氷の天使と漆黒の蛇竜
1週間程度で更新する予定だったのですが、ストーリーを組み直すのに時間がかかって結局2週間くらい経ってしまいました・・・・・・
『それでは、これより新入生イスフィエール・アルサリアとメルト・エイセリスによる模擬戦を始めます!両者、前へ!』
晴天に包まれた屋外の試合会場。
さっきまでの講堂から数分の距離にあるこの場所は今、今日一番の賑わいを見せていた。
応援席からは声援が飛び交い、メルトのいる中央の決闘場を包み込む。
「悪いが楽に終わらせてやるつもりはないぞ?」
「ちっ、やるしかねぇか……」
――――――相手は何でもあり。自分は……
危害を加えてはいけない。想像以上に厳しい条件だ。対面して改めてわかる。この少女は強い。これまで戦った者たちの中でもトップクラスに入るほどに。勝算はない。
だが、メルトもここで引くわけにはいかない。
メルトは静かに目を閉じ、右手を前へ突き出すと
「目覚めろ、ニーズヘッグ!!」
漆黒の魔剣を召喚した。
「―――新入生主席イスフィエール・アルサリア、新入生次席シャルエット・エストリカ。前へ……」
「はい」
「は、はい」
時は少し遡る。
入学式の後半。講堂内の生徒達も少しづつ集中力が切れ始めた頃、二人の生徒が壇上に登った。
一人は見覚えのある栗色の髪をした気弱そうな少女、シャルエット。
そして、もう一人は。
「良く来ました。それでは、これより試合場に移動して私とこの二人による、模擬試合を……」
「……っ、イスフィエール!!」
講堂内。淡々と進んでいく式の中で気づくとメルトは明らかに場違いな叫びをあげていた。
理由は分かる。その少女は、メルトにとって忘れられない人だったから。
「メルト・エイセリス。何をしているのですか……」
説明の邪魔はおろか式さえ中断させたメルトに、フィリアが威圧を放つ。
凡そ常人には耐えられないほどの殺気は、歴戦の猛者ですらも怯んでしまうだろう。
しかし、最早メルトの視界にフィリアの姿は入っていない。
「有りえない、なら、あいつは本当に……!」
式場に動揺が広がる。
何か催し物の一環かと思っているのだろうか。
俄かに騒めき立つ生徒達に、看過しきれなくなったフィリアが腰の鞘に手を当てて。
「私を呼んだか?メルト・エイセリス」
壇上にいる一人の女子生徒の声によって止められた。
「お前は……誰だ?」
「さあ、誰だと思う?貴様の記憶を漁ってみれば分かるんじゃないか……?」
イスフィエールの言葉に、メルトの顔が微かに歪む。
かつて、一つの国で革命が起きた。
殺したのはその国の王に王妃、貴族、だが一人だけその国に居なかった王女が居た。
「そうか、やっぱりお前は――――――」
メルトがイスフィエールを睨む。
だが、最後まで言い終えることは出来なかった。
瞬間、二人の意識を強制的に持っていくほどの殺意が、彼女の背後から放たれたから。
「……いい加減にしなさい、イスフィエール・アルサリア、メルト・エイセリス」
「フィリア・クロスヴェイル……」
メルトの言葉に、視線が向く。
抜き身の剣に当てられた手は、メルト達が動こうものなら瞬時に攻撃が飛んでくるだろう。
一瞬で静まり返った空気は、彼女の実力が絶対的なものだという証。
「メルト・エイセリス、貴様に模擬戦を申し込む」
それでも少なくとも一人、臆していない人はいるようだった。
「……イスフィエール・アルサリア、何をしているのかしら?」
「良いじゃないか生徒会長。どうせ私とシャルエットの二人でかかっても足元にも及ばないんだ。それなら学園史唯一の男子生徒であるこのメルト・エイセリスの戦いを見た方が他の奴らも楽しいと思うぞ――――――」
そうだろう、とイスフィエールが剣を振り上げると、数秒の後、どこからかぽつりぽつりと歓声が上がり始める。
流石は元王女様という事だろうか、言葉遣いは粗いが人の心を向けるのは上手い。
もっとも、生徒会長の顔はこれまでに無い程歪んでいたが。
「……良いでしょう……それではこれより式の予定を変更し――――――!」
「どうした?試合の前に考え事か?」
「いいや、集中してただけだ」
「……そうか」
試合前、二人は試合開始の合図を待っていた。
イスフィエールの言葉にメルトは今朝の出来事を思い出し歯噛みをする。
(ちっ……面倒なことになったな……)
冷静になって考えてみればわかることなのだ。
例えイスフィエールがあの国の王女であろうと、今の自分には生徒に危害を加えてはいけないという制約があるのだ。
試合など唯の時間の無駄でしかない。
今更やめることも出来ない以上、適当に負けて謝罪をする、メルトはこれが最善だろうと剣を構えるが。
『メルト・エイセリス、イスフィエール・アルサリア。これより模擬戦を始めますが、ここで、私から一つ条件の追加があります』
そんな二人の言葉を遮り、拡声器から生徒会長フィリア・クロスヴェイルの言葉が響いた。
(何だ……?)
