「なろうテンプレ」は書きたくない!? そんなあなたが「非なろうテンプレ」で「小説家になろう」から作家デビューする方法を考察してみた
先日SNSで
「テンプレを使用せずに作家を目指したい、という相談を受けた」
というのが話題になっていた。
それに対しての回答や、周囲の反応は取りあえず置いておいて。
このエッセイでは、テンプレとはいわゆる「なろうテンプレ」で、異世界転生転移、ハイファンで言えば追放ざまぁ、異世界恋愛だと婚約破棄からの元婚約者ざまぁ、悪役令嬢からのチヤホヤ、だとする。
こうしないと「テンプレ」には「物語としてのテンプレ」みたいな意味を内包してしまうので、それは別で考える。
このエッセイでのテンプレ、といえば、上記の「なろうで流行っているテンプレの物語」だとご理解頂きたい。
では、テンプレ要素を除外して物語を書き、作家になるにはどうすれば良いか?
というのが相談者の悩みで、それは恐らく
「人と同じ様な物語を書きたくない、自分しか書けない物語を紡ぎたい!」
という、まあよくある話とも言えるし、テンプレを書いている作家たちが、どれだけ現実に折り合いをつけようとも、心に燻る思いでもある⋯⋯かも知れない。
さて、このエッセイでは「じゃあ公募でデビューすれば?」みたいな、身も蓋もない話については省く。
何故なら、私は公募に関して全く知識が無いからだ。
なので、あくまでも「小説家になろう」から、「なろうテンプレを書かずに作家としてデビューする」ということについて考察する。
考察する、と書いたが
「どうすれば、非テンプレで書籍化できるのか?」
という方法論を「解説」する訳ではない。
そんな方法など私は知らないからだ。
ここから考察するのは
「非テンプレで書籍化する場合、このような手順になるのではないか?」
という、私の予想というか妄想である。
SNSやエッセイなどで、「小説家になろう攻略法」みたいな話は溢れている。
その多くは「如何にしてランキングを上がるか」という話に集約されることが多い。
だが、テンプレ作品だろうと、非テンプレ作品だろうと、作家としてデビューする、つまり作品が出版されるのに必要な事実は一つだ。
「編集者の目に止まり、本にしたいと思われること」
これしかない。
これが無ければ、いくらランキングを上ろうが、作品は書籍化しない。
逆に言えば、編集者の目に止まり、本にしたいとさえ思って貰えれば、ランキングに載らなくても作家としてデビューできる(その打診を断らずに受ければ、の話だが)。
では、編集者はどのような作品を求めているのか?
それは各編集者によるだろう。
ブックマークや評価に拘らず、あくまで今までにないアイデアやストーリーの作品を出版したい、と思っているかも知れない。
逆に、小説家になろうにおいて、数字、つまりある程度のポイントを稼いだ作品を求めているのかも知れない。
どちらにせよ、編集者に「この作品を本にしたい」と思って貰えなければ本にはならない。
ここで
「いや、これからはAmazonからや、個人出版、各種Web小説投稿サイトのインセンティブ強化、個人サイトによる作品の発表などで、出版社に頼らない形の作家が現れるだろう」
みたいな話があるかも知れないが、ここでは考えない。
それらを駆使して成功できる作家は、そもそも小説家になろうで打診を受ける事など容易いだろう。
ではここで、非テンプレ作品の仮のタイトルを付けてみる。
非テンプレに拘るわけだから、長文で粗筋を兼任したようなタイトルは避けられるだろう。
てなわけで、非テンプレ作品の仮題は
「Eternal Brave ~約束の地~」
とでもしておく。
あらすじは
「肉体的な頑強さと蛮勇こそが尊いとされる世界『エスターミルド』。
ここには三つの大陸、『バルハサール』『エッドドリオ』『シュラクミサ』があり、その全てを支配せんと、常に108の神々、その信徒たちが争っていた。
そんな中、『シュラクミサ』以外の二つの大陸を支配下に置いた強き神、アーバンクレイグの信徒たちからなる組織『アデルファイス』に村を滅ぼされた少年リロイは、108の神々の中で、最も信者の少ない『知恵の神エリシ』に命を救われ、その縁で信者になり、エリシ信奉者達の組織『エリシュオン』を一人で立ち上げる。
少年リロイはエリシの導きによって、蛮勇が支配する地エスターミルドで、知略を行かしてエリシュオンを指揮、拡大させ、集まった仲間と共に成り上がっていく。
後に「エターナルブレイブ」と呼ばれる、気弱な少年リロイの戦いが、今、幕を開ける!」
と、こんな感じにしてみる。
具体的な説明は省くが、このタイトル、あらすじは、恐らく多くの「ランキング研究者」たちから見れば
「絶対やっちゃダメな事のオンパレード」
となっているかと思う。
ただ、この略称「エタブレ」は
「中身は、編集者が読みさえすれば、そのクオリティから出版を検討されるほどの傑作」
と仮定する。
てなわけで、まず第一段階の話になるが、非テンプレ作品で作家デビューを目指す場合、これは言うまでもなく当たり前の話なのだが
「どんなあらすじやタイトルであれ、編集者の目に止まり、読んで貰えさえすれば、本にしたいと思われるような傑作」
を書かなければならない。
では、そんな傑作は書けない、とした場合。
本は出せないのか?
