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1.エラーは全てをひっくり返す

昔書いていたものを直して投稿してみます。

お読みくだされば幸いです。

 世に乙女ゲームなるものがある。


 女性向の恋愛譚。まあその手お話が好きな人が主人公気分を味わいたいとプレイする代物だが、これがまた実に多く出回っている

 だが、エンターティメントの宿命として、玉石混淆である。名作と駄作が入り乱れていると言えよう。

 名作の続編が駄作なんて珍しくもないし、前作で散々扱き下ろされたスタッフ連が、次作で社会現象にまでなる大ヒットを飛ばすこともあるのだ。

 世の中は無常で非情だ。

 

 で、それが私とどう関係するかと言えば。


 「陛下、本日のご予定でございますが、午後から少々変更が」

 「陛下、次はこちらのお召し物になります。急ぎお着替えを」

 「女王陛下、ご会食のお相手は例の件で重要なお立場にあられる大使でして」


 その、乙女ゲームの中で、女王をやってるんです。

 はい、よくある転生ものです。今の人生を始める前は、銀河宇宙太陽系第3惑星地球星北半球アジア圏内日本国――某県某市にて、成人女性をやっておりました、まる。

 ――いや、今いる”ここ”が宇宙のどの辺かなんてわかんないからさ。

 それはともかく。

 改めて言いましょう、成人、のオンナだったんです。

 なぜ強調するかと言えば、今のわたしは未成年者だからです。

  

 このゲームは前世で結構やりこんだお気に入りだった。

 元々あまり外へ出ないタイプ、インドア派だった私は、学業や仕事の合間に様々なゲームをプレイしたものだ。

 そしてよくある話だが、同じ趣味を持つ者たちと交流を持った。リアル、オンライン共に同好の士は結構見つかった。

 その中の一人にこのゲームを勧められた。ご贔屓メーカーの次期主力作品だとかで。

 で、まぁ…。結論から言えば、嵌ってしまった。

 情勢不穏な大国の王女に生まれた訳ありヒロインが、思わぬ運命の流れに放り込まれて大騒ぎ。国家存亡の危機に恋愛やら陰謀やら。

 よくあるパターンだとは思う。

 でもこのゲームはいわゆるR-15で、確かにちょっとエロくてグロもあったが、作品としては秀逸だったんだ。設定もキャラクター造りも良くて、この分野では信じられないほどのヒットを飛ばした。

 やがて当然ながら、全年齢版の移植バージョンも発売され、こちらも売れに売れた。

 確かアニメ化の話も進んでいるとか情報が入って、オンエアを楽しみにしていたのに、それを見ることなく命を落とし、そして。

 そういう作品世界の中に、私は生まれ直してしまった。

 前世でどういう終わり方をしたのか、覚えていない。

 だけど、その後。

 死後の世界とやらでのやり取りは、はっきり覚えている。って言うか、思い出している。

 


「――――さん、あなたは死亡されました。これより審議を行います」

 なんでやねん。

 つい突っ込んでしまった。

 だって、それまで()()()は特に健康上の問題もなく、事故にあった記憶もなかったから。

 たしか最近お気に入りの乙女ゲームをクリアして、最終トゥルーエンドを涙交じりに見ていた、はず。記憶はうっすらあった。

 けど、そんな至福の一時から突然の死亡宣告って、一体。

「死因ですか。…その、実は申し上げにくいのですが、ちょっとした手違いと言いますか、あるはずのないハプニングが原因でして」

 ああ、なんですって。

「すごまないでください。仕方なかったんです」

 人の人生を仕方ないで取り上げるのか、上等じゃないか。

「そうは言われましてもね、不慮の死なんて大体そんなもんですよ」

 …。

 そうかもしれないけど、自分の身に起きたとなったら、ねぇ。

「あなた生前遊戯をされていたでしょう。何でしたっけ、乙女ゲームとかいう」

 やってました。長々とプレイして、苦労してトゥルーエンドを迎えましたともさ。ああ、推し攻略対象者の笑顔が涙で曇って、もう、もう…。

「その乙女ゲームにですね、ちょっとした―えーっとなんて言うんでしたっけ、こう、間違いとか不具合とか、そんな感じの」

 エラーとかバグとかって奴の事?

