失せもの探し
閑話なので短いです
豊島には国の中心都である豊ぶ斉ざいを含む大きな四つの区分に分かれている。
都の豊斉、西の戸室、東の布津母、東北の佳津真。この四分の名称は豊島平定以前に分かれていた勢力の名残であった。
豊斉による統一が起こり、山脈や海峡によって分断されていた四国すべてが参加となったおりに、当時の将軍が各領の実質的な統治の多くを許したのだ。
そのためこの布津母を含む三国は、その姿を国から領区に変えて統治されている状況だった。
「ゆえにこの度の政。静観するわけにはいかん」
「然り然り。豊斉はともかくとして戸室や佳津真に手柄を取られたとあってはこちらの立つ瀬がありませぬ」
「それゆえの、この度の一計でございましょう?」
町の中心に天を突くばかりに建てられたかつての国城、布津母城。
その一角に設けられた大広間に集まった四人の男たちが口端を吊り上げながら
今後の展望について話し合っていた。
その束帯姿から格式ある者たちであることには違いないが、
その口から洩れる相談事にはどこか下卑た含みがこもっている。
「この度私が聞きつけました帝の『失せもの探し』の噂。至極眉唾な話ではありますが、
最後の最後に布津母の我々だけが何の手も付けず仕舞いだったとなれば……」
「他の勢力、とりわけ戸室の連中に弱みを見せることになりかねん。
実際のところ『黄泉がえりの縁』などという絵空事を見つけられるわけもないが、
『我々が最も早く捜索を開始した』事実は残る」
「幸い現帝ももう長くはない。最後の妄執に付き合い、次代の心象を得ると割り切って行こうではありませんか」
敬うべきものの死期を笑いの種にして肩を揺らす三人の男たち。
その中で唯一、一人だけ先ほどから口と目を閉じたまま、つむじを糸で引かれたように姿勢を崩さない男がいた。
この会話の中に自分が口にすべきことはないと案に主張する、その拒絶にも似た態度に気が付いた三人は笑みを抑え聞き直る。
「先ほどから一人黙っておるのがいると思えば、上倉の。偉大なる帝にこのような物言いは不遜だと申すか。
我らに言わせてみれば、あのような耄碌者をいまだ心から担ぎ上げる豊斉殿が理解できんよ」
「然り然り。政権を失って何年もたつというのに、いまだ冠として機能させているだけでも十分な配慮にほかならん」
「一人だけ素知らぬ顔で静観を決め込むのはいささか不公平。
言いたいことがあれば何とぞ申せばよろしいかと」
自分たちの言動を無言によって糾弾されたと感じた三人は先んじて口々に自信を正当化する言葉を並べ連ねる。
勝手に多くを口にした後に、黙っているのは狡いと、ついには子供じみた主張を始めるものまで出てくる。
その物言いに苦笑を浮かべそうになるのを抑えつつ、上倉季永は目を閉じたまま口を開く
「私が貴方がたに問いたいことは一つだけです」
自身と同格の男三人に詰め寄られているにもかかわらず、その声には媚びも怯えも遠慮もない。
そもそも後ろめたさなどないのだ。
実際上倉自身、帝へ心からの忠を持っているかと聞かれれば首を横に振るしかない。
ならば何が彼を閉口させたのか。
「死者の蘇りすら可能とされる伝説の秘宝『黄泉がえりの縁』。
伝承の出自すら判明しておらず、分類すればお伽噺の類に違いありませんでしょう」
ただ純粋に、呆れや哀れみすら内包した声で一言、彼は言い放つ。
どうにも解せなかったのだ。彼らが先の話で前提としているある一点が。
「貴方がたはなぜ初めから『そんなものなどない』と端から確信をもっておっしゃられるのだ」
曰く、伝説の秘宝は存在する。探す前からその存在を否定するのは愚かなことだと、
上倉は冗談でもなんでもなく、大真面目にのたまった。
三人の男たちはその眼力ともいえる視線を浴び冷や汗をかき、生つばを飲み込む。
その瞳の奥に宿る狂気にも似た意思を彼らは垣間見たような気がした。
窓の柵ごしから洩れる明かりに角度がついてくる。
時分はもうすぐ正午に差し掛からんとする頃合いだった。