実は、そうでもない。
小説家になろうで、読者に作品を読んで貰う場合、二つのルートが存在する。
「なろう内ルート」
と
「なろう外ルート」
だ。
「なろう内ルート」については後述するとして、先ずは「なろう外ルート」について説明する。
このなろう外ルートとは、簡単に言えば
「小説家になろうの外部から、読者を誘引する方法」
だ。
芸能人が賞を取り、本が出版された。
芸能人ということで、作品への注目度が高まった。
こういったケースは幾つか存在する。
また、昨今ではコミカライズした作品が、続きを知りたいと集まった読者により、再度日間ランキングに載ったり、というケースもある。
こういった「外部から読者を連れてくる」というのが、なろう外ルートだ。
ただ、「テンプレを書かずに作家としてデビューしたい」という以上、まだ作家としてデビューはしていない、と仮定されるので、下の
「既に発行された商業作品から読者の流入」
というルートは閉ざされている、と考えるのが自然だろう。
なので、作家としてまだデビューしていない人物が、なろう外ルートで読者を誘引するとしたら
「作家としてではなく、別の実績」
が必要になる。
例えば、SNSで数万人のフォロワーがいたり、YouTubeで数十万の登録者がいる、その他、何かの分野で有名で、発信力のある人間が
「小説家になろうで作品を投稿したので、是非読んで下さい! 評価を依頼すると規約違反らしいので、あくまでも評価は面白かったらでお願いします!」
とでも告知すれば、その作品の注目度は上がるだろうし、ランキングに載る可能性は高まる。
元々持っている「数字」の「広告効果」から、編集者が書籍の打診を行う可能性もあるだろう。
内容も「エタブレ」のような傑作でなくても、例えばその分野で成功するまでの苦労や裏話などを小説形式で、半ドキュメンタリーのような形で発表すれば、ますます興味を持たれやすいかも知れない。
ただ、非テンプレで作家になりたい、と考えている人からすれば、ここまでの話は
「いや、そういう事じゃなく」
ってな感じだろう。
むしろ、仮にそういった実績があってもそれに頼らずに作品を評価して貰いたい、と考えそうな気もする。
となれば、なろう外ルートは「非テンプレで作家としてデビュー」からは除外して考える。
となると「なろう内ルート」という事になる。
小説家になろうで、新規読者が作品にアクセスする場合には、私が思い付く範囲では以下のどれかだ。
・各種ランキング。
・完結作品一覧。
・作者の別作品からのリンクやマイページ
・イチオシレビュー。
・お気に入りユーザ機能による、作品投稿のお知らせ。
・更新された連載小説。
・新着短編一覧。
・活動報告などから。
・気に入った作品の感想欄に書き込んでいるユーザの、他のブックマーク作品。
他にも見落としがあるかも知れないが、およそこのあたりとなる。
この中で一番強力に読者を誘引するのは、言うまでもなくランキングだ。
特に日間総合ランキングや、異世界恋愛、ハイファンタジーといった各種ランキングの上位になれば、それだけで放っておいても読者は作品を読みに来る。
また、冒頭で言った「編集者の目に止まる」という目的も達成しやすいだろう。
ただ、当たり前だが、投稿したら直ぐにランキングに載る、何て甘い事はない。
その前段階が必要だ。
これからの話をする上で、読者が何を持って作品を選ぶのか、という事を考えてみる。
読者は、面白い作品を選ぶ訳ではない。
面白そうな作品を選ぶのだ。
何故なら、ランキングに載ろうが、人に勧められようが、話題になっていようが、小説は読まなければ自分にとって面白いかどうかなんてわからないからだ。
この「面白そう」には、幾つもの判断材料がある。
「ランキングに載っている」
「レビューが書かれている」
「タイトルが面白そう」
「前にこの作者の作品を読んだが、面白かった」
など。
この一番下、つまり作家の実績だが、なろうではなかなか積み上がらない。
なろうでは、いわゆる「作者読み」は、極端に少ないと言われているし、多くの作家が実感している。
