第2話
「へぇ〜、お兄さん冒険者なんだ〜。だから、逞しい顔つきをしているんですねぇ〜」
「ふふんっ。そうかな? まあこれでも俺、勇者ケイオスが率いるパーティーの一員なんだよね〜」
「ええっ! 勇者パーティーですか!? 街を襲うドラゴンを撃退したり、魔物の軍勢を返り討ちにしたっていう噂のあの?」
「その通りさ」
まあ、敵を倒したのは殆ど他の三人なんだけどね。俺は、街の人達を誘導したりしてた。
そんな感じで、酒場でお姉さんと楽しくお喋りしていると、見覚えのある人物がやってきた。
勇者パーティーのメンバー、女剣士エリーナである。
「堂々と嘘ついちゃ駄目、カイン。貴方はもう追放された身」
「なんだエリーナ。掛け替えのない仲間達に裏切られて傷心中の俺を嬲りにきたのか?」
「ケイオスは、貴方を想ってパーティーから追放したの。この先、私達はより強大な敵と戦うことになる。そんな時、カインを危険な目に合わせたくないから……」
「何だよそれ。俺は、完全にお荷物じゃないか」
「うん。実際そうだし」
「相変わらずど直球で答えるよな、お前は」
俺は、テーブルに置いてある酒を手に取ろうと腕を伸ばす。
しかしその直前、エリーナが先に俺のジョッキを引ったくった。
「駄目。カインは、まだ未成年」
「ちょっとくらい良いだろう? 今日は、飲まなきゃやってられないんだよ。主にお前らのせいで」
「……カイン。貴方、この後どうするの?」
この後、とは。勇者パーティーを追放されてから、ということだろう。
「何にも考えてないけど、故郷に帰るのもなんかアレだし。しばらくは冒険者として活動していくつもりだ」
「でも、カインの本来の実力では上級のクエストは受けられない。せいぜいE級クエストが関の山」
「E級って、一番下の階級じゃないか。この俺が、そこまで弱いと思っているのか?」
「うん。カインは、弱い。自信満々でダンジョンに入って、ゴブリンに袋叩きされる姿が目に浮かぶ」
ゴブリンとは、一番弱いとされている魔物だ。
そんな奴らに俺がやられると、エリーナは思っているらしい。やれやれ、幾ら何でも過小評価が過ぎるぜ。
「おい、エリーナ。飯は済ませたか?」
「ううん。まだ」
「折角だ。俺が奢ってやろう。……という訳でお姉さん。申し訳ないけど楽しいひと時はこれでお開きで。これ、お詫びの印に受け取ってください」
そう言って俺は、お姉さんに金貨が詰まった小袋を渡す。
お姉さんは笑みを浮かべてそれを受け取り、「また会いましょう」と言って席を離れていった。
「またお金を無駄遣いしてる」
「金は使う為にあるんだよ。……さて。これから良い女と食事することだし、もっと高い店に行くとするか」
俺はエリーナを連れて、酒場を後にする。
たまたま街で評判のレストランが空いていたので、俺達はそこで食事をすることにした。
「……本当に高そうなお店。お金、大丈夫なの?」
「クエストで稼いだ金がまだあるからな。お前が店の食材を食べ尽くさない限りは大丈夫だ」
「善処する」
注文を頼みしばらくして、ウェイターが料理を運んできた。
俺が優雅にワインを嗜んでいる間、エリーナはひたすら肉を食べまくる。
肉。肉。肉。とにかく肉。
この店は、結構格式高いところなんだけど、そんなことお構いないしにガッついている。マナーも何もあったものじゃない。
「エリーナ。お前もワイン飲むか? 成人は迎えているんだろう?」
「うーん。あんまりお酒好きじゃないからいい。それよりもお肉を食べた方が筋肉が付く」
「エリーナは、いつも筋肉筋肉だよなぁ〜」
「私は、勇者と肩を並べる前衛職。だからしっかり体力を付けないと駄目。その為にも食べなきゃ」
「そうですか。意識が高いことで何よりだ」
「それに、カインが私を酔わせてお持ち帰りを狙っているとも限らないから。用心してる」
「俺をなんだと思っているんだ!?」
「今のは冗談」
「全く笑えねーよ。馬鹿」
「まあ、こういう冗談を言う機会もなくなるだろうから。カインとは仲間だったし、離れ離れになるのは少し寂しい」
「……そうか」
エリーナは、無表情で、常識知らずで、たまにとんでもないことをする妙な奴だ。
それでも、確かに俺とエリーナは仲間だった。
そのことが分かっただけでも、こいつを誘った甲斐があったな。
「ほらっ。どうせもっと食うんだろう? とっておきの良い肉を奢ってやるよ」
「皿まで食べ尽くす」
「皿は食べたら駄目だぞ」
俺とエリーナは、そんなやりとりを交えながら楽しい時間を過ごしていく。
俺達の関係が、少しでも色褪せないように。
そう神に祈りつつ、俺はワイングラスの中身を一気に煽るのだった。
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