hr_06(何も分かっちゃいない)
*
「大丈夫か? 救急車呼ぼうか?」
いいです、ありがとう。
「でも、血が出てるじゃないか」
すいません、保安官事務所に電話を頼めますか? 女の人。
保安官助手の背の高い女性。
お願いします。
*
「何があったの?」
保安官事務所/カーキ色の車。
「骨は折れてないようだけど、病院行く? 保険入ってる?」
大丈夫です。
「車載の処置キットは、文字通り応急処置だから。あとで病院へ行くなりしなさい」
ありがとう。
「何があったの?」
痴話ゲンカ。痴情のもつれ、別れ話の失敗。
「被害届は?」
ところで保安官助手。狼の乳首って幾つ?
「聞かなかったことにしてあげる。送っていくよ」
どこへ?
「きみの保護観察官」
どうして。
「呼んだのは、きみ」
「わたしは便利なタクシーじゃないよ」
あなたに乗るほど命知らずじゃない。
「はッ」保安官助手が笑う。「もしハンドルを握っていなかったら、助手席の窓に、きみの脳みそブチまけてたわ」
タバコが吸いたい。
*
「きみはどうしたい?」
ここに残るか? 外へ出るか。
「問題を起こさないように。選べなくなる」
そうですね。
タバコが吸いたい。
*
野良から買った葉っぱは、値段以下の粗悪品。
ひどい味がした。
狼は肉を食み、鬼は血を吸う。
ここでのヒトは、最下層。
*
鬼に首を差し出し、牙が埋まる。
ぼくが鬼になったと知ったら。
彼はどんな顔をするだろう。
ああ。
もっと早くこうしていれば良かった。
さっさとこうしていれば良かった。
オオカミニンゲン観察官。
ああ! ざまあみろ。
ぼくは、鬼になったんだ。
*
なんて浅はかな!
彼が嘆いた。
なんだ、嬉しくないの?
ぼくは残ることを決めたのに。
きみは何も分かっちゃいない。
いいか、鬼は、鬼なんだ。
なに云ってるんだ、この狼。
いいか、きみは鬼の仲間ではない。
鬼の、手先になっただけだ。
鬼は、新たに仲間を作らない。
作るのはゾンビだ。
半分死んでる血の供給器。
四つ足の運び屋、つまりワゴン。
鬼は冷たく残酷だ。
ぼくは、ここではお荷物だ。
何も変わらないよ。
違う。今までは、きみは自由だった。
選べた。
ここに残るか、外へ行くか。
今は、もう、選べない。
あんたが望んでいたことだろう?
違う。
これは私が望んだことでない。
嗚呼。
彼は両手で顔を覆った。
嗚呼。
なんてことをしてくれたんだ。
きみはもう、戻れない。
あんたと寝たら良かったの?
嗚呼。
きみはちっとも分かってない。
ちっとも何も分かっていない。
嗚呼。
バカにするな。
ぼくは怒った。
あんたたち、バケモノに情けをかけられるほど落ちぶれちゃあいない。
嗚呼。
本当に、なんてバカなことを。
嗚呼。
嗚呼。
神さま。
人狼が祈りはじめた。
ああ。神さま。