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紹介と案内


「それで、どういうつもりだ?」

「んー、何の事かな?」


場所は少し移る。

試合場でのイスフィエールとの模擬戦。

最後の一閃を乱入者によって止められたメルトは先ほどの声の人物によって大きな部屋に連れていかれていた。


「とぼけるなよ。あれは生徒会長が認めた正当な模擬戦だ。いくらアンタが学園長だとは言ってもそれを止める権利はねぇはずだ」

「正当な、模擬戦ねぇ……」


メルトの言葉に学園長と呼ばれた人物は深く椅子に座りなおす。そして、一拍置いて静かに話し始めた。


「それなら聞くけど……少し騒いだ生徒がいたからって、生徒会長が勝手に生徒の進退を決めていいと思う?」

「……ああ?」

「それに、私はこの学校の責任者なんだよ?入学式の最中に勝手に模擬戦を始めた生徒が居たらそれは止めるのが普通じゃない?」

「……ん?まぁ、それはそうだが」

「というか先ず、問題を起こして入学式を中断させたんだから、他に言うことが有るんじゃない?それに……」

「……あ、ああ。そう、か。それは……悪かった」


不味い。当然と言えば当然だが旗色が悪い。

考えてみればメルトは入学式を無視して勝手に模擬戦を始めたのだ。

止めてくれたことに感謝こそすれ、どういうつもりだ、というのはなかったかもしれない。

それに、あのまま行ったらメルトは牢屋に送り返されていた。


(自分でも気づかないうちにイスフィエール憎んでいた、か。危なかったな)


「あの、聞いてる?」

「……あ、ああ。悪い。何の話だ?」

「だ・か・らぁ、自己紹介だよ。自己紹介。私はアディ・エルメリア。みんなの前じゃなければ、アディって呼んでくれていいよ。よろしくね」

「俺はメルト・エイセリス。よろしく頼む」


お互いに紹介が終わると、握手を交わす。


「それで、他に聞きたいことはある?」

「ああ、じゃあ一つだけ聞いても良いか?」

「うんうん、何でも聞いてくれていいよ」

「何で、俺だけ呼ばれたんだ?」

「ん、そんな事?そんなの、初めて入学してくる男の子だからどんな人か把握しておきたかったって言うだけの事だよ」

「初めて、なのか?」


どうやらここは女子校らしいが確か天聖器や幻魔器などの魔導器の適性に性別は関わらなかったはずだ。

ひょっとして、男子校もあるのか。メルトの頭を一瞬その言葉がよぎる。だが、直ぐにその考えを否定する。

そっちの学校があるならば態々女子校の方に入れる意味はない筈だが。


「うん。だってほとんどの人は――――――」


――――――ゴーン…ゴーン…


唐突になった鐘の音に打ち消されてしまった。


「え、もうこんな時間!?やばっ、この後打ち合わせがあるんだった」


アディはその音を聞くなり慌てるように書類をガサゴソといじり始める。どうやら会議の時間らしい。


「ごめんね。話の途中なんだけど私この後仕事があって。また、今度答えるよ。あ、それと教室はこの1つ上だよ」


ドタドタと部屋のあちこちを走り回りながら必要な書類を取っていく。手際の良さは流石学園長と言ったところか。


「ああ、分かった」


メルトもそろそろ教室に言った方がいいかと部屋の出口へと歩いていく。


「あ、もう行くの?大変だと思うけど頑張ってねー!」

「……?ああ」


歩いていくメルトの後ろではしばらくの間部屋を走り回る音が聞こえていた。






「……ん。ここか……」


二階の教室に着いたメルトは指定された教室の扉に手をかけて、開けるのを止めた。


「おいおい、アイツ同じクラスかよ」


理由は単純、扉の向こうからついさっき戦った女子生徒の声がしたのである。

話している内容からして恐らくもうクラスの皆は集合しているのだろう。


(遅れた理由は……自分のせいだな)


学園長に呼び出されていたとはいえ、時間を確認していなかったのは自分だ。メルトは小さく深呼吸をすると、覚悟を決める。


「おい、そこの奴。こそこそと何をやっている。入って来い」


だが、メルトは学園の生徒や教師を見る眼を改めることになった。


「あ、ああ」


まさか、バレるとは思わなかったが、呼ばれた以上入るしかない。メルトは扉をゆっくりと押し教室へと入っていく。


(……居づれえ)


