第3話 あなたと結婚したい
第3話 あなたと結婚したい
「みんな、魔物を一撃で仕留めることはできないの?」セリは今日新しく組んだパーティーメンバーに尋ねた。
全員が呆然とした表情で彼女を見つめる。
「えっと……なぜですか?」パーティーリーダーが質問した。
「だって」
「魔物だって可哀想でしょう?」セリは無邪気な表情で答えた。
セリ・エルマ。元【不死の加護】のリーダー。現在はリーダー職を解かれ、脱退の意思も却下され、不死の加護の一員として活動を続けていた。
「それは……無理です……」リーダーは言いづらそうに口ごもった。
「私たちはただのBランクパーティーです。Sランクと比べたら……」他のメンバーも同調する。
ランクと実力の差は天地ほどもあった……
「そう……」セリは考え込み、魔物の死骸に向かって丁寧に祈りを捧げた。
「不死の加護のメンバーは、高ランク魔物でも一撃で仕留めると聞いたことがある」
「それはただの噂でしょう!」
彼らは小声で話し合い、視線をセリの傍に立つ王国最強の剣士カイル・ブラントに向けた。
「私たちにそんなことできっこないよ!」
「なんで彼女と一緒に任務を受けたんだよ!」
「不死の加護で内輪もめしてるらしいし、彼女がいれば絶対に死なないって噂もあるから」
ひょっとしたら正式にパーティーに加入してくれるかも……
「でもセリ・エルマって……」
「正真正銘の聖母なんだよ!」
(一撃必殺が難しいことなの……?)セリは心の中で思った。
(不死の加護のみんなは最初からできたはずだし、こんな低ランクの魔物なら……)
セリは立ち上がり、彼らを見回した。
「セリ、任務終わったら食事に行こう」カイルが楽しそうに提案した。
(本当に毎日一人ずつ監視に来るつもりなのね……)彼女は複雑な表情でカイルを見た。
「不死の加護を辞めると言ったでしょう、カイル」
「それにあなたたちには私の力はもう必要ない」
(私の能力は彼らには無意味になってしまった……)彼女は深く考え込んだ。
ならば、この能力を他の助けを必要とする人々に――不死の刻印を。
(でも……)今日組んだパーティーメンバーを見て、ためらってしまう。
(ダメ、誰に対しても平等でなければ……)そう心に決めた。
「あの……」彼女が口を開こうとした時、
「すみません、今日はこれで」リーダーが先に言った。
「魔物の死骸を提出しに行きますので、また機会があれば」
報酬は後で渡すとのことだった。
セリとカイルが街路を歩いていた。
「何食べたい?セリ」カイルは相変わらず楽しげに彼女の横にいた。
「教会でパンをもらえば十分です」セリはいつも通り淡々と答えた。
カイルは彼女の腕を掴んだ。
「今回は私が奢るから、ちょっといいものを食べよう」カイルは強く彼女の手を握り、微かな痛みを感じさせた。
「いいえ、まだ報酬も受け取っていないし……」所持金がない。
「大丈夫、私にお金がある」
カイルは彼女の手を引いて街を歩き、足取りは確かだった。
「以前は報酬の80%を寄付して、残りを7人で分けていたけど」
「それなりに貯金はあるんだ」特に高難度高報酬の任務ばかり請け負っていたから。
「だから食事をおごる余裕はあるよ」カイルは前を歩きながら楽しそうに話した。
「セリは自分の分も全部寄付しちゃったみたいだし……特別なものを食べさせてあげたい」
「きっと食べたことないものだよ!」
「結構です」彼女は足を止めた。
「そんなものには興味ありません」セリは彼の大きな背中を見つめた。
「高級な店ほど、食べ残しも多いでしょう……」それは食べ物への冒涜だ。
セリの声は固く、カイルは振り向いて彼女を見た。
「セリがそう思うなら」カイルは微笑んだ。しかしその笑みはどこか不気味だった。
「前みたいに、獲物を捕まえようか」
カイルが提案した。
「余ったら教会の子供たちにあげればいい」昔のように。
「ええ」セリは頷いたが、心に迷いが生じていた。
「堕ちた魂よ、安らかに眠れ。神の名のもとに、汝が残したものをこの世の恵みとなす」
神官固有スキル発動【神聖な成仏】【神聖な恵み】。
セリは祈りを終えると、ナイフを取り出し手慣れた様子で解体を始めた。
「教会に任せればいいのに?」カイルが尋ねた。
「いいえ、教会には人手が足りないし、死骸は早く処理しないと臭いますから」
セリは集中して作業を続け、カイルは静かに見守っていた。
全ての死骸が処理されるまで。
「これで半月は持つでしょう」セリは丁寧に包んだ肉の包みを見つめた。
「さっそく教会に届けます」
「待って、僕たちは食べないの!?」カイルのお腹が鳴った。昼から何も食べていない。
「果物を摘んだでしょう?」セリは傍らを指差した。彼女は普段から菜食だ。
「剣士なんだから、肉なしじゃやってられないよ!」カイルは困った顔をした。