「あ、そうですそうです。そのエラー?とかがですね、現世に影響してしまってですね」

 ?は??

 コンピュータゲームのエラーがリアルに影響?

 なんじゃそら。

「説明が難しいんですが。つまり、そのゲームっていうのは、言ってみれば別世界の事象を操作する遊びなわけですよね。で、次元の重なりで起こったエラーが、操作していた貴女に被さって、その衝撃が肉体の存続を断ち切ってしまったと、まぁ、そんな感じです」

 わかるかそんなもん。

「でしょうねぇ。はっきり申し上げて、こんなことは前代未聞でして。こちらとしても、対処に困ってるんです」

 エンターティンメントのせいで人死にが出るなんて、有史以来の大バグもいい所だわ。

 竹取物語や源氏物語で命を落としたなんてことになったら、古典の授業は軍事教練。夏目漱石や芥川龍之介は訓練所の鬼教官になってしまう。

「まぁこう言ってはなんですが、そのせいであの世界はほぼ壊滅。ゲームとやらを作成していた会社はまもなく倒産するでしょうから、どうかお怒りを治めてくださいませんか。お詫びに――なるかどうかわかりませんが、この先は極楽なり転生なり、貴女のご希望に沿いますから」


 い・ま・な・ん・て・い・っ・た・?


「ぐぇえぇっ!やめて下さいっ、なんで死者の魂がわたしを締め上げられるんですか?!」

 壊滅だと、倒産だと、なにふざけたこと抜かしとるんじゃいっ!このゴクツブシがぁっ!

「そ、そんなこと言われても、だからどうしようもないんですって」

 だまらっしゃいっ。

 あのゲームがどれほどあたしを救ってくれたか分かってんの?

 底意地の悪い教授から出された嫌味みたいな課題のレポートを徹夜で仕上げた時も、ロクに仕事をしないクセに文句ばっかり垂れ流す上司に手柄を掻っ(さら)われた時も、タカるか浮気するしかないダメ男に引っかかって泣いた時も。

 あのゲームの攻略対象者たちの美麗な面や胸キュンのボイスを思い出して乗り切ってきた。ヤケ酒も、会社からのゴメンナサイボーナスも、救いにならなかったあたしの、あたしの唯一の心の拠り所だったのよぉっ!

「なんかさみしい人生だったんですね、あなた」

 余計なお世話じゃ、このまま縊り殺してやろうか、てめぇ。

「や、やめて下さい。謝ります、謝りますから、どうか落ち着いて。って、言うそばから殺そうとしないで、ちょっとおぉぉ」

 くそぉおお、ゲームクリアをSNSに上げてゲーム仲間と祝杯を上げるはずだったのに、来月にはお気に入りの同人作家がアンソロジーに寄稿した本が発売になるはずだったのに、アニメだって舞台だってやるはずだったのにぃいい!

「わ、わかりました、わかりましたからやめて下さい。このバグを修正して、ゲーム世界も会社も助ける方法があるんです、だからお願い助けてぇ」

 なんですって。

 そんな方法があるならすぐにやらんかい!ちょっと、なに悠長に泡なんか吹いて白目剥いてんのよ、起きろこのゴクツブシがぁっ!

「神も仏も恐れないとはこのことか…」

 そんなもん怖がってたら、女一人で世の中渡っていけねえんだよ。

「はぁ、そうですか。もういいです」

 だからゲームと会社を救う方法とやらをとっとと吐け、そして実行しろっての。今、すぐに。

「ええとそれはですね、わたしが直接行う訳じゃなくてですね」

 ああん?

