料理上手な夫とメシマズ妻の、ほのぼのご飯。2
────パァァァスタァ!
それは、まるで絡み絡まり、一塊になった妖怪のごとく────。
「ちゃんと温かいうちにバターで解さなかったからだろ? オリーブオイルでもいいって前に言ったよな?」
「もぉ! 何でそういうツッコミ入れるかなぁ⁉」
夫が予期せぬ残業になるときは、私が夜ご飯を作っている。共働きなのだが、なぜか! 夫がご飯係なのである。
今日は部下が盛大なミスをしたらしく、夫も連帯責任で居残りしていたらしい。
絡み合う妖怪ことパスタを、フォークからお皿へ、ベチョッと滑り落とした。
「ブフッ! 音が酷い!」
夫がお腹を抱えて笑っているが、私は不機嫌の極みだ。
頑張って作ったのに。
麺を茹でて、パウチのミートソース温めただけだけど。
「何でチンしても解れないのぉ!」
「うんうん。帰宅に合わせて再加熱してくれたんだよね。ありがとうね」
それより、ちょっと気になることが……と夫が言葉を濁しつつ聞いてきた。
麺が微妙に茶色いのが気になるらしい。
細かいこと気にするヤツだなぁ。
「ちゃんと味付けしたんだから、色付くでしょ」
「あ……じつけ? 麺、に?」
何を驚いているのか分からない。あれか、私が味付けにこだわったりしたから、驚いているのかな?
「すみません、そこじゃありません」
「なぜに敬語⁉」
料理した手順を説明しろと言われたので、覚えている限り話した。
「確か、お湯を沸かして」
「うんうん」
「塩をひとつまみ入れて」
「うん。まぁ少ないけど……うん」
「お砂糖とお醤油と──」
指を折ながら思い出していたら、夫が手のひらを突き出してきた。
「砂糖と醤油入れたの⁉」
「入れたけど?」
「え、なんで『当たり前』的なアレなの⁉」
夫が衝撃を受けたみたいな顔をしている。あいも変わらずオーバーリアクションな人だ。
「それでね、みりんはどうしようか悩んだんだけど」
「な、悩んだんだ?」
「みりんって、お酒でしょ?」
「分類的には……そうだね」
「だからね、棚にあった白ワイン入れといた」
「っ──⁉」
夫が慌ててキッチンに走って行き、棚からワインを取り出して、あからさまにホッとしていた。
「どしたの?」
「いや、どんだけ使ったのかの確認をね……ちょっと高いやつだったんだよね。良かった、ほとんど減ってなかった」
ボソボソと言っているから、換気扇の音であんまり良く聞こえなかった。
夫がテーブルに戻って来て、絡み合う妖怪たちを食べ始めた。
「ん、なるほど。言われると、ふわりと醤油の風味がするね」
「美味しいでしょ?」
「うん。なぜか深みが生まれててびっくりだよ。美味しかったよ、作ってくれてありがと」
よしよしと頭を撫でてくれたから、今日の暴言の数々と事情聴取も、まぁ許してやろう。
あと手の込んだパスタは二度と作らないって決めた。
「まって、簡単なパスタも禁止にしたら、もう作れるものが──」
「簡単? 作れるものが?」
「あ……いえ、何でもないです」
「あーあー。今日は頑張ったしぃ、明日は生春巻き食べたいなぁ。海老たっぷりのやつー」
プイッと顔を背けながらそう言うと、夫はクスクスと笑い出す。
「はいはい。明日は海老の生春巻きと、生ハムとかの洋風生春巻きもしようか。クリームチーズはあったかなぁーっと」
お皿を洗って明日のご飯の準備。
明日はきっと、美味しい美味しい生春巻きを、お腹いっぱい食べられるはずだ!
頑張って料理したかいがあったなぁ。
─fin─
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