hr_04(保護観察の傘)
*
再び、保護観察官のオフィス/引き渡し。
保安官助手は町に帰る。
ぼくはオフィスに閉じこめられる。
太っちょの保護観察官とふたりきり。
「気分はどうだい?」
まあまあ。
ところであなたは、どうしてこの仕事を?
「教師と掛け持ちだ。子供は好きだよ」
子供ね。嫌にならない?
「まさか。確かに、ときどき、きみのような子供には困らせられるが──」共犯者のウインク。「自分も、そうだった」
ならぼくのことも、こりごりになるってことだ。
タバコが吸いたい。
*
「きみのことを教えて欲しい」
なにから?
「家族のことは、どうかな」
話したくない。
「そこに問題があるようだ」
ぼくを哀れんでくれるの?
いいかい、センセイ。親父はぼくを犯した。お袋は親父を刺した。刺したお袋は塀の中、親父は外に追い出された。出てきたお袋は狼と暮らしてる。ぼくのことなんか気にしちゃいない。
「そうか」
親父は狼との半々で、ヒトの分しか受け継がなかった。
「きみはヒトだね」
そう。ぼくはヒトだ。
タバコが吸いたい。
*
「いるかい?」
彼はタバコの箱を取り出した。
ぼくは貰って、一つの火を分け合った。
白い煙/ケムトレイル。
狭い部屋に、漂った。
「これもすっかり贅沢品になってしまった」
自虐的に微笑んだ。
柔らかい香りがした。
本物の味がした。
「問題は法的練度と、社会実態が乖離していることだ」
*
きみたち若者には信じられないだろうけれども、昔は飛行機でも新幹線でも、職場でも、学校でも、タバコは自由に吸えた。
映画で見たか。なるほどね。
きみたちの世代は、本でなく映画で学ぶのか。
本を読むか。それはいい。
図書館の貸し出しカードは作ったかい?
本を借りて読むといい。たくさん本を読むといい。
知っているかい?
ロケット発射の指令センターも、白い煙でもくもくだった。
機械がたくさんあって、たくさんの技術者がいて、最高の頭脳が集まって、もくもくと、白い煙を吐き出していた。
最新/最高/危険/挑戦。
テクノロジーの集合体。
そこでもタバコがもくもくと。
いい時代だったろうか?
ロケットは、悲しい技術だ。
町を壊すために作られた。海を越えるのに作られた。月に行こうと、作られた。
それで?
月に旗を立てた。
──それが始まりだ。
あそこは誰の土地でもない。
エイリアンの土地でもない。
月は、わたしたち狼の領分だ。
ヒトの分は、ないんだよ。
*
──鬼も同じ主張をしてますよ。
ぼくは教えてやった。
保護観察官は、にこり、と笑った。
ぞろり、と尖った歯が見えた。
犬が。
*
捜査官が接触した。BOC、人外調整局。
小綺麗なオフィス/空の部屋。
「きみには、黙秘と同等に、主張する権利がある」
もちろんだ。発言の自由だ。
「しかし、それが通るとは限らない」
その通り。それが世間だ。
「つまりきみは、どうしたいか、好きに述べることはできる」
当たり前だ。何人たりとも侵せない。
「で、どうしたい? 我々はきみを助けたい」
答えは分かっているのに?
「そうでも云わなきゃ伝わらない」
ぼくは、どちらも選ばない。
彼は、
(ちびた)
鉛筆を握り、手帳に書き込んだ。
左利き/結婚指輪。
ぼくの自由だ。
「そうだ。わたしはきみに興味もない。軽蔑もしない。しかし社会は違う。制限を課す。きみは依然、保護観察の傘の中だ」
ぼくは彼を睨みつけた。
彼はちっとも気にしていない。
ぼくなんか、眼中にないって顔だった。
タバコが吸いたい。