ここで「逆お気に入り入りユーザ」の話をする。
小説家になろうには、ユーザを「お気に入り」に入れる事ができる。
「お気に入り」に入れた作家が、活動報告や作品の更新を行うと、ユーザのホーム画面に通知される。
この、お気に入りを「自分がどれだけお気に入りにして貰っているか」を表したもの、つまりSNSで言うところの「フォロワー」が逆お気に入りユーザだ。
ただ、この逆お気に入りユーザたちは、作品が投稿されたから、すぐに作品を読んでくれるとか、評価をしてくれる、という訳ではない。
それこそ、SNSを想像すればわかりやすい。
仮にフォロワーが一万人だとして、呟く度に一万の「イイね!」が貰えるか? というとそんな事はない。
一桁二桁なんてザラにあるだろう。
だから、逆お気に入りユーザが100人いるからランキングに載れるぞ! とはならない。
とはいえ、恐らく累計上位の作者たちのような、逆お気に入りユーザが一万とか二万とかになれば(たぶんその位いると思われる)、新作を投稿すればランキングに入る可能性は高いと思う。
これは予想だが、1000や2000では逆お気に入りユーザの力で毎回ランキングに入る、みたいな事は難しいと思う。
因みに私の逆お気に入りユーザ数は649。
「農閑期の英雄」という作品の時に60くらいになり、「俺は何度でもお前を追放する」の簡易版、完全版でそれぞれ250、300ちょっと増えた。
この三作品の「ユニークユーザ」の合計は2021/11/8日時点で124万人。
日を跨いだ場合の重複なども考えると、ざっくり、ユニークユーザのアクセス2000回に一人。
つまり、逆お気に入りユーザが一万人の場合、単純計算でユニークユーザのアクセスが2000万回必要、と言うことになる。
なぜこんな話をしているか、というと、これはなろう外ルートでも話したが
「作品の質以前に、まず持っている数字が物を言う」
というのは避けられないからだ。
これはテンプレを書こうが、非テンプレを書こうが変わらない。
逆お気に入りユーザが仮に500人だとして、それだけでランキングに載ったりは出来ないにしても、そのうちの一人でも二人で評価やブックマークをしてもらえたら、ギリギリランキングに載れる、という事もあるだろう。
実際、私は「たった20pt」で、ハイファンタジーランキングの二位に甘んじた事がある。
読者から見れば単なるランキング上位作品だとしても、それは、ブックマークによる2ptと、評価の最大10ptの積み重ねなのだ。
なので、ランキングに載るためのポイントだけでなく、あらゆる数字を積み上げることが、作家として活動するのには有利に働く、ということだ。
じゃあ、何の数字も持たない作者が、非テンプレではあるが傑作を書いた場合、その初投稿はどうなるのか。
なろう内ルートで、唯一読者の目に触れるのは
「投稿された連載小説」
これのみだ。
トップページを数回下にスクロールし、表示される10作品。
この「投稿された連載小説」から、どの程度読者が作品を探すのか⋯⋯?
正直、わからない。
個人的な事を言えば、新着一覧から作品を読んだ事などない。
大抵ランキングから探している。
とにかく、すぐにアクセスできるランキングや、完結一覧を飛ばして「投稿された連載小説」まで画面をスクロールしてくれた、貴重な読者だ。
そしてまずは、そこまでたどり着いてくれた読者による「十分の一の審判」を突破しなければならない。
もしかしたらその読者は、上から下まで眺めて、どれも選ばないかも知れない。
しかも、投稿のタイミングによっては、トップページに表示される事もなく、あっというまに埋もれていく。
仮にトップページに載っても、10分か、20分。
次々作品は更新されるので、作品はすぐに読者の目には見えなくなる。
恐らく何の実績もない作者の、非テンプレタイトル、クリックしてくれる読者は10人前後だろう。
その10人に、出版社の編集がいるか?
恐らくいない。
ブックマークや評価をつける読者は?