当然ながら入って来る初めての男子生徒に教室内は様々な声が飛び交う。

メルトはどうにもこの女性特有の空間があまり得意ではない。

不幸中の幸いは自分を見る視線はイスフィエールのものを除いて殆どが珍しいものを見るような視線だったこと。

そして。


「……また会ったな」

「う、うん。よ、よろしく、ね?」


顔見知りがいたという事だろう。


「すみません、少し遅れてしまって」

「ん?ああ、そんな事か。予め学園長から話は聞いているからな、問題はない」

「学園長が?」


どうやら、メルトの知らない間にちゃっかり報告はしておいてくれたらしい。

学園長の優秀な一面に驚きつつも、メルトはそれならと空いている席に座ろうとする。どういう座り方かは知らないがメルトの席は一番後ろの端らしい。


しかし、メルトが席に移動しようとした時。ふと、後ろから声がかけられた。


「そうだ。ついでだから君も自己紹介を済ませてしまうと良い」

「……自己紹介?」

「ああ、丁度左のイスフィエールから進めていたんだが、君はちょっとばかり特例だからな。どうだ?」

「そういう事なら、分かった」


要はちょうどいい具合に生徒の視線も集まってるし、このまま面倒ごとは全部終わらせてしまえ、という事だろう。メルトとしても特に断る理由はない。


メルトは階段を上がり、自分の席のもとまで移動すると。


「俺はメルト・エイセリス。さっき戦っていたから分かっているとは思うが幻魔器使い(アナザー)だ。だけど、問題を起こすつもりはないから、邪険にしないでくれると助かる」


と、精一杯の不格好な笑みを浮かべた。






「まあ、一先ず最悪は回避したか……」


結論から言って。メルトの笑顔作戦は成功でもなければ失敗でもなかった。

初日は講義がないためメルトはこの後どうしようかと自分の席で考えていたのだが。


(視線が……)


女子生徒たちは皆一様として教室から出ようとせず、いくつかのグループに分かれて話しながら時折こちらをちらちらとみてくるのだ。

どうも、メルトが自己紹介の時に半端な笑みを浮かべたのがいけなかったらしい。人相の悪さがこんなところで仇になるとは。


(仕方ない、町でも見に……)


行くかと、席を立ちあがろうとしてふいに近づいて来る足音に気づいた。


(……はあ。それは来るよな)


当然、来るとは思っていた。来ないならば明日自分から行こうとすら思っていた。二人は、互いに知りたいことが多すぎた。


「おい、メルト・エイセリス。このあと少し時間はあるか?」


足音が聞こえ始めて数秒後。メルトの机が勢いよく叩かれる。メルトはやっぱりかと思って視線を左に向けると、そこに居たのは青髪に均整の取れた顔。入学早々戦うことになってしまった少女、イスフィエール・アルサリアだった。


「ねぇねぇ、あれって!」

「きゃぁー、あんなに迫って!大胆だわー!」

「模擬戦でいがみ合ってた二人がいつの間にか恋に。きゃー!」


同時に、教室の各所から黄色い悲鳴が上がる。


よく聞こえないが恐らく二人の関係を邪推しているのだろう。

試合場の内部は特殊な膜によって遮られているため中の会話が外に漏れることはない。

それはあの会話が聞かれていないという事なので、メルトにとっては幸運としか言いようがないのだが、周りの女子生徒たちの騒ぎ方を見ると一部くらい流した方がよかったかとすら思ってしまう。


