プロローグ
深く濃い霧のかかった日でした。
親に捨てられ、帰り方も分からず、行くあてもなく、
ただ長い時間その場に座っていた。
周りを見ても深い霧と、木々におおわれていました。
座っていても仕方が無いので、立ち上がり、膝についた泥をはらった。
自分の身の回りを確認してみる。
白いシャツ、黒のカーディガン、黒のショートパンツ、ショートブーツを身に付けていて、
腰からは4枚の白く、淡く輝く羽が生えていた。
「───っ……ひゅっ……」
声を出そうとしたが、空気の通る音しか出なかった。
後ろから突然風が吹き、目の前が金色に変わった。
それが自分の髪の毛だと気づくのに、少し時間がかかった。
髪を直し前を向く。
その場にいても仕方が無いので歩き始める。
道が悪く、ヨタヨタと霧がかかった森の中を歩いていく。
少し歩き進めると道の悪さに慣れてきたのか、少しスムーズに歩けるようになってきた。
それから数十分ほど歩いた。
霧で湿り始めた服や髪が体に張り付いて気持ち悪い。
長いこと歩き続けているため息も上がってきた。
進んでいるのか、同じ場所を回っているのかすら分からない。
歩いても、歩いても、霧と木々しか見えない。
「……ふっ……うぅ……。」
じわっと目に涙が浮かんできた。
声も出せず、周りに助けを求めれる人もいない。
両親に捨てられ、助けも求められず、何も出来ない自分に、ただただ絶望しかなかった。
立ち止まり、膝を抱きしめ俯いて座り込んでしまった。
座り込んでから十数分経った時だった。
──さくっ……さくっ……さくっ
何かが枯葉を踏む音が聞こえた。
その音を聞き顔を上げ、前を向くと、奥の方で光が動いているのが見えた。
その光を見るやいなや立ち上がり、走り出した。
「……はっ……はっ……」
霧で湿気りぬかるんだ道を走るのは息が上がる。
だが息が上がるのも気にしないで、光のある方へ走った。
──がっ……ズサァ…
足に棒だろうか、何かが引っかかり、転んでしまった。
手や膝に走る痛みに、また目に涙が浮かんできた。
その時…
「おや…迷子の子供がいるねぇ」
優しく、耳に心地いい声が聞こえ、その瞬間周りの霧がはれた。
声をした前を見上げると、見上げるのが大変な程、背が高く、綺麗な人がたっていました。
星のように光を反射させ、7色にも見える長く美しい髪。
星空を写したような青と白を基調とした服。
自分が見つけた光の正体であろう、左手に持っている杖は、とても長く、先端には球体が浮かんでおり、その周りを幾何学的な模様を描いたいくつもの光輪が球体の周りを回っていた。
見た目では男性か、女性か分からないが、声色から男性と感じた。
生まれてから見た事のないほどの美しさに、顔を上げ、ただ見つめることしか出来なかった。
しかし、いつまでも寝転んだ状態では失礼だと思い、あわてて立ち上がる。
すると目の前の人物は、右手を顔に当て、自分を見た。
「さてさて、腰の羽と頭上の光輪を見る限り、君は天使の子供のようだね。光輪の模様からまだ力に目覚めて間も無い子だ。」
見ただけで、自分の状態を当てていく。
「こんな所に居るとは君は迷子かな?」
それを聞き、ふるふると首を横に振る。
「ふむ。ではどうして君はここにいるのかな?」
それを聞かれた瞬間、脳裏によぎったのは、自分を失敗作、出来の悪い子、気味の悪い子と言う母の姿と、
この森に自分を連れてきて、お前はいらない子だと言う父の姿だった。
「…ひゅっ……て……」
「おやおや、声が出ないのかい?どれ、喉を見せてごらん。」
そう言い目の前の人はしゃがむ。
恐る恐る近づき、目の前の人物に喉を見せる。
そっと喉に手を当てられ、少し考える動作を見せた。
「どうやら声を出せないように、喉に呪文がかけられているね。今、解呪してあげよう。」
目の前の人物は目を閉じ、手を喉に当てたまま何かをボソッと呟き、数秒後手を離した。
「これで喋れるはずだ。何か喋ってごらん。」
「…あ…あーーっ…」
「良かった。無事声が出せるようになったみたいだね。さて、もう一度聞くが、君はどうしてここにいるのかな?」
「ぼっ…く。ここ、に…すてられ、た。いらない…子って。」
長い事声を出せなかったからだろうか、途切れ途切れな言葉で答えた。
「…そうかい。それはまた珍しい…。……君はこれからどうしたい?」
そう聞かれ少し考える。
脳裏に浮かぶのは、先程と同じように父と母、両親の姿だった。
その姿を思い浮かべ、思った事は、
「変わ、りたい……!ちち、と…は、はを…見返し、たいっ!だから、僕、を…連れてって!」
このチャンスを逃したら次は無いと、自分は変われると信じて。
「なるほど…自分の考えをしっかり言える良い子だね。」
そう言うと、右手で自分をふわりと抱き上げ、杖を持った左手で転んだ時に付いた泥を払ってくれた。
「では、一緒に行こうか。」
そう言うと、何処かへ歩き始めた。
迷うことなく森の中を歩いていく。
しばらく揺られていると、少しづつ眠くなってきて、肩に頭を預け始めた。
「疲れただろう、今はゆっくりおやすみ。」
そう言われ、瞼がどんどん下がっていく。
「次目を開ける時は、君が見たことのないような、面白く、楽しい世界が待ってるよ。」
その言葉を最後に自分は眠ってしまいました。
───これが義父との出会いでした。
初めまして!雪乃嬢と申します。
ミストサーカスをご覧頂きありがとうございます。
数年間温めて温めたプロットと設定書がようやく小説本文になり、投稿するとが出来ました…!
初投稿のため至らない所、誤字脱字などがあると思いますが、何卒ご容赦下さい…!
よろしくお願い致します!