「ですから凄まないで。要は実際にあの世界に行ってですね、バグやエラーに対処する人材を派遣するってことなんです」

 ほう。

「詳しいことは端折りますが、エラーと言っても、つまりはあちらで実際に生きている人間がやらかした不始末ってことなんです。ですがよくある話、些細なことが巡り巡って大規模な事象になっていくって奴でして」

 ほう、蝶の羽ばたきが世界を変える、アレか。

「そのエラー事態は最早どうしようもなくなっているんですが、要はその後に起こるバグを消して、正しい時間軸に沿わせればいい訳です。

 ふむふむ。

「そのためには、どうしたってあちらの世界に直接行く必要があります。それもただ行くだけじゃダメです。きちんとあちらで誕生して、世界の住人としての人生を歩んでいる者になり、一生を治めなければなりません」

 つまり、乙女ゲームのあの世界に転生してキャラクターに、いや、あの世界の民の一人として生きる人間が必要というわけね。

「その通りです。ですが、ただの一般市民じゃダメです。それこそ政治の中枢、王族とか大貴族とかの歴史に残るような立場でないと難しいでしょう」

 うーん、元々世界観が地球の中世ヨーロッパとかその辺だったから、生まれによっては大した努力もなくその立場になれるだろうけど。

「そんな立場――いえ、身分と言った方がいいでしょうかね。に、産まれるってことは、エラーの状況から考えても大変苦難な人生を送ることになると思われます。だからわざわざ転生者を(つの)ってまで修正しようとはしなかったんですが」

 なんだ、それなら簡単じゃないの。

 ここに、その希望者かいるんだから。

「ですよね、貴女ならそう言うと思いました。ですがよーく考えてください、半端じゃなく苦労しますよ」

 経済的に?それとも生活的に?

「どうでしょうね。多分経済的なものじゃないとは思いますが、それはそれで悩みの種になりそうですよ」

 どうでもいいわよ。

 それにどうせ元の躰に生き返らせることなんて無理なんでしょう。

「はぁ、それはそうですが」

 それにさっき、転生の希望を叶えてくれるって言ってたじゃない。だったらあたしは生きる希望を与えてくれた世界を救いに行きたいわ。

「もう生きてませんが」

 やかましいわ。もっかい締め上げてやろうか。

「いえっ、もうご免です。しょうがない、ご希望通りにいたしましょう」

 やった、ありがとう。

「いえ、お礼を言われるようなことじゃないと思いますんで。むしろこっちこそ…いえ」

 なんか含みがありそうだけど、まぁいいや。

「それではこちらもできる限りのサポートをすることにいたします。――エラーが起こる、十年ほど前に貴女を誕生させることにしましょう。で、記憶と任務を思い出すのはエラー後にしかできませんが、その後――いわゆる攻略対象者でしたか、彼らの人生を救済するための指針を受け取れるようにしますので、どうか頑張って助けてあげてください」」

 よーし、任せなさい。

「一応申し上げておきますが、エラー自体はもう確定されていてどうしようもありませんからそのおつもりで。貴女にはまったく責任のないことですから、気になさらないようにしてくださいね。でないと、後の対象者の方々を助けるという任務が果たせません」

 りょーかいです。

「成すべきことがあると言っても、貴女の一生には違いありません。どうか良き人生を送ることをお忘れなきよう」

 …ありがとう。

 なんか、ここで優しいことを言ってもらえると、心にしみるわね。

「それが本来にのわたしの役目です。では、良き来世を」


 かくてあたしは乙女ゲーム、【久遠の愛を知る人よ】の世界へと生まれ変わった。


 そしてある日ある時、はっと思い出したのだ。前の自分とこの世界に産まれたわけを。

 その時の衝撃と周囲の大騒ぎについては割愛する。長くなるから。まあ一国の王女、しかも一人娘がどうにかなってしまってるなんて、今にして思うとなんて傍迷惑だったろうとは思う。

 で、まあ。

 最初のパニックを通り越して、自分の現在状況を認識できたのは1年後くらいだったか。

 生まれた家や立場、そして周囲にいる人達。―10歳児が対応するには、あまりにもハードだった。

 