確かに何事もなく運び過ぎだとは思ったが、もしかして何か罰でも付くのか。
こんな思考は甘かったと言わざるを得ないだろう。
「ここまで入学式を荒らしたのですから当然覚悟は出来ていると思いますが。敗者は退学。以後、学園への出入りを禁止とします」
(っ、不味い……!)
フィリアの言葉にメルトは小さく舌打ちをする。ここまでしたのだから当然と言えば当然なのだが、この展開は一番不味い。
今の放送によってメルトは負けることが出来なくなった。もし負ければ退学、すなわち誓約違反となり、即座に牢獄に送り返されることになる。そして、それは勝利する過程で相手を傷つけても同義。
イスフィエールの言葉によっては、彼女も復讐対象に加わるため殺すが、今の時点で断定はできない。
メルトはこの瞬間、イスフィエールに危害を加えることなく勝利するという条件を付けられたのだ。
『それでは、これより新入生イスフィエール・アルサリアとメルト・エイセリスによる模擬戦を始める!両者、前へ!』
――――――やるしかないか
最早後戻りはできない。退路は断たれたのだ。
メルトは指示通り数歩前に踏み出し開始位置に立つ。
「悪いが、楽に終わらせてやるつもりはないぞ?」
「ちっ、やるしかねぇか……」
こうなってしまった以上勝利する以外に道はない。既にイスフィエールも開始位置まで移動し準備は万端だ。
どちらが先かは分からない。
だが、二人はほぼ同時に手を虚空にかざすと。
「目覚めろ、ニーズヘッグ!!」
「目覚めろ、サンダルフォン!!」
それぞれの武装を召喚した。
「これを使うのも久しぶりだな……」
闇が集まっていく。
メルトの足元に突如出現した闇色の魔法陣は、昼を塗りつぶす様に暗く輝き景色を覆っていく。その姿はまるで地上に影を落とす黒い太陽。
やがて、闇は爆発するようにメルトを呑み込んだかと思うと、一瞬のうちに凝縮し一振りの剣を生み出した。
「……ニーズヘッグ」
その姿はまるで禍々しい黒龍の咢。
柄からは刃先まで全てが黒く光り怪しげな闇を発するその姿は、引き込まれてしまいそうな程に魅しく、呑み込まれてしまいそうな程に恐ろしい。
「始めるぞ……これが、第一歩だ……!」
それは、誰に向けた言葉だったのか、メルトは虚空から解き放った漆黒の剣を手に再度試合場に降り立った。
「会えた、ようやく会えた……」
吹雪が吹き荒れる。
イスフィエールの足元に出現した半透明の魔法陣は大気をすら凍結させるように輝き、イスフィエールを呑み込んでいく。
「サンダルフォン。天使型の世壊獣だったか。はっ、皮肉だな……」
現れたのは陽光を反射して輝く氷の剣。
細身の刀身は繊細な氷細工のように美しく、今にも溶けてしまいそうな程に儚い。
「始めよう……これが……最初の……!」
誰にも聞かれることはない。
誰にも理解される必要もない。
イスフィエールは小さく白い息を吐くと氷の剣を解き放ち、舞い降りるように試合場へと降り立った。
『――――――――――――試合……開始!!』
そして、二人が武装を召喚したのとほぼ同時。会場に試合開始の合図が鳴り響いた。
「……ようやくね。さぁ、始めましょう。私達の存在しない物語を……」
同刻、試合場の屋根上。睨み合う二人を見る不穏な人影があることに、気づいた者は誰も居なかった。
「……」
「来ないのか?それなら、こちらから行くぞっ!!」
イスフィエールの姿が消える。
