第7話
クエストを完了したので、街へ戻り、ギルドで報酬を受け取りに受付へと足を運ぶ。
「それでは、お待たせしました。こちらが報酬となります」
「どうも」
「ところで、そちらのお嬢さんはどなたですか? 初めて見るお顔ですけど」
「可愛い子でしょう? 森で偶然出会ったんです。なんでも、女神様らしくて、俺のことを奉仕してくれるんだそうです」
「……そうですか」
「おい。なんで俺を生暖かい目で見るんだ」
「いえいえ、プライベートもありますし、踏み込んだことはお聞きしません。ただ、私に警察を呼ぶような真似はさせないでくださいね。ロリコン様」
事実を言っただけなのにこの反応。やっぱりこの受付のお姉さんとは、相容れないようだな。
「ああ、そうでした。カイン様に、受けていただきたいクエストがあるんですよ」
「俺に? 何だ?」
「クエストの内容は、採取。世界樹に行って、葉っぱを集めてきて欲しいとのことです」
「気軽に難題を押し付けてくるんじゃねえよ」
世界樹とは、世界に数本だけ存在する、馬鹿デカイ大樹だ。『世界を支える樹』などと言われており、その葉っぱは、傷を癒し、病気を治す万能薬の材料となる。
但し、世界樹の周辺には超強力な魔物が棲息していて、近付くのすら困難。なので世界樹の葉の採取クエストは、最高難易度『S級』と認定されているのだ。
「カイン様。以前、ケイオス様達と一緒に世界樹の葉を集めたことがありますよね? それを聞きつけて、別の方が同じ内容のクエストを名指しで申し込んだんですよ」
「だったら、ケイオス達にやらせればいいじゃないか。何で俺が?」
「聞けば、前回のクエストではカインさんが一番貢献されたらしいとのことで」
確かに、あの時は俺のオリジナル魔法が役に立った。
薬草などの採取を効率良く行える魔法を開発して、それを世界樹の葉でも活用したんだ。でもあれは、あくまで他の三人が周辺の魔物を倒してくれてたから実行出来たことで、ソロの俺がもう一度挑んだところで…………いや、待てよ。
「レアム。採取をしている間、魔物から俺を護ってくれるか? 相手は、『A級』以上の滅茶苦茶強い魔物なんだが……」
「任せてください! 誠心誠意ご助力させていただきます!」
……この子、女神なのに結構謙るな。いや、俺は神について凄く詳しいって訳じゃあないけど、もっと偉そうな連中だと思っていたぞ。
とはいえ、レアムの力は本物だ。上級魔法の使い手なら、もしかしたら上手くいって、クエスト達成出来るかもしれないし、もし失敗しても逃げ足には自信がある。何せ勇者パーティーで、沢山の強い魔物と相手してきたからな。身を守る術は、備えているぜ。
「じゃあ、受けます。そのクエスト」
「……本当に受けてくれるとは思いませんでした」
「貴女が受けろといったんでしょうが」
「私はあくまで受付なので、形式上の仕事をこなしただけです。しかし、ケイオスさん達が居ない貴方に、S級は流石に無理だと……」
「まあ、全く成功の見込みがない訳ではないです。依頼者には、元勇者パーティーメンバーのカインが、クエストを受諾したと伝えておいてくださいね」
そう言って俺は、ギルドを後にする。
近くの酒場……は、幼い容姿のレアムが居るので避けて、たまに立ち寄る喫茶店に入った。
甘めの珈琲を頼んで、テーブルの上に世界樹までの経路が記された地図を広げる。
「すぐに向かわないんですか?」
「世界樹は、遠いからな。移動だけでも数日かかるから、色々と準備が必要なんだよ。食料のこともそうだし。魔物の活動状況、どのルートで行くのが一番安全なのかなどの情報収集も大事だ」
今までは、この手のことが四人で分担して行っていたけど、今の俺はソロだ。頼れる仲間が居ないので、前回よりも慎重に行動する必要がある。
なんてことを考えていると、レアムが。
「そういうことでしたら、私に任せてください! テレポート!!」
直後である。
先程まで喫茶店の椅子に座っていたはずの俺は、気が付けば大きな岩に腰掛けていた。
「はぁ?」
目の前の光景が一変していた。
まず目についたのは、天まで届きそうな巨大な大樹。あれこそまさに、俺がこれから向かおうとしていた世界樹だ。
そしてその周辺には、並の冒険者なら腰を抜かしそうなレベルの強力な魔物の群れが居て、そいつらが俺の方を凝視していた。
俺の隣には、女神レアムが笑みを浮かべている。
「テレポートで、世界樹の近くまで転移しました! これで、長い旅をする必要はありません!」
「ああ、なるほど。最高だな、レアム。魔物の群れのど真ん中に転移してなかったら、もっと最高だったんだけど」
群れに囲まれているため、逃げ出すことは出来そうにない。
そう思っていると、魔物達が一斉に俺達に襲いかかってきた。
「アイステンペスト!!」
レアムの魔法が炸裂する。氷の嵐が魔物を極寒で包み、瞬く間に氷結させた。
攻撃は、それだけに止まらない。
「フレアキャノン!! サンダーハリケーン!! グランドバースト!!」
魔力無尽蔵。
制限を知らない上級魔法の連打が、魔物を撃破していく。中には、勇者パーティーですら討伐が困難な『S級』の魔物も居たのだが、そんなの有象無象だと言わんばかりに蹴散らされていった。
そして、一分も経たないうちに、周辺に居た全ての魔物が倒された。
レアムがそっと一息吐く。
「お、お待たせして申し訳ありません、カイン様! 討伐に、時間をかけ過ぎてしまいました」
「……あ、そう」
「しかし、これでもう安全です! さあ、世界樹に行きましょう、カイン様! お怪我が無いよう、足元に注意してお進みくださいね!」
パッと咲いた花のように笑うレアム。その顔を見ていたら、色んな常識外れな出来事がどうでも良くなってきた。
俺は、レアムに手を引かれながら、世界樹の葉が採取出来るスポットまで足を運んだ。
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