特例のランクアップ
「あー。名前なんだったか坊主」
「ディラン。ギルマス。北の森の確認は済んだのか?」
問いかけるとギルマスは肩を竦めた。
「辺り一帯が地獄のような焦土だったと聞いてる。 竜人族 の大群と伝説の魔獣グリフォンを地獄の業火で焼き尽くし、その上にトドメとして 黒放電之宴で仕留めたようだと」
さすがにそこまで見抜かれるとは思わなかったから、とっさに言葉が出なかった。
「その上にグリフォンの 風の刃を阻むために土属性魔法の 絶壁を使った形跡もあったと。登録する前に正直に言ってくれ。坊主。いや。ディラン。お前さん幾つの属性の魔法が使える?」
「よくわからない。多分潜在的には、8属性すべてだと思う」
「全属性だと?」
ギルド内がざわついて、やっぱり能力は隠したほうがよかったかなと考えた。
でも、短時間でランクアップして上に上り詰めるには、能力はある程度正直に言ったほうがいいだろう。
そう判断した。
「今完全に扱えるのは、炎と土と雷だけだ。後は素質はあっても、レベルや熟練度が足りてなくて扱えない」
「しかし今も3属性を扱えるのか。凄いな」
「ギルマス。ランクアップ登録は無理か? ボクが子供だから?」
「ランクアップ登録はしてもいい。だが、子供のお前をひとりでは無理だ。誰かとパーティーを組む気はないか?」
「残念だけど誰かとパーティーは組めない。後で迷惑をかけるから」
「迷惑? なんの話だ?」
「なんでもない。こっちの話」
ボクが皇帝や神殿に反乱を起こしたら、ギルドはボクを切り捨てれば済むけど、パーティーメンバーともなれば、そうはいかない。
きっと一連托生だと判断される。
それがわかっていてパーティーなんて組めない。
「ボクはソロでやるよ。暫くは北の森で、スキルの底上げに励んで、ついでに素材を集める。だから、なるべく高いランクアップお願いします」
ペコリと頭を下げるとギルマスは困ったような顔になる。
本来ソロでやれる年齢ではない。
しかし実績的にはSクラス、もしくは更にその上だ。
だが、問題がひとつあると言われて姿勢を正した。
「どんな問題があるの?」
「実力的にはSクラスどころか、SSSクラスまたはプラチナクラスの逸材だ。あのグリフォンをソロで討伐したんだからな。
しかし残念なことに、ランクアップ登録で登録可能なのは、Bクラスまでなんだ。後は自分で実績を積んで上り詰めるしかない」
「BからSランクに上がるには、どのくらいの実績が必要なの?」
「さっきの話が本当なら、北の森で実力を磨き、全属性を扱えるようになり、自分を鍛えているあいだに得た素材や魔石の価値や数によって、プラチナランクへの昇格を約束しよう」
全属性持ちにはそれだけの価値があると、ギルマスは高らかに笑った。
「だから、今はBランクのクラスになるが構わないか?」
「はい!」
思っていたより、高待遇に思わず笑顔になる。
「北の森とギルドを往復するだけなら、半年は寄宿舎で住めばいい」
「いいんですか?」
「元々登録から半年間は、誰でも寄宿舎を使えるんだ。それに僅か13歳に過ぎない子供を無情に追い出したりしない。望むなら成人までいてもいい」
「ありがとう! ギルマス!」
「今日から俺が親代わりだ。そう思って頼っていいからな!」
ギルマスが優しくて、ボクは泣きそうだった。
親代わりだなんて言ってくれたのは、ギルマスが初めてだったから。
ボクは何故孤児院にいたのか覚えていない。
ただ捨てられたときに着ていた産着は、かなり上等なものだったとは聞いた。
ボクは孤児院を出るとき、それだけは手荷物に入れたくらいだ。
ボクの身元を探す手掛かりになると思ったから。
とは言えボクを簡単に捨てた家族だ。
話し合いが通じないなら、家を乗っ取ってやる! くらいの覚悟は持っていた。
セリアと共に生きるために地位が必要で、それをボクを捨てた連中が持っているなら奪う。
こんなことを考えるくらいには、この頃のボクは、セリアが殺された過去の痛手から立ち直れていなかった。
こうしてボクはBランクの冒険者となり、北の森に通う日々が始まったのだった。
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