消えた神子の登場
ドラゴンの背に乗って、太陽の光を浴びたボクの髪が、黄金色に染まる。
その様子を見た老年の大神官風の人物が、敬うように膝をついた。
ボクはきょとりと首を傾げる。
柱の聖女を奪い去ろうとしているボクに、どうして跪くのか、わからなかったからだ。
騎士たちが最新式の銃器を向けてきたとき、ボクも迎撃のため、魔法陣を展開しようとしていた。
生憎ボクは詠唱をつけるつけないで、魔法の強弱を操っていたので、無詠唱が一番威力が強い。
このときは咄嗟の事だったので、無詠唱で対応しようとしていた。
しかしその様子を見ていた跪いていた老人が、立ち上がって静止の声を出した。
「やめないか! あのお方に手出しはならん!」
「しかしこのままでは柱の聖女様が攫われてしまいます!」
「お前たちにはわからんのか! あのお方のお姿に見覚えはないのか!」
「「見覚え?」」
太陽の光により光り輝く黄金色の髪。
同じ色の瞳。
なにより女性的なその顔立ちが、騎士たちの心を打ったようだった。
「まさか」
「伝説の黄金色の大聖女オフィーリア様?」
「しかし彼は男で」
「年齢も随分幼い」
「忘れたか! 十数年前オフィーリア様が、懐妊されたままお姿を消されたことを! お生まれになるはずだった神子とともに!」
「ああ!」
なに言ってんだ? この人たちは?
そんな気分だった。
神子が消息不明。
それは父さんから聞いていた。
でも、それがボクと何の関係があるんだ?
ボクはただの捨て子だ。
時を逆流したおかげか、魔力は恐ろしいほど強くなり、自分も変わったと思う。
でも、それと神子の消息不明と伝説の大聖女とボクとなんの関係が?
『パパ。もう行こう。パパはここにはいないほうがいい。ママの二の舞になるよ』
「え? あ。うん。そうだね」
二の舞?
なにが?
フェリアはなにか知ってるのかな?
フェリアは一応竜王なわけだし。
『おじいちゃんも待ってる。早くママを連れて帰ろう』
一連の出来事はセリアも見ていたはずだが、特になにか反応を見せるわけではなく、ただ淡々と告げた。
「ディー。行きましょう。あなたまで神殿に関わる必要はないわ」
「ああ。うん。わかってるんだけど、あの人たちの様子が、なんか引っかかって」
自分の知らない自分の出生について、なにか知ってそうな人々の反応を前にして。
「ディー!」
『パパ!』
なにかを知っていそうなふたりも、ボクを急かす。
迷いがボクを支配していた。
「お爺さん。誰?」
「おお。お声を頂けた。光栄に存じますぞ。神子殿」
「なんの話? 言いがかりはやめてくれる?」
「神子様。あなた様は亡くなったと思われていました。母君であられる伝説の黄金色の大聖女。オフィーリア様が、あなた様を身篭られたまま、突然お姿を消されたからです。お腹にいるお子が、神の子。神子であると判明した直後でした。あなた様は神殿を統べるべきお立場にあるのです。あなた様のお望みが、柱の聖女様なら、誰も反対など致しませんものを」
「ふっざけるな! なんだよ? その選民思想? ボクが神子だから、セリアを与えてもいい? セリアはものじゃない! ボクらは自然に愛し合っているんだ! 一緒になることに誰の許可もいらない!」
許可がいるとしたら、それはギルマス、父さんくらいだ。
言いがかりにしても酷過ぎて、ボクは怒りで今にも魔法を使ってしまいそうだった。
「おお。神子様。誤解なさらぬよう願います。柱の聖女様は元々神子様の許嫁だったのです。それは神からのご神託で」
「もういい! これ以上きみたちの話を聞いていたら、ボクの常識のほうがおかしくなるよ」
『だから、忠告したのに。気にしてもパパのためにはならないって。人の世って色んな思惑が渦巻いてるから』
「本当だね。フェリア。もういい。飛んで!」
声に従いフェリアが空高く羽ばたいていく。
「神子様!」
「聖女様!」
「誰か! 今すぐ神子様を追うのだ!」
「しかし神子様はドラゴンに乗って移動していて」
「目撃証言を追えば良い! 我々は二度も神子様を失うわけにはいかぬのだ!」
「神子様。最後まで聞いて頂きたかった。柱の聖女様を皇帝に嫁がせようとしたことにも、こちらにも事情があって仕方がなかったのです。すべてを聞く前に拒絶しないで頂きたかった」
その声をボクが聞き取ることはなかった。
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