hr_03(子供のしっぽ)
*
約束の時間と、約束の場所。
遅れて到着。
保護観察官のオフィス。
「元気にやってたかい?」
節穴って云われません?
「悪いことはしてないね?」
ぼくには分かりません。
「きみは約束をすっぽかす。困るよ」
あなたに?
「きみだよ」
あなたのことでしょう。
「そんな意地の悪い云い方はよしとしようじゃないか」
タバコが吸いたい。
*
電話番号。辿って/辿って。
待ち合わせ/取り付けた。
約束の時間/約束の場所。
お巡りさん/やって来た。
「お前か」ため息。「保護観察官から届けが出てるぞ」
そんなこともありましたね。
「からかうな」
そんなつもりはありません。
「ここに残りたいか? 外へ出たいのか?」
答えない。
「お前はまだ子供だ」
新しい番号が発行された。
仮ナンバーの社会保障/住人の証。
これが、ぼくの、名前。
ヒトでいるか、バケモノになるか。
「どうしたい、どうなりたい?」
刑事さん、暇なの?
「刑事じゃない。パトロールだ。ドジを踏んで、冷や飯を喰ってる。お前みたいなチンピラを相手にする」
かわいそうに。
「そりゃどうも。他に何か?」
お願いがあるのですが?
*
ふたりで車の中で待つ。
保安官助手、やって来た。
「きみか」
おっぱいがしゃべった。
「ごめんね、ケヴィン」
「ご指名だからな」
保安官助手がドアを開ける。
「出て」
「いいか、坊主」警官が云う。「一線を越えるな。今はまだ、間に合う」
ぼくは彼を見る。彼もぼくを見る。
黒曜石みたいな、深い色の瞳。
「行くよ」
急き立てられて、車を乗り換え。
保安官事務所/カーキ色の車。
「先生から連絡あったぞ、きみ。顔を出していないんだって?」
先生って、ああ。でぶの狼か。
「大柄の先生よ」
そうですね。保安官助手。
みんなぼくを欲しがる。
ぼくの子供のしっぽを欲しがる。
ダヴィデ像を知っています?
背が高く、屈強で、目にハートマークが掘られている。
ちいさくて、まるくて、先がすぼんでいる。
ぼくとそっくり。
ねぇ、保安官助手。美術には興味ない?
「行くよ」
どこに?
「逃げたツケよ、堪忍なさい」
はい、保安官助手。
ところで、タバコが吸いたいんですが。