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4.騎士はわかっていない

誤字・脱字報告ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

 さて、とにもかくにも最初の1人は救えたわ。

 薬を供給していた組織は、効果のあるブツを用意できず、皇帝をたぶらかすはずだった美女とやらは、雇い主と共に捕らえられたのだとか。

 良かったわねぇ、悪が滅んで。

 裏で件の組織とやらの尻尾をつかんで、皇后と皇太子が受けている虐待情報と一緒に皇帝にチクったのはわたしなんだけどさ。

 あの後皇后と皇太子が無事復権できたことだけは確かだからそれでいいわよね、うん。

 メインヒーローであるアーグィング様は、ほぼゲーム通りの幼少期だったけど、実は危機一髪。

 皇后が彼を連れてここまでたどり着けたのは、わたしが影で暗殺者を排除させたから。

 本来ならゴルド帝国の連中は、薬の過剰摂取で廃人同然になった皇帝を幽閉。腹違いの弟が即位できる年になるまでお飾りの皇太子としてアーグィング様を生かしておいて密かに殺すつもりだった、らしいんだけど。

 これがバグって奴なのかしら?皇后と共にアーグィング様をさっさと殺そうとしていたの。

 いやー、危なかったわ。

 使命を思い出して国内でそれなりに力をつけたわたしが、ゴルド帝国に間者を放てたからわかった襲撃だったものね、まさにギリギリ。

 密かに城を脱出して、クリステラ王国へ向かったあの母子を旅路の途中で消そうとした暗殺者は、逆に消された。具体的に誰に雇われていたかまでは知りたくもなかったからそれでいいんだけど、どうやらその辺もあの皇帝の知る所となったらしくて…ゴルドのなんちゃらいう貴族が拷問で死んだとかなんとか。

 いやそうよ、わたしの知ったこっちゃないんだった。 

 皇帝と、いくら幼くても()()皇太子を敵に回したくないわ。

 ゴルト帝国で起こった大粛清?他国の王が口出すことじゃないわ。ええ、知らないったら知りません。我が国に逃げてきたゴルトの貴族が何を騒ごうとも、わたしは何にも聞いてないもんね。内政干渉ダメ、絶対!

 まぁ、それはそれとして。

 他の攻略対象者も順次対応していかないと。

 バグのせいでわたしが知っている状況からずれていてもおかしくない。彼らを探し出して現状を確認する必要があるわね。


 そして出た探索の結果。


「お目にかかり、身に余る光栄でございます。女王陛下」

 玉座の前でひざまずく美少年―いや、美青年?

 歳の頃なら17・8歳、さらりとした銀髪と紫ががった青い瞳。細身の躰は鍛えられていることが一目でわかる。腰に下げていた重そうな剣は作法通り床に下ろされ、横たえられている。

 絵に描いたような騎士様だわ。

 ただ、その頬に走る一筋の傷が、形だけでない強者の証のように見える。

 スチルにあんなのなかったわよね。それに文官じゃなかったっけ?…ベテランの。

 わたしの知っている彼は、30歳過ぎの宰相補佐官だったのに。

 ”バグ”

 これがそうなの?

 ゲーム内でナイスミドル枠だった頭脳派のオジサマが、体力充実の若手戦闘職にジョブチェンジしているなんて、そんなこと…。

 たまんないじゃないの、コンチクショー。

「面を上げて、シルヴァード・プラティネス卿。急な呼び出しにも関わらず参じてくれたこと、うれしく思います」

 おっといかんいかん。内心どれほどのたうち回っていたとしても、ここは女王モードでシリアスに対応しないと。

 クリステラ王国でも名門と言われるプラティネス侯爵家の2男で、第3騎士団に去年配属された期待の新鋭騎士――だとか言ってたわよね。

 現プラティネス侯爵はお兄さんで、3年前に父親の跡を継いで叙爵。同時に彼は騎士見習いになって、今は騎士団の寮住まいっと。

 貴族の2男以下ならよくある人生設計ね。

 だけど。

「本日呼び出したのは他でもありません。プラティネス侯爵が何をしたか、ご存知でしょうね」

 本当に、わたしはただこの人を探して現状を確かめたかっただけだったのに。

「…はい、上司である騎士団長に聞きました。真の…ことでありましょうか」

「間違いないわ」

 まさかお兄さんのやらかしを発見するとは思わなかったのよ。

 いや、お兄さんというより…。

「貴公の兄君、プラティネス侯爵の奥方でしたわね」

「はい…」

「まさか、仮にも侯爵夫人ともあろう女性が、あんなことを仕出かすとは思いませんでした。しかも兄君は彼女をまったく疑わず、言うことを鵜呑みにしていたとか。結果、隠しようのない醜聞(スキャンダル)となってしまったわね」