恐らく長期間牢屋に入っていたせいで天聖器の身体能力強化に反応速度が追い付かないのだろう、メルトは急いで剣を構えるも、次の瞬間には剣は喉元にまで迫っていた。
「くっ……!」
防げたのは恐らく偶然だろう。
それほどまでに鋭い一撃だった。迫る氷の剣にメルトはギリギリで漆黒の剣を滑り込ませると鍔迫り合いに持ち込む。
これなら、男であるメルトが押し切れる…筈だった。
「……かかったな」
「なん、だっ……力が……!」
次の瞬間。メルトの身体に奇妙な感覚があったかとおもうと、あろうことか押され始めたのだ。
「ちっ……不味い、かっ……」
このままでは分が悪い、そう思ったメルトは一瞬だけ力を込め氷の剣を跳ね上げるとイスフィエールの腹部目掛けて足を振りぬく。
当然、避けられることが前提だ。
「……っ!小癪、なっ……!」
これには腕を戻すのが間に合わないイスフィエールは交代するしかない。初撃で押し切れると考えていたのか、少し悔しそうな表情をしている。
だが、今の一瞬メルトが見ていたのはイスフィエールではなかった。
(……!!今の能力……ちっ、あれはまさか……)
否、まだ断定はできない。
メルトは剣を構えなおすと、足を一歩踏み出す。
まだ間違っている可能性もあるのだ。
「今度はこっちから行くぞ……!」
わざわざ声を上げたのは気合を入れるためではない。
万が一にでもイスフィエールが見落とすのを防ぐためだ。
「来い!今度は叩き斬ってやる!!」
しかし、その心配はなさそうだった。
メルトの突撃にイスフィエールも一拍遅れて剣を振りかぶる。
今度はさっきとは逆。
メルトが攻撃で、イスフィエールが防御。
互いに攻撃型の魔導器である以上、打ち合えば勢いの付いている攻撃が勝つ。
だが、メルトの狙いはそこではなかった。
(これが、あいつの天聖器であれば、あの能力を……!)
剣を打ち合いながら、メルトは徐々に剣速を上げる。
確かめるには、速度が足りない。
「ちっ……身体がっ……付いて来ねえ……!!」
速く、もっと苛烈に。
剣を無数に打ち付けながら、メルトは更に速度を上げる。
「くっ……速いな……だが……!」
イスフィエールは迫る剣戟を打ち払いながら、一歩後退する。
追撃を加えようとするメルトだが、踏み出した直後、メルトの足元に巨大な魔法陣が出現した。
「やっぱり、それは……!!」
「拘束しろ氷獄」
一刻も早く魔法陣から脱出しようとするメルトだが、刹那メルトを囲うように無数の氷柱が出現する。
やがて、数秒の内に3メートルほどの高さにまで達した氷柱は、天井をも凍らせメルトの逃げ場所を奪っていく。
その様子は正に氷の牢獄。
閉じ込められたメルトに逃げ道はなく、完全に勝敗は決したと、観客の誰もがそう思った。
しかし、次の瞬間。
「切り裂け、復讐は暗く復讐は醜く!!」
メルトを閉じ込めていた巨大な氷獄が、轟音とともに砕け散った。
「なっ!!」
イスフィエールが驚愕の声を上げる。
まさか、完全に閉じ込めた相手に破られるとは思わなかったのだろう。
「……っ、氷獄が破られるとは、流石は『銀き災厄』ということか」
銀き災厄。それは果たしてどのような意味だったのか。
試合場を覆う大量の砂煙の中、現れたメルトにイスフィエールは剣を構えなおす。
だが、その様子は今までと違っていた。
「ああ……やっぱりか……」
虚空に向かって何事かを呟くメルト。
(何だ……気でも触れたか……?)
