第8話
「はい、受付のお姉さん。世界樹の葉を採取してきました」
「ええっ!? 幾ら何でも早過ぎじゃないですか!?」
「最強の男に、常識は通用しないんですよ。あ、金貨袋は二つに分けてください」
軽口を叩きつつ、受付のお姉さんからクエストの報酬を貰った俺は、いそいそとギルドを離れる。
S級クエストだけであり、報酬金は滅茶苦茶高い。しかも、今までは四等分だったけど今回はレアムと折半だから実質倍貰える訳だ。
俺は、片方の金貨袋をレアムに手渡す。しかし、何とレアムはそれを拒否した。
「私は、カイン様のサポート役です。報酬は全て、カイン様が受け取ってください」
「そういう訳にはいかないだろう。そもそも、クエスト達成出来たのはレアムのおかげなんだし、報酬全獲りなんてしたら俺のメンツにも関わる」
「大丈夫です! 今の私は、勇者である貴方の所有物といっても過言ではありませんから」
ついに自分を『所有物』とか言い出したぞ、この子。薄々そんな気はしていたけど、能力だけでなく性格も若干ヤバめのようだ。
こういう子を相手にする時、下手に逆らうのは悪手。要望を受け入れつつ、こちらの意見を聞いてもらうよう会話を運んでいこう。
「じゃあ、金貨はありがたくもらうけど、やっぱり貰いっぱなしは悪いよ。レアムは、何かして欲しいこととかないのか?」
「して欲しいこと? ……そう、ですね。御迷惑でなければいいのですが、カイン様と街へお出かけしてみたいです」
「そんなことでいいのか? なら、今すぐにでも行くか」
「は、はい!」
そんな訳で、俺達はギルドから出て、街を歩くことになった。
この街は、長く拠点として利用していたので、顔馴染みが何人も居る。俺がレアムと一緒に歩いていると、魔導具屋の店主に声を掛けられた。
「おお、カインじゃないか! 新作の魔導具が入ったんだが、見ていくかい?」
「悪いなおじさん。今デート中なんだ、また後で来るよ」
「そうか。……って、今度が随分小さい恋人だな。色々と大丈夫なのか?」
「ようやく理想の相手と巡り合えたところだ。じゃあ、俺らはこの辺で」
俺とレアムは、魔導具屋を後にした。
ふと隣を見てみると、レアムが妙にモジモジしていることに気付いた。照れたような素振りをして、頬がやや赤く染まっている。
「どうかしたのか?」
「さ、さっきの人、私のことを恋人だって……!」
「ああ、レアムが魅力的な女性だからそう見えたんだろうな。この俺と対等に並び立つのにふさわしい相手だって」
「きゃあっ! も、もうカイン様ったら、そんな! もったいない御言葉ですぅっ!」
さっきより一層顔を赤くして、上機嫌に照れるレアム。可愛い。
しかしこの様子だと、レアムはあまり男性経験は無さそうだ。女神様だから、その辺は割と厳しかったのかな?
まあそんな感じで、なんのかんのと街を散策する俺達。途中、街の人達に話しかけられながらレアムと楽しいひと時を過ごした。
「カイン様って、大勢の人達と交友を持っているですね」
「これでも勇者パーティーの元メンバーだしな。それなりに名が売れているんだよ」
「それだけではないと思います。肩書きではなく、皆さんがカイン様と楽しそうに接するのは、他ならぬカイン様の人柄が良いからですよ! 私は、そう感じました!」
「それは、俺の人柄云々というよりも、みんなが優しいからじゃないのか?」
世の中には、色んな奴らが居る。性格が良い奴、悪い奴。
そして、俺が接してきた人達が、たまたま優しい奴らだったってだけの話だ。俺だって、一生分かり合えないって奴とは仲良くなれないし、なろうとも思わない。
すると突然、レアムが俺の腕と自分の腕を組んできた。柔らかな感触と甘い香りが、俺の脳を刺激する。
「ど、どうした?」
「私も! 私も、カイン様と仲良くなりたいです! カイン様と、もっと深い関係になりたい! ……ダメ、でしょうか?」
レアムが潤んだ瞳で上目遣いにそう尋ねてくる。
これ、狙ってやっているのか? 何にせよ、こんな可愛い子にこんなあざとい仕草をされて拒否する奴は男じゃないぜ。
「もちろんだ。妙な巡り合わせになったもんだが、これからもよろしくな。レアム」
「はいっ! カイン様!」
そう言ってレアムは、俺の腕にギュッとしがみついたのである。
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