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そして、彼女は消えた。「異世界に行く」と言って

幼馴染が異世界に行く、と言って家出した。

周りは失踪事件だ、誘拐だ、家出だと騒ぐ中、そんな世迷い言を彼女の両親に言えるはずもなく、彼女は行方不明として処理された。

しかし、僕は知っていた。彼女の言葉が本気であると。それから5年。彼女の残した手がかりを元に、異世界へ行く方法を見つけた僕は、今までの全てを捨てて彼女のもとに行く決心をする。

初恋を、終わらせるために。


 僕には、幼馴染がいる。幼稚園の頃からずっとそばにいて、腐れ縁と言われるレベルの付き合いになっていた幼馴染。どこに行くにも一緒で、色んな事を経験した幼馴染が。


「飽きちゃった」


 唐突過ぎる彼女からの告白は、そんな一言から始まった。


 中学3年の夏休み前、進路をどうするか、一緒の高校に行きたいね、だとかそんな話題とともに受験勉強に精を出す時期。

 帰り際、校舎裏の自転車置場に呼び出されて言われた僕の気持ちを想像してほしい。もう少し甘酸っぱい何かを期待して向かったというのに。


「ずっと思ってたの。今の生き方に不満があるわけじゃないんだけど、やっぱりなにか物足りない」


 普通に考えれば、厨二病をこじらせて自分とはなにか、悩み抜いた若者のセリフに他ならない。大抵はその後 自分探しとか言って突飛なことをやったり、旅をしよう、と言葉だけの計画をしてそのまま日付だけが経つ…のだが。この幼馴染はフットワークだけは軽いので行動に移してしまう。


 出会いは幼稚園の頃。思えば彼女はその時から”浮いて”いた。何でもそつなくこなせるし、人当たりも良い。だからこそ、彼女がやりたいと思ったことはできたし、行動は全て結果として表れた。確かに、そんなわかりきった結果だけの人生だと、少しずつ毎日が色褪せていったのかな、と今になって思う。 

 顔は美形ではなく可愛いタイプ。運動が得意な割にはそこまでしっかりと筋肉がついているわけでもなく、なんとなく眺めると「この子、運動してるのかな?」となる程度の体系。

 胸は……なだらか、というのが精一杯の抵抗。筋肉がついているのだから多少盛ってくれればいいのに、と思うレベルで断崖絶壁。ちなみに本人に冗談でそのことをからかったら、拳で返答が来たのでこの話題はタブーである。

 

「だからね。私、行ってみようと思うの」


 ほら来た。小学生の頃、暇だからという理由で200km歩かされた記憶が蘇った僕としては、今度は自転車でも使って本州にでも行くのかなと考えていた。あのときは一週間以上歩きっぱなしで、なんだかんだ優しい人にご飯とかお風呂とか借りながら苦労し


「異世界に」


異世界?


「そう、異世界。聞いたことあるでしょ。アニメとか漫画とか」


ISEKAI?


「何度も聞き返さないでよ。こっちは大事な話で呼び出してるのに、真剣に聞いてくれてないのかと思うでしょ」


 さすがの僕も耳がおかしくなったかと思った。周囲では小煩いセミの鳴き声と、まわりの部活の子たちの声だけが酷く遠く聞こえる。外国のことを異世界と表現しているのかと一瞬考えたが、こいつの言うことだ、その場合はきちんと海外と言うはずだろう。


 つまり、幼馴染は本気で言っている。異世界に行くと。そして、ふと気づいた。きっとこれはお別れの挨拶なのだと。


「多分さ、このまま過ごしてても、人生で本気を出すようなこと、ないと思うのよね」


 実際、彼女を近くで見ていた僕としては、その言葉は正しいように思えた。運動は男子に負けず、勉強も特に不得意科目があるわけでもない。その割には全力を出している雰囲気は一切なく、全力を出している所を一度くらい見てみたい、と思う程度には余裕に満ち溢れていた。


「きっとこの世界って、私には小さいんだと思うの」


 だから異世界に?ちょっと暑さで頭が沸騰しているのではないだろうか。水でもぶっかけてやれば少しは気持ちも落ち着いたりしないだろうか。


「で、色々悩んだりしてたんだけど、この前やっと異世界に行く方法を見つけたの。すごいでしょ」


 普通は異世界に行く方法など見つからないのだが。ドヤ顔で褒められ待ちしないでほしい。危ないオジサンたちに騙されていないか心配になってきた。


「まぁ、そんなわけだから、この後面倒かけると思うのよね。悪いけどよろしくね」


 そんな理不尽な。要するにこいつは、自分がいなくなった後のあれこれ面倒なトラブルを全て押し付ける気なのだ。そもそも、いつもであればなんだかんだ僕も一緒に連れて……


「そりゃね、私としてもアンタを連れていきたいのよ。でも、まだ覚悟できてないでしょ」


 そりゃそうだ。家族に友人、ペットのハムスターに…それに妹。今まで大体のことは一緒に行動してきたが、流石に異世界ともなればすぐには決められない。


「私、明日には行こうと思ってるの。だからさ」


「もし、覚悟できたら。追ってきなよ。真白」


 そうして彼女-吉田茜-は、この世界から姿を消した。

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