 「いかがなさいましたか、陛下?」

 「こちらの書類に印をお願いいたします、陛下」

 「来月の式典準備ですが」


 私は大ヒットゲームの主人公じゃない。

 沢山の美男達と恋愛や冒険をするヒロインじゃあないのだ。

 じゃあ誰か。

「ご機嫌麗しゅう、ルーシェリア・ファデイ女王陛下」

 クリステラ王国。

 ゲームの舞台となる大国、その42代目。即位して1年目――齢11の幼女王。


 ヒロインの母親なのである。


 ゲームがスタートするのは、我が娘であるヒロインが16歳になり、王宮に呼び戻される所から。

 このヒロイン、王国の跡取りでありながら、幼い頃から辺境にある離宮で育てられていた。

 ――いや正確に言えば、危険な王宮から隔離されていた。

 ヒロインの母親である女王――つまり未来の私は、長年心身ともに病んでおり、ほとんど表に姿を見せない名前だけの君主と化している。

 そして女王の代わりに国の実権を握って好き放題しているのは、その夫と補佐役である宰相。

 税金なんて全て自分の為に納められてるんだぜ~、国民なんて言うこと聞いて何ぼだろと、口でも態度でも生活でも表しまくりの遠慮なし。

 詰んでますね。

 この国もうダメでしょお、って予感ビンビンのオープニングでした。

 しかし国を牛耳っている王婿と宰相とは言え、飽くまで女王は女王。彼女の産んだ子供が次期国王でなけりゃ、流石にマズイ。

 で、ヒロインは年頃になったからって、気ままに暮らしていた離宮から呼び戻されたんだけど。

 ――ハッキリ言ってきな臭いことこの上ない。

 父親はヒロインを教育でなく暗殺するために戻したんじゃないか、とか。

 宰相は自分の身内と結婚させて、操り人形にする為に色々、とか。

 初っ端からハードな展開がこれでもかとヒロインを襲うわけだ。

 母親は生きてはいるらしいけど、まったく会えず、宮廷内の人々もヒロインによそよそしい。

 未来の女王として在るはずの自分が、家臣からも実の親からも疎ましがられて、これは一体どういうことなのか。

 とまあ、野性的――いや元気が取り柄のヒロインが、流石に悩み始めた頃、事は起こる。


 プロローグと第1章はこんな所だったかな。


 しかし何だよ、心身ともにダメダメって。

 少なくとも、今の私は健康だ。精神的にも――そりゃまあちょっとはアレだが、社会生活に支障がない程度の正常さではある。にもかかわらず、だ。

 それもこれも、結婚がいけなかったせいだ。

 女王の夫というのは、ロクデナシだった。

 家柄やら血筋やら、とにかく当人の人柄より周囲の条件を重視したら中身が最悪だったと、まあそういう事。

 私利私欲で政治を混乱させている時点で決定的だが、とにかく妻子を持つ者として、最低のさらに下と言っていい人物(バカヤロウ)だったのだ。

 結婚したのは、ルーシェリアが12歳の時。幾らなんでも早すぎる。

 いや政略結婚ならありだけど、その場合形だけで、年頃になるまではいわゆる白い結婚――閨は別、というのが普通だ。

 ところが鬼畜な事に、ルーシェリアは即同衾させられた。

 改めて言うが、12歳、の子供である。ちなみに王婿は25歳。

 鬼畜だ、ロクデナシだ。いくらゲームとは言え、こんなロリコン趣味を盛り込むなと言いたい。

 そりゃあ、時代や国柄がが違えば現実にもあり(例:前田利家の妻、まつ)かもしれないが、一般的現代日本では犯罪だ。

 ――まあ、この辺は文字だけの説明で、スチルがあった訳じゃないから、ゲーム的にはギリギリセーフなんだろうけど。

 ただまぁ事情があったのは確か。

 クリステラ王国は、王朝断絶の危機にあったの。

 理由は様々だったけど、とにかく王族がいなくなっていたのよね。

 直系はルーシェリア女王のみ。傍系も最早ほとんど残っておらず、それも皆老境に入ろうかという者ばかり。

 次代を()せ。そのためには血筋確かな相手との早い結婚、多い出産。これに尽きる。

 と、まあこんな訳で幼女王の婚儀が強行されたわけだが。これが大失敗。

 