哀れっぽい目で彼女を見つめる。
「そうね。でも私は全部処理しちゃったから、あなたが食べる分は自分で捕まえて」セリは言った。
「うん!」カイルは嬉しそうに承知した。
夜。
「結局また教会に来ちゃったな」カイルが言い、先に歩いていた。
セリは教会の入り口に立っていた。
「どうしたの?アジトに帰らないの?」カイルは振り向いて尋ねた。
「いいえ、脱退すると言ったでしょう」行く必要はない。
セリは冷たい口調で言った。
「私は教会に泊まります」
「でも傭兵の身分では祭司の仕事はできない。いつになったら私を解放してくれるの?」
「リーダー職を解かれ、小隊隊長も交代させられ、それでも離してくれない」
彼女は冷たい目でカイルを見た。
「やっぱり気にしてたんだね、セリ……」カイルはきまり悪そうに言った。
「僕も少し早すぎたとは思ったけど、王国の任務が入ってきて……」
「せめて名目だけでも隊長にしておくべきだと言ったんだけど、みんなが君の言うことを聞かなくなってるから……」
「それに最近リーダー職を再選挙するらしくて、ニースは他のAランクにやらせればいいって」彼女自身はやりたくなかったが、セリにさせるわけにもいかなかった。
カイルはべらべらとしゃべり続けた。
確かニースは言っていた……
「あなたは私に特別な感情があるのね?」セリは彼を見た。
私たちはそれぞれセリに特別な感情を抱いている。
彼女の目の前で、カイルの顔が少し赤くなった。
「僕はセリのことが……」彼はもごもごと言葉を詰まらせた。
「セリと結婚したい!」ついに勇気を出して告白した。
セリはその場に立ち尽くし、驚きの表情で彼を見つめた。
「もう傭兵も祭司もやらなくていい。結婚しよう!僕が養うから!家で待っていてくれればいい!たまに教会を手伝うのも構わない。セリには僕たち二人の生活に集中してほしい」
「結婚して、僕たちだけの幸せな日々を送ろう、セリ!」
彼は頬を赤らめ、興奮しながら語った。
「私……祭司になるつもりだし、結婚は考えていない……」セリは必死に顔を背けた。
カイルはうつむき、沈黙した。
「みんなの言う通りだ……」彼はゆっくりと口を開いた。
「君はいつも他人のことばかり気にして、僕のことをもう見てもいない!」
彼はセリの腕を掴んだ。
「僕が強くなったから?もう君の助けが必要なくなったから?」
「僕は必要だよ、セリ。君と結婚するのが夢だった」
「やめて、カイル……」彼の顔が近づいてくる。
「僕を助けて、セリ」顔がますます近づき、触れそうになった瞬間――
「ウィンドカッター!」魔術師固有スキル発動。
「剣気!」カイルは剣気を放って攻撃を相殺した。
闇から人影が現れる。
「越権行為だぞ、カイル」
その影は冷たく言い放った。
「まだ時間じゃないだろう、セリーネ」カイルは振り向いて彼女を見た。
セリーネが姿を現した――王国最強の魔術師。
「そうね。でも越えてはいけない線は決めてたはずよ」セリーネは冷静に言った。
「私たち5人と対峙する気?」手のひらに火の玉を瞬時に生成する。
「あなたがしようとしていることを他のみんなに伝えようか?」
二人の視線が火花を散らし、空気が張り詰めた。
「また後でな、セリ」カイルは手を離した。
「いつでも僕を選んでいいんだぞ」最後に彼女を見つめ、去っていった。
セリーネはセリの前に立った。
「彼が早く帰ったから、交代で私が付き添うわ」セリーネは彼女を見つめて言った。
「あなたたちは一体何がしたいの……?」セリが尋ねた。
「もちろんあなたを守るためよ、セリ」
「あなたは利用されやすいんだから」セリーネは手を伸ばそうとした。
セリはすぐにその手をかわした。
「自分で判断します」セリは強く言ったが、体は思わず後ずさりした。
「ふ~ん」セリーネは軽く応じた。
「それで、あなたは私たちをどう思ってる?」彼女はゆっくりとセリに近づいた。
「少なくとも私の助けは必要ないわ……」セリは壁際まで後退した。
「本当にそう思ってるの、セリ?」彼女はセリを壁に押し付けるように手を伸ばした。
「ええ……」セリは緊張して答えた。
セリーネは手を引っ込めた。
「まあ、もう遅いから私の家に泊まりなさい」セリーネは彼女に手を差し伸べた。
「いいえ、教会で寝ます」セリは顔を背けた。
セリーネの手は空中に残された。
「私たちにはあなたの助けが必要ないって言うのね……」
「今日は満月よ、セリ」セリーネは笑顔を浮かべながら、体内から膨大な魔力を放出した。
月光の魔女――セリーネ・ヴァイル。
セリは彼女を見つめた。
「刻印がなくても普段は魔力を制御できるけど、満月は別なの」セリーネはささやくように言った。
「私の傍にいないと、制御できなくなるかもしれないわ」