「ああ、丁度俺もお前に会いたいと思っていた所だ」


だが……とメルトは口を噤む。

ここで重要なことを思い出してしまった。

これからの生活費は自分で稼がねばならないのだ。

つまり、今日お金を稼がねば夕飯すら食べることが出来ないのだ。


「悪いが、少し待ってくれ」

「……何か罠でも仕掛ける気か?」

「いや、貴族の奴が言っていた学園内で金を稼げる場所ってやつを見ておきたいなと思っただけだ」

「……」


瞬間。イスフィエールが目を丸くする。

そして……


「ん、何だ。貴様金に困っているのか?」


核心を突く一言を放って来た。


「……う」


間違ってはいない。間違ってはいないのだが、こうも直球に言われてしまうと心に刺さるものがある。


「まぁ、とにかくそう言う訳なんでな。悪いがまた後から……」

「……ふん。その程度私が案内してやる。来い」

「あ、ああ……悪いな……」


どういう風の吹き回しだろうか。

唐突に案内を申し出たイスフィエールに、今度はメルトが目を丸くしていると、イスフィエールはそそくさと歩いて行ってしまう。

メルトは戸惑いながらもその誘いに応じるのだった。






「ここが……」

「ああ、ここが世壊獣(ファリス)討伐体の登録所だよ」


十数分後。教室から出た二人は一つの大きな部屋に入っていた。同時に、イスフィエールの言葉にメルトは、背中を嫌な予感が駆けあがっていくのを感じていた。


「なあ、もしかしてこの学園で金を稼ぐ方法って世壊獣の討伐か?」

「……?ああ、他の依頼も多少はあるが基本はそうだぞ」

「……そうか」


(ちっ、また嵌めやがったな)


恐らく、あの貴族はメルトに一匹でも多く人類の敵である世壊獣を倒させようとしたのだろう。メルトが倒しきれたのなら良し、死んだとしてもそれはそれでメルトという危険人物を消せるのだからどちらにしたって損はない。

唯の確認不足だが、言いようのない敗北感に襲われるメルト。

とはいえ、ここで愚痴っていた所で世壊獣を倒せるわけでもない。


「ちっ、アイツの思惑に乗っかるのは癪だが背に腹は代えられねぇか」

「……なんか言ったか?」

「いや、何でもない。それよりも、登録するにはどうしたらいい?」

「それならあそこだよ」


そう言ってイスフィエールは一つの場所を指で指す。


メルトが視線を向けると、そこには数個のカウンターと並んでいる生徒たちの姿があった。


「うへぇ、ここに並ぶのか」

「今日は入学式の日だからな。新入生たちが並ぶんだよ」

「そうか。はぁ、仕方ない……並ぶか」


イスフィエールの説明にメルトは腹を括り、一番手前の列へと歩いていく。

だが、そこで一つの違和感に気づいた。


「お前は、登録しないのか?」


考えてみればこの学園に中等部はなくイスフィエールもここに来るのは初めての筈だ。ならば、イスフィエールも並ぶのが自然ではないのか。何の気なしの素朴な疑問だったのだが、返ってきたのは呆れるような溜息だった。


「はぁ……貴様は本当に……はぁ……世壊獣を討伐するのが私達だけだと思っているのか?」

「……?」

「軍。それに、探索者(ハンター)がいるだろう?軍は任務だからまた別だが、探索者が登録できるように他の所にも作っているに決まっているだろう」

「ハンター……?」


初めて聞く単語だった。すると、その反応から聞きたいことを読み取ったのかメルトが聞くよりも早く答えてくれた。


「ハンターは、国家に縛られず依頼に応じて世壊獣を討伐する傭兵みたいなものだよ。良い点は自由に依頼をこなして金を稼げること。悪い点は死んだ時に何にも保証が起きないことと、生活が安定しないってところか」

「はぁ、そんな奴らがいるのか……」


投獄されている間にずいぶん変わったんだな、と素直に関心の声を上げるメルト。

確かに巧いやり方だ。

国が適当な金を積めば誰かしらが動いてくれ、最悪死んでしまってもそのまま使い捨てにできる。

代わりに、フリーの者達は自分で受ける仕事を選べ、自分には荷が重いと判断したら軍と違い多少の違約金と信用を払えば依頼を破棄して逃げられる。


しかし、そう考えると若干デメリットが大きい気がしないではないのだが、どうせメルトは登録しようとしまいとBレート以上の世壊獣がでれば強制的に討伐に参加させられるのだ。

それならば、登録していようがいなかろうとさして変わりはないだろう。


「まぁ、取り敢えず並んでみるしかねぇか」


覚悟を決めたメルトはいつの間にかさらに増えている大量の女子生徒に若干の頭痛を覚えながら、列の最後尾へ歩いて行った。


――――――少年と少女の交差する道や如何に・・・・・・


銀き災厄の存在しない物語、第三話。どうしても、一話だとあまり進まないんですよね。

物語の進行上、しばらくの間更新はこちらがメインになると思いますが、もし更新日が気になるという方がいらっしゃいましたら、Twitterの@Gaiha_K_Sというアカウントで更新報告を行っていますので確認して頂けると幸いです

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