10人だと、精々一人か二人だ。
0でもおかしくない。
下手したら、その半数はあらすじを見て引き返すかも知れない。
もう、これは身も蓋もない話になってしまうが、「Eternal Brave」と「追放されたら覚醒してモテモテになりました! 元パーティーメンバーが苦労してるらしいけど知りません!」が並んだ場合、クリックされるのは圧倒的に後者なのだ。
小説家になろうに投稿される、多くの作品は
「面白いか面白くないか以前に、読者に読んですら貰えない」
のである。
読まれない訳だから、傑作もクソもない。
だからこそ、テンプレを駆使する作家たちは、仮にどれだけ逆お気に入りユーザがいようが、その上に胡座をかかず、今もそこそこ読まれている過去の自作から「新作書いたので読んで下さい!」とリンクを貼る。
そこまで積み上げた数字を駆使しつつ、その上で、上の「10分の1の審判」で「Eternal Brave」より目立ち、傑作を蹴落とす覚悟で、拾える読者は全て拾う、そんな気持ちで長文タイトルで読者の興味を引き、「あなたがお探しの、読みたい小説はここにありますよ!」とアピールする。
つまり「旨い料理さえ作れば大丈夫」と、特に集客もせず、小洒落た店名だがコンセプトがイマイチわからない、無名の料理人が新規開店した料理屋の周囲では、常連を抱えていてもそれに甘えず、まるで居酒屋の客引きやチラシ配りのような地味な作業を厭わず、新規顧客獲得の為なら他より目立つ事を心掛ける、そんな店が軒を連ねているのだ。
「この素材の味がわからない客なんてお断り」
とはならず
「濃い味が好き? 了解! 旨味調味料マシマシにしときます!」となるのだ。
だから、もし、「非テンプレは嫌だ! 長文タイトルなんて以ての外だ!」
と思うのなら
「全然読んで貰えない⋯⋯でも、これは、読んでさえ貰えたら、傑作なんだ!」
それを信じて、コツコツと作品を投稿し続けるしかない。
恐らく、非テンプレがここで打ち上がる方法は大別して二つ。
「レビューが書かれる」
または
「完結して、完結一覧に載ったタイミングで読者に読まれる」
この二つが、可能性としては高い。
まあ、傑作なら、この二つで恐らく打ち上がる、が。
それでも、幾つかは埋もれる可能性がある。
読者を大量に獲得できるような、影響力のあるレビューを書く読者がその作品を読むとは限らないし、完結一覧にしても同時間に多くの作品が完結を迎えたら、直ぐにトップページから消える可能性があるからだ。
そこは作品を信じて、あとは運に身を委ねるしかない。
そもそも、ね。
テンプレを駆使して作品を書く作家に「非テンプレで作家になりたい」なんて聞くのは。
打者の心理を勉強し、それを利用して、コースや駆け引きで
「打たせて取る」
つまり「過去の知識の集積」や、そこからの「気付き」を軸に頑張っている投手に
「そういうのダサいし、嫌なんで、160km/hの球を投げてバジバシストライク取る投手になりたいんですが、どうしたら良いですか?」
と聞くようなもんだ。
そんな事聞かれても、アドバイスなんて出来ない。
努力した結果、出せる奴と出せない奴がいる、そんな世界だ。
だから、できるアドバイスとしては精々
「そういった投手を目指しているとしても、打者の心理を学んだり、制球を磨くのは無駄じゃないよ」
みたいな話しか出来ないだろう。
「○○先生は、長文タイトルやテンプレじゃなくても読まれている!」
と思っても、その先生の「それまで積み上げた数字」が別格なら、参考にならないかも知れない。
だから、もし、自分が投手として投げていて、いつかそこに辿り着ける、160km/hが投げられる、つまり「選ばれた才能がある」と感じているなら、そのままトレーニングを頑張れば良い。
たたし、まだ、投げてもいないなら。
せめて、マウンドに立ってから言え、だ。
⋯⋯まあ、まだマウンドに立ってないから言える、とも考えられる。
実際、私も書く前はそうだった。
長文タイトルなんて付けたくなかったし、テンプレなんて研究したくなかった。
しかし、自分には160km/hは投げられない、でも、投手としての実力は身に付けたい、ならどんな球を?
きっとそれは、なろうテンプレを書いている、多くの作家が通った道なのだ。
だから、結局の所。
なろうテンプレを書く、書かない、は、小説を書く日々の中で、自分の持つ特性や能力、才能と相談し、それでも「作家」を目指し続ければ、自ずと選択される事でしかなく、書く前から決める事ではないのかも知れない。
結論。
「小説家になろう」から、「非テンプレ」で作家としてデビューするには
「自分には才能があると信じて、作品を書き続け、それまでにない傑作を書き、編集者の目に止まる事を祈りながら、あとは運に身を委ねる」
という、当たり前でしかない話となる。
以上。