4話
「ただいま戻りました。」
ファーストとフォースが情報収集から帰ってきた様だ。
2人の情報とサードの情報はこの国でどの様に商売をするのか方針を固める事にある。
「これがリストです。」
フォースが手渡してきたのは1枚の紙だ。
そこにはエミニル法国での富裕層の名前が書かれている。
しかし、その全員が奴隷を必要としている訳では無い。
「サード。金銭の流れを。」
「はい、かしこまりました。」
サードの声だけがする。
情報を集めに行ったのだろう。
サードが束ねる諜報奴隷はその人数と技術によって成り立っている。
だからこそ素早く情報をメレクに届けることが出来るのだ。
「フォース。帰ってきたところ悪いが、一緒に出てくれ。」
「はい、何処へ行かれますか?」
「酒場だ。」
法国と言っても酒場は治安が悪い。
しかし、淀んだ情報や噂を手に入れるのならばこの上ない場所でもある。
賑やかそうな酒場へ入ると、客の視線がメレクでは無くフォースへと向かう。
フォースの見てくれはこういう時の視線誘導に大いに役立っていた。
近場の席に座ると店員がやって来て注文をとる。
「好きなの頼んでいいぞ。」
「ありがとうございます。では……。」
フォースが食べたいものを頼み終えると1人の男がメレク達の座っている席へと座る。
「この女性はアンタの何なんだ?恋人……じゃぁないよな?」
「ああ、そうだな。奴隷だ。」
「ほう……奴隷か。」
そう言ってメレクはフォースの左胸にある奴隷特有の焼印を見せつける。
メレクの「奴隷」という言葉に対して周囲が少しザワついた。
「じゃあよ。コイツの1晩を掛けて勝負しようや。」
「………いいぞ。俺はそれをかけるが、アンタは何をかける?」
「逆に何が欲しい?」
メレクは考えるフリをしながらこの男性が持ち得る情報をなるべく収集する様な報酬を考えていく。
わざとらしく手を叩き、男に提案をする。
「この国で黒い噂が出ている貴族の名前……それでもいいか?」
「そんなのでいいのか?」
「ああ。」
男は拍子抜けしたようだった。
「俺が挑まれたんだ。勝負内容は俺が決めてもいいよな?」
「もちろんだ。」
「なら、コイントスだ。俺がトスを上げるから裏か表かを当てろ。勝負は3回。2本先取だ。」
「わかった。」
メレクはコインを取り出すと親指ではね上げ、上手く手の甲に着地させ手で隠した。
「さて、どっちだ?」
「裏だ。」
「本当にいいのか?」
「ああ。」
男はイヤに自信があるようですぐに回答をする。
「俺がコイン裏か表かなんて見間違えるはずないだろう?これでも動体視力には自信がある。」
「そうか。」
手をどけるとコインは裏であった。
その様子に周りの野次馬が騒ぎ立てる。
「次だ。」
あっさりとメレクは次のコインを弾く。
そして再び手の甲に着地させ手で隠した。
「表だ。いいのか?こんなに簡単で。」
「………。」
これを当てられたらメレクの負けでこの賭け事は終わる。
「いいのさ。」
手をどけるとコインは裏を向いていた。
「………イカサマか。」
「決めつけは良くないな。アンタの動体視力が鈍っているんじゃないのか?」
メレクはコインを手に取り、微笑むと男へとコインを投げ渡す。
「イカサマだと思うならちゃんと確認しろ。」
「………。」
投げられたコインを見るがどこにでもある普通のコインであった。
「………問題ない。」
「いいのか?このコイントスが最後だぞ。」
「ああ。」
男からしてみれば安い対価である為にそこまで緊張はしていなかった。
「余裕そうだな。じゃあ俺からの報酬を釣り上げよう。この奴隷の所有権をアンタに移す。それならどうだ?何をかける?」
「………。」
周りには期待を寄せる野次馬がいる。
この酒場で、この国で生活しするためにはこの提案に乗るしか道はない。
しかし、メレクが提案した報酬はあまりにも大きすぎた。
「………俺にはその報酬に釣り合うものがない。」
「だったらお前自身を賭ければいいだろう?俺は幸いにも奴隷商人だ。買うぞ?」
奴隷に落ちる為には2つの方法がある。
1つ目は借金や、犯罪などで法的に奴隷に落とされる場合。
2つ目は望んで奴隷となる場合だ。
この提案は2つ目に該当する。
周りの野次馬のコールがうるさく鳴り響く。
ここまで来ると後に下がることなど出来はしなかった。
「……いいだろう。」
「よし、ラストゲームだ。」