第5話
「た、助かったよ。ありがとう」
「『ありがとう』だなんて、もったいない御言葉です、カイン様。私はずっと、貴方のことを探していました。真の勇者である貴方を」
「……なぜ、俺の名前を? それに、真の勇者って?」
「私の名前は、レアムと申します。【癒しの女神】として、魔王を討ち倒す勇者を導く役を任されている若輩者です。以後、お見知り置きを」
……この美少女は一体、何を言っているんだ?
しかし、女神レアムというのは俺も知っている。神官であるセリスに色々と教えてもらったからな。
女神レアムとは、【癒しの女神】という二つ名を持つ、神の中でも特に上位の神格。巻物に描かれている伝説にも、下界をたびたび訪れては人々を平和な世界へと導くと記されている。
人類という生命が誕生してからずっと存在しているらしいこの神は、『母なる神』などと例えられているそうだ。……目の前にいるこの子は、とてもそんな感じには見えないけど。
「貴女が本当に女神様?」
「はい。レアムです」
「にわかには信じられないけど……うん。可愛い女の子の言うことだからな、信じるよ!」
「……ああっ! ありがとうございます、カイン様! 私、貴方様に疑われたらどうしようかと思っておりました!」
「それで、女神様」
「私のことは、レアムとお呼びください」
「んじゃあ、レアム。俺を真の勇者って言ったけど、それはどういう意味なんだ?」
「言葉通りです。世間で言われている勇者は偽物。私は、貴方様こそが世界を救う真の勇者だと考えております!」
「俺が?」
「はい! 貴方様がです!」
……凄い詐欺の匂いがするぜ。
でも、信じるよ? だって、可愛い女の子がそう言ってるんだからな。
「まあ、俺は前々から自分がとてつもない力の持ち主であると自覚していたが。おお、ならつまり、ケイオスなんかより俺の方が上という訳か!」
「ケイオス様。現代の勇者ですね。しかし彼ではおそらく、人類を脅かそうとする魔王を倒すことは出来ないでしょう」
「そうなのか?」
「そうなのです! カイン様、カイン様こそが、魔王を倒すために生まれた勇者! 世界を救う人類の希望なのです!」
めっちゃ褒めてくれるやん、この子。
「えっと、俺は勇者で、魔王を倒す……ね。ん? じゃあ俺は、また旅に出て魔王を倒しに行かないとならないのか?」
勇者パーティーの目的は、魔王を倒すことだ。
およそ1000年の因縁があるとされる勇者と魔王。世代を超えて、彼らはずっと争い続けている。その戦いはどちらか一方が消滅するまで終わらない。
これまで勇者となった者は、20名以上。その中でも実際に魔王を討伐した実績があるのは、わずか3名。他の者達は、魔王の元へ辿り着けないか、魔王を討伐することなく命を落とした。
魔王討伐を成功させたのは、初代勇者にして伝説の剣豪と呼ばれた超剣士アモス。あらゆる叡智を収集してきた究極の頭脳を持ちし大賢者ハルゴン。魔族でありながら人類のために命を捧げ、最期には魔王と刺し違えた大陸の英雄ミーヴァル。
そして現代の勇者ケイオスは、歴代勇者の中でも『最強』と呼ばれていた。
そいつと肩を並べて、ついこの間まで魔王討伐を手助けしていたのがこの俺だ。
「つまり俺とケイオスは、実質ほぼ同格。ふふっ、俺が勇者とは、考えてみれば何もおかしい話じゃなかったな!」
そうと決まれば話は早い。
こんなクエスト、やっている場合じゃないぜ。すぐに街へ戻って準備を整えないとな!
……という訳にはいかない。
一度受注したクエストを、冒険者の勝手な都合で投げ出すのは御法度だ。
何かするにも、せめてこのクエストを終えてからにしよう。つまりは、サッサとオークを討伐だ。
「じゃあ、詳しい話は後で聞くから。俺は、この森の奥へ進んでクエストを達成してくる」
「私もお手伝い致します!」
「……レアムが?」
「どんなことでも仰ってください! カイン様のことは二十四時間三百六十五日、いつでも御奉仕致しますから!」
レアムは、目をキラキラ輝かせてそう宣言した。
初対面の相手に、率直に、真剣に、ここまで言ってしまえるとは。
何というか、この女神様。可愛いけど、頭のネジがややぶっ飛んでいるらしいな。
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