たったひとりの反逆+α
つけられるだけの力はつけた。
これ以上訓練に時間を割くのは、無駄な行為だ。
日程的に余裕が足りない。
どちらの組織に与して、セリアに近付くとしても、相手の身分が悪い。
一方は皇帝で、セリアは最高位の柱の聖女。
普通の立場では近づけない位にふたりはいる。
皇帝に近づくのは、今からでは難しいだろう。
入り込みやすいのは、やはり神殿か?
光魔法をSランクくらいなら使えるし、なんとなく使っていたエクストラヒールが、最上級の光魔法だと知ったのは、そんなに昔のことではない。
自分の力ほど自覚できないものはない。
あの時、ボクはそう思った。
エクストラヒールを使えれば悪くても神官に、他属性の魔法を使えるなら、その強さによって神官騎士にはなれるらしい。
ならそこを目指すか、冒険者ギルドに護衛の依頼が出ていないか、調べるか。
今できる行動としては、そのどちらかか。
「手っ取り早くギルドに行くか。それでダメなら神殿に突撃するしかないかな」
これからの方針を自分で決めて、ボクはフェリアを連れてギルドに向かって部屋を出た。
約束の日まで後数ヶ月。
ボクは気を引き締めていた。
ギルド内部掲示板前
「神殿関係の護衛依頼。護衛依頼、と」
セリアのための護衛依頼なんて、ギルドには出さないかもしれない。
でも、帝国に対して対面を保つために、数合わせとしてまた柱の聖女を守る楯として、冒険者で護衛の数を増やそうと考える可能性はある。
しかし、どんなに探しても、神殿からの護衛依頼らしきものはなかった。
ボクは諦めて受付に向かう。
「あら。ディランくんにフェリアちゃん、今日はどんな用事なの?」
「ギルマスは? 父さんは執務室?」
「後ろにいますよ、ディランくん」
レイナさんの優しい声にギギギと振り向いた。
そこには感極まって涙を流すギルマスがいた。
「噂で聞いてはいたが、本当にそう呼んでくれていたんだなぁ。初めて聞いた」
「ギルマス」
「なんだ? もう父さんて呼んでくれないのか?」
「本人前にして呼べないよ! 恥ずかしいんだから!」
「お爺ちゃま!」
「おう! フェリア! お爺ちゃまと呼んでくれるのか?」
「今まではパパが恥ずかしいからダメって言われてて、我慢してたんだあ。でも、もういいよね? パパ」
「うっ」
答えられない。
今まで隠してきたのにバレてしまったから。
恥ずかしいから隠してきたのに。
ここはもう開き直ろうか。
「父さん!」
「ディー」
「相談があるんだ。時間ある?」
「おう! 構わないぞ。可愛い息子の頼みだからな。孫ドラゴンのフェリアも来い」
「わーい! ありがとう! お爺ちゃま!」
ギルマスはボクとフェリアを連れて、執務室へと戻った。
お互いに向かい合って座り、ボクは腹を括って話し出した。
「ギルマスに父さんに今まで黙ってたことがあるんだ」
ギルマスは、父さんは両腕を組んで、黙って先を促した。
「ボクはまだ13歳だけど、14の頃の記憶があるんだ」
「どういう意味だ?」
「これから話すことを疑わずに聞いてほしい」
そうしてボクは長いようで、短い復讐劇の話をし始めた。
「ディーと柱の聖女セリア様が、同じ孤児院で育った幼馴染で、相思相愛の仲?」
「疑うならフェリアに聞いて欲しい。フェリアには自分の認めた両親がわかるんだ。ボクが懸想しているだけなら、母親はいないって答えるはずだから」
「フェリア?」
「ママはねえ。いつもパパの無事を祈ってる。セリアママはボクの大事なママだよ!」
「そうか」
「だから、ママを殺す帝国の皇帝が許せない! パパからママを奪う相手は全て敵だ!」
「フェリア」
ボクが驚いてフェリアの名を呼ぶと、父さんは顎に片手を当てて、悩むような仕草を見せた。
「帝国の皇帝と言えば、今セリア様に求婚しているはずだが、どうしてセリア様を殺すんだ?」
「セリアは元々皇帝からの求婚には、一度も応じていないんだ。神殿側が勝手に進めていっていると言ってもいい」
「ディーという存在がいるから、セリア様には迷惑な求婚ということか」
「セリアは帝国に招待された時、その場にはボクがいた。ボクを見た途端。セリアは言ったんだ。この求婚は断ると」
「ディーとセリア様が、相思相愛なのはわかったが、あまりにも無謀だな。若く自信に満ちた皇帝が、そんな無礼を許すわけがない。で? 神殿側は何もしなかったのか?」
「する暇もなかったよ。断られた次の瞬間、皇帝はセリアを斬ってたから」
「柱の聖女を殺したのか? 世界の支柱だぞ? 神の寵愛を受けし聖女だぞ? そんな真似をしたら、どんな神罰が降るか。信じられない」
「セリアの死を確認したとき、ボクは聞いた。慈愛に満ちた声を」
「なんて?」
「柱の聖女を救えるなら、ボクに機会を与えると。ボクは誓った。どんなことをしても、セリアは助けてみせると。そうしたらボクは13歳の旅立ちの日に戻ってたんだ。時が逆流して、何故か魔力も増えて」
「それから今まで未来を変えるため、自分磨きや仲間集めをやっていたというわけか」
父さんは難しい顔をしていた。
ボクがなにをやりたいか、大体わかっているんだろう。
それは無謀だと顔に書いていた。
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