「返す言葉もございません…」

「貴公は知っていたの?事は消失技術(ロストテクノロジー)に関わっているのよ。かの技術が発覚した場合、王家に報告義務があることは法律でも定まっているわ。ましてや、プラティネス侯爵家ほどの歴史ある家ならば、知らないとは言わせないわよ」

「はい、よく存じております。信じていただけるかわかりませんが、自分は全く気づきませんでした」

 シルヴァード卿は悔し気に、悲し気に声を絞り出した。

「3年前兄が侯爵家を継いだ時から…いえ、前の婚約者と婚約破棄をした時からほとんど会っておりません。事実上縁を切っている状態で、たまに宮中で顔を合わせても、口も利かない有様でした」

 うん、まぁその辺は報告にもあった。思わず助かったーとか思っちゃったわよ。

 なんとかシルヴァード本人は助けないと、わたしの使命が果たせないからね。

「以前の婚約者と言うと、ギンレー伯爵令嬢でしたね。確か幼少の頃からの約束だったのを、真実の愛とやらに目覚めて今の奥様と挿げ替えたとか聞きました」

 5年くらい前に、社交界で話題になった恋愛騒ぎだそうな。わたしは当時まだ表の事なんて知らされなかったから、今回のことで初めて詳しく聞いた。

「はい。お恥ずかしい限りです」

「…」

 殊勝に首を垂れる銀髪の騎士。

 これはこれで萌えるわぁ。

 っと、興奮してる場合じゃない。冷静に、冷静に…。

「侯爵夫妻が占有しようとした消失技術(ロストテクノロジー)は、政府の然るべき機関が封印しました。あの状態では使えませんから」

 わたしが言うと、シルヴァードは更に躰を沈めた。

 まぁ気持ちはわからないでも無いわ。

 例え自らに非はないとしても、ある意味国賊の身内として、今後世間から白い目で見られることは必至だもの。

 が、ここで甘い顔は出来ない。

 内心でどれだけ興奮していようとも、わたしは女王。毅然とした態度と厳しい沙汰が必要だわ。

「プラティネス侯爵は引退してもらいます。夫人も同様、今後一切表社会に出ることは許しません。幸か不幸かお子さんはいないようなので、以後も子供が出来ないように処置を施した上で、しかるべき地へ終生押し込めとします。…何故かは、わかりますね」

 シルヴァード卿は深く首を垂れて、はい、とつぶやいた。

「今回の件は表沙汰にするわけにはいかない、兄夫婦を公に処刑することはできない…重々理解しております。押し込めとなった地で、数年後には病死するであろうことも」

 そうね。

 まぁ、既に知らぬ者がない公然の秘密なんだけど、公の断罪となると記録も残っちゃうし、色々と不名誉なあれこれが、ねぇ。

 だから表向き自然死になるように、処刑人を送るとかじゃなく、そのままならまともに生きて行けそうにない環境に放り込む。

 そっちの方が残酷かもしれないけどね。それだけのことをしでかしたんだから、しょうがない。

「そして、シルヴァード卿。貴公にはプラティネス家を継承して、侯爵位についていただきます。否は言わせません。何度も言いますが、今回の件は穏便に済ませなければならないのです。格式の高い貴族が廃されることなどあってはならない――わかりますね」

 大々的に表沙汰にするには、傷つくものが多すぎる。

 しかも、被害者はなんの罪もない令嬢や令夫人たちがほとんど。これじゃあ、あのアンポンタン侯爵夫妻を表立って裁けない。

「ギンレー伯爵家は、それで良しとされたのでしょうか?」

 ふむ、そこを気にしますか。

「ええ、むしろ伯爵自身に、かの夫婦を裁く場には出さないでほしいと懇願されたわ。ご存知の通り、令嬢は隣国の大貴族に嫁がれたし、むしろ華々しく断罪されて人々の記憶に残る方が嫌なんだそうよ」

 まぁ気持ちはわからないでもないわね、と言うと、銀髪の騎士様はがっくりと力を失った。

「陛下、自分には理解できません。確かに生きていくうえで重要な事ではありますが、女性と言うのは何故そこまで…」

 うーん、こんな台詞が出るってことは、この男もまだまだってことね。

 わたしだって()()()()()を使われたら絶望の淵に立つわ。

「1日で体重が10キロ単位で変化するということが出家、果ては自死にまでつながるとは、思いもしませんでした」

 だからわかっていないって言うのよ。おバカさん。

 

 

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