シフクノオト
レビュー執筆日:2019/9/5
●シリアスさもありながらもポップさを忘れず、それゆえに一つの世界観が表現された一枚。
【収録曲】
1.言わせてみてぇもんだ
2.PADDLE
3.掌
4.くるみ
5.花言葉
6.Pink~奇妙な夢
7.血の管
8.空風の帰り道
9.Any
10.天頂バス
11.タガタメ
12.HERO
前作の『IT'S A WONDERFUL WORLD」で「ポップ」を徹底的に追求したMr.Children。前作はどちらかというと明るい楽曲が多い印象があったのですが、今作はシリアスな作風の曲が増えているように思えます。『掌』は「キスしながら唾を吐いて」等といったフレーズが印象に残りますし、『Pink~奇妙な夢』はタイトル通りリスナーを奇妙で陰鬱な世界へと誘います。『タガタメ』は曲が進むにつれてボーカルが感情のこもったものになっていく様がこれまた非常に印象に残り、「子供らを被害者に 加害者にもせずに」という歌詞もあって強く胸を打つものがあります。また、『HERO』は曲調はMr.Childrenらしいストリングスを取り入れたバラードでありながらも、「駄目な映画を盛り上げるために 簡単に命が捨てられていく」のように歌詞には憂いを感じられる部分があります。
また、さらに興味深いのは、そういう曲であっても彼らが持つポップさが充分に発揮されているというところでしょう。『掌』はサビで韻を踏んで分かりやすく展開していますし、『タガタメ』は「タガタメダ タガタメダ」等といった部分でリズミカルに歌って上手くインパクトを表現しています。これまでの彼らの楽曲の中でシリアスな作風のものが無かったわけではありませんが、本作に収録されている曲においてはこれまで以上に「重い世界観」と「キャッチーさ」が上手く結び付いているように思えます。なので、『PADDLE』や『Any』のように明るい雰囲気の楽曲が入っていても不自然さは感じられず、まさにこのアルバム一枚で「憂い」と「明るさ」が入り混じった世界観を表現している、と言えるでしょう。そう考えると、『HERO』は最後に収録されていることもあって、このアルバムを総括する一曲となっているように感じられます。
Mr.childrenのディープな部分とポップな部分を同時に感じられる本作。前作とは少し違った意味合いで、「Mr.childrenはシングル曲しか知らない」という人が初めて聴くのに適したアルバム、と言えるかもしれません。
評価:★★★★★