治したから大丈夫」
「そうか。よかった。というか森は? まさか」
「ごめん。ドラゴンとの魔法の応戦で、一度は死の山にしちゃった。そこまでしないと、殺されてたのは、ボクのほうだったから」
「ディーが無事なら致し方ないというべきか。ん? 一度は? どういう意味だ?」
「うん。森を完全に死の山にしちゃったから、なんとかしないとギルマスに叱られると思って。必死になって考えたけど、なにも浮かばなくて。そうしたら急に祈る聖女が脳裏に浮かんで。普通に祈れって意味かなと祈ったら」
「祈ったら?」
「なんかすぐに元に戻っちゃった」
「戻ったってお前な」
「色々ごめんなさい。生態系壊すなとか、魔物の狩りすぎもダメって言われてたのに」
「しかしそれに気を取られていたら、ディーは殺されていたんだろう?」
「うん。多分。あの二体は夫婦で、卵を守りたくて必死だったみたいで。少しでも気を抜いたり手を抜いたりしていたら、死んでいたのは、ボクだったと思う。ボクはまだまだ弱いと思い知ったよ」
「いや。子を守りたいから気が立ったドラゴン二体を相手に生き残っていて、弱いと思われたら、他の冒険者たちの立場が」
ここまで申し訳なさから、立ったまま喋っていたボクは、ギルマスに座れと目で合図され、叱られるのかなあとビクビクしつつ正面に座った。
「そう。ビクつくな。別に叱ろうとか思ってない」
「でも、言われていたこと全部破って」
「誰だって死ぬかもしれないとなったら、全力で抵抗するし、その結果、被害が拡大しても仕方がない。ギルマスとしては、そう思う。命に勝るものはない、と」
そこまで言ってから、ギルマスは笑って言った。
「ディーが生きて帰ってきた。これ以上嬉しいことがあるか?」
「ありがとう。ギルマス」
「報告のほかに相談もあるんだろう? 乗ってやるから言ってみろ」
「うん! ドラゴンの卵って、どうやって孵すのか、教えて欲しいんだ」
「ディー。お前まさか」
「うん。魔の森を復活させた後、ドラゴンの卵を見つけて、この子の両親を殺したのは、ボクなんだからボクが育てなくちゃと思って」
「ディー。よく聞くんだ。ドラゴンは誇り高い。そう簡単には人には懐かない」
「でも、確かドラゴンも初めて見た動くものを親だと認識するんでしょ? だったら」
「それは確かに正しい。だが、その場合、基本的に実の親であり、実力を認めていると言う条件があるんだ。たとえ親でも実力不足と思われたら、 ドラゴンは親を殺す」
「‥‥‥」
「それでも育てるのか? 認められなきゃ食われるぞ?」
「ギルマス。ボクは初対面のとき、パーティーは組めないと言ったけど、本当は仲間が欲しい」
「それなら他の冒険者を」
「人間はダメだ。ボクの目的に巻き込めないし、犠牲にもできない」
「ディー」
「でも、今日気付いたんだ! 冒険者にも騎士にも、簡単に討伐できないほど強い人外の魔物や精霊、妖精とかなら? もしかしたら大丈夫かもしれないって」
「簡単には死なない仲間が欲しいってことか」
「それにボクはもうドラゴン殺しだよ? 賭けにはなるけど育ててみたい。ボクが親を殺して、ボクと同じ境遇にしちゃったんだ。今更投げ出せないよ」
「ディーは言い出したら引かないからな。だが、これだけは誓え。認められなかったその時は、どんなに辛くても、生まれてきたドラゴンを殺して生き残れ! 絶対に死ぬな! 誓えるか?」
「わかった。ボクもまだ死ねないから誓うよ」
そう誓うとギルマスは、初めて説明してくれたのだった。
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