 ルーシェリアは13で妊娠、14歳で娘を産むのだが、未成熟な体での妊娠出産が祟り、難産の末二度と子が出来ない体になってしまったのだ。


 幸い母子ともに命は助かったが、これで王族増産計画はパー。

 産まれたばかりの王女が年頃になるまで、十数年間直系は諦めなければならない事態に陥ったわけだ。

 これには流石の血統主義者も降参した。

 ガチガチ頭の保守派――とにかく王家の血筋を守りたい!主義を掲げる連中の筆頭は、当時の宰相。――当時って現時点なんだが、まあゲームを主体に見ればということで。

 この前宰相、政治家としては切れ者で、外交も内政もお任せなのだが、どうも人使いに問題がある。

 まず、先にも挙げた血統主義。そしてさほど酷い訳でもないが、男尊女卑の傾向がある。

 政治のトップとして誰かを引き上げる際、成果より生家を気にしてしまうのだ。そして自分の仕事に女性はほとんど関らせない。

 侍女や女官、その他どうしても女でなければならない仕事については、部下に任せっきりという――まぁ、妻子持ちではあるから、どうしようもない女嫌いってわけじゃないだろうけど、仕事上では男性優位な人だ。

 それなのに、仕えなければならないのは”女”王。さぞ、忸怩(じくじ)たる思いだったろう。

 そんなだから早いところ男の子の世継ぎを得て、そちらの教育を徹底したいと考えた挙句の結婚・出産強要だっだんだろうけど、全て裏目に出てしまった。

 一応侍医や女官達からは言われていたんだ、いくらなんでも早すぎると。

 何しろルーシェリアは初潮もまだなのに結婚させられ、妊娠したのは徴が来てすぐ。

 未成熟な女体の危険を知る者なら決してやらない暴挙だ。まして現在、代わりのいない女王に強要することじゃない。

 正式な妻だからと幼女にためらいなく手を出す王婿も問題ありだが、一番悪いのはこの前宰相だと非難が集中して、彼の政治家としての求心力は激減した。

 不幸中の幸いで無事育っているのも、王”女”。

 この時点で前宰相の心は折れた。

 宰相位を辞職して家督も息子に譲り、領地に引き篭もろうとしたのだが。

 そうは問屋が卸さない。

 彼の後釜に座ったのは、目をかけていた宰相補佐だったのだが、こいつが実はロクデナシ王婿と繋がっている、更なるロクデナシ政治屋だったという、ある意味王道な展開が繰り広げられてしまったのだ。

 しかし前宰相には最早何の力もなく、女王は未だに床に就いたまま。

 幼い王女はほったらかされて、乳母が懸明になってやっと生かされているだけ。

 はっきり言おう。父親である王婿は、王女なんて死んでもいいと思っていたのだ。そうすれば、女王亡き後自分が即位できると考えていた。

 最低だなこいつ。

 ゲームのキャラクターだと分かっていても、存在すら許せん。――現実にはいないと思いたいけど、今はこいつがいるのが私の現実だ。本当にこんな性格なのかは、まだ会ったことがないから分からないが。

 こんな奴と結婚なんて冗談じゃない。

 何とかしなければならない。


 と、必死だった事は認めよう。だがまさかこんな事になっているなんて思ってもみなかったのだ。

 “エラー”

 それがどんなことか、ようやく私は思い知った。



 重厚な扉を開け放った途端、甘ったるいむっとする匂いが溢れてきた。

 香華なら慣れているが、これは明らかに違う。

 香りを認めた途端にくらりときた。

 どう考えてもヤバい類のケムリだ。

 そしてそのケムリが充満していた部屋では、惜しげもなく肌をさらした数人の男女が――涙やら汗やらその他もろもろの体液で……。

 やめておこう。

 詳しく表現しようものならノクターン行きだ。

 ただ、部屋の真ん中にでんと据えられたどでかいベッドの上で、我が婚約者殿がアヘ顔で美女()()の奉仕を受けていたことを知らしめればそれでいいのだ。


 良くはないけど――それでいいのだ。

ありがとうございました。

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