どちらにせよ今がチャンスか。
正面からの打ち合いでは勝てないことが確定したが剣すら構えていない今なら。
「運良く逃げられたみたいだが……これで……!」
イスフィエールは踏み出すと同時全速力で駆け出し、メルトの首元へと剣を振り切る。
だが、刹那の後。弾かれたのはイスフィエールの方だった。
「何っ?」
早い。それこそ、今までのどの一撃よりも。
イスフィエールは驚愕と共に一瞬の隙を晒してしまうが、直ぐに立て直し、今度は数十回と斬りつける。
しかし、その尽くが弾かれ、払われ、打ち返された。
「……お前じゃ無理だよ。俺はその天聖器を知っている。誰よりも詳しくな」
(っ……何を言って……!)
言っている意味が分からない。メルトとは一方的に話したことしかない。この天聖器も知られている筈がない。
なのにどうしてか。全てを見透かされているように感じる。
「貴様は……何を知っている……?」
イスフィエールは正面に佇む男に問いかける。
「……さあな」
返ってきたのは、無言の笑みだけだった。
―――これも、運命のめぐりあわせか。それとも、本当に……
メルトの頭を様々な憶測が巡る。
沸き上がってくる疑問は尽きなかったが一先ずこの戦いを終わらせるのが先だろう。
契約上、危害を加えることは出来ないが、寸止めまでなら別だ。
「はっ、今度はこっちからっ……!!
メルトはイスフィエールの質問をはぐらかすと漆黒の剣を構え、イスフィエールの元へ踏み込んでいく。
先ほどとは比べ物にならないその一撃は黒銀の光を纏っているようにさえ見える。
「真正面からだと?舐めるなっ……!」
とはいえ、前から振り切られるだけの愚直な剣閃など、いなすのは造作もない。
イスフィエールは腰を落とすと、構えなおした氷の剣を僅かに引いて迎え撃つ。
十合…二十合…二人の剣戟が鳴り響く。
未だ慣れていないためか速度に任せ単調な動きで攻めるメルトに、若干速度では劣るものの長年鍛錬を積んできたであろう技巧の剣で切り払うイスフィエール。
一見すると両者の実力は拮抗しているように見える。
だが、どちらが先に崩れるかは明白だった。
(長引けば俺が不利になる、か。なら……!!)
ここで決める。勝つには今しかない。
今が勝敗の瀬戸際だと判断したメルトは大きく息を吸い込み、迫る氷剣を弾くと、あろうことか一歩踏み込んだ。
「何っ……!?」
予想外のメルトの行動にイスフィエールも思わず剣を振り下ろすのを中断し後ろに大きく飛んで回避行動をとってしまう。
(勝った!これなら……!)
押し切れる。一か八かイスフィエールが飛んでくれることに賭けたが、どうにか賭けには勝った。
空中に浮かばせてしまえばメルトの剣を回避することは出来ない。剣を戻すのも間に合わないだろう。
後は首に寸止めして勝利宣言をすれば勝手に降伏するだろう。
勝利は確定した、イスフィエールという少女については結局何も分からなかったが、一先ず牢獄に逆戻りという最悪の事態は防げた。
「これで……!」
メルトは小さく歪んだ笑みを浮かべ、未だ空中にいるイスフィエールの首に剣先を突き付けようとして。
「な……んだ。身体……がっ……!!」
急激な脱力感を感じ、膝をついた。
「……はっ、ようやく聞いてきたようだな」
刹那、追い詰められていたはずのイスフィエールの口角が持ち上がる。
「貴様は勘違いしているようだが、誰も長時間触れていなければいけないと言った覚えはないぞ」
「……ちっ、測り間違えたか」
勝ったと確信したのか、イスフィエールは剣をメルトに向けたまま嘲笑うように一歩、また一歩と近づいてくる。
対して、メルトは何も答えずただ顔を俯かせたまま立ち上がる気配はない。
「だんまりか。なら……終わらせてやる……!」
それを降伏と受け取ったのかイスフィエールは剣を空に掲げる。すると、イスフィエールの周りに巨大な氷の槍が出現した。その数は合計15本。既に動いていない者を倒すには過剰すぎる力。
「これが今の私の全力だ。終われ、氷穿の戦槍!!」
気合裂帛、イスフィエールが剣を振り下ろすと同時に5本の槍が射出される。
メルトは動かない。
既に諦めているようにさえ見える。
「……っ、はぁ…はぁ…これで…」
だがどうやら、イスフィエールも限界だったらしい。額には玉の汗が滲んでいる。それでも、最後のとどめのために全力を使うというのは武人としての礼儀か、はたまたこれで退学する者へのせめてもの情けか。
その真意は本人にしかあずかり知らぬところだったが、氷槍はメルトの眼前に迫り。
「……やっぱり、その天聖器は……!」
高速で振られた漆黒の剣によって真っ二つに両断された。
「なっ……!」
まさか、まだこの期に及んで抵抗をしてくるとは思わなかった。イスフィエールは乱れる息を整え、剣を構えなおす。大丈夫、まだ10本は残っている。
「……何だ……あれは……!」
しかし、そんなイスフィエールの視界に映ったのは目を疑う光景だった。
(槍が、全部切られて……!)
「どうした、こんなものか。イスフィエール・アルサリア……!」
イスフィエールの眼前、そこに居たのは、漆黒の剣を持ち儚げな表情を浮かべる男子生徒メルト・エイセリスだった。
余程雑に叩き切ったのだろう、メルトを中心にキラキラとした氷の残滓が輝き、銀世界に迷い込んだ様にさえ見える
「……っ。こ、このっ!!」
イスフィエールはこの時、驚きの余り正常な思考が出来なくなっていた。それも、そうだろう。誰が想像しようか。
過剰な攻撃を加えたとさえ思った相手が無傷で立っているなどと。
氷の残滓を纏ったメルトの姿に少し見惚れてしまいそうになったなどと。
あれは不味い、焦ったイスフィエールは数歩後ろに下がり、再び15の氷槍を、今度は間髪入れずに射出する。
だが、メルトは防御の体制をとるどころか、氷の槍の方へ向かって駆けだしていた。
1本……2本……3本……
荒々しい演武のように強引に振り切られる漆黒の剣は、飛翔する氷の槍を刹那の間に叩き切っていく。
そして、気付けば氷槍は一つ残らず霧散し空気に溶けていた。
「後はお前だけだ。イスフィエール・アルサリア……」
メルトはキラキラと舞い散る氷の残滓に囲まれる中、イスフィエールに剣を向ける。危害を加えることが出来ない以上、一騎打ちをして、武器を弾き飛ばすのが戦意を挫くのに最も適しているだろうと思ったからだ。
「どうして……」
しかし、イスフィエールの口から零れたのは、畏怖や憎悪の言葉ではなかった。
「どうして、お前ほどの男が……私達を、裏切った!」
「……」
「お前が居なければ……私は、私達はずっと幸せに暮らしていられたのに……!!」
「やっぱりお前は……あの国の……」
メルトはそこで一度言葉を切る。
この先の言葉を口に出すのが怖かった、だが、分かってしまったのだ。
「イスフィエール。お前はあいつらの……俺達が滅ぼした国の……アルサリア王の娘か……」
最早、言い訳はできない。
彼女、イスフィエール・アルサリアはメルトが投獄される原因となった『最悪の革命』で殺された、否、メルトが殺した王族の娘だ。
そう、この少女はメルトと同じ。家族を殺された相手に復讐をするためにこの学園に入学してきたのだ。
「……」
(……当たりか)
沈黙を肯定と受け取ったメルトはどうしたらいいか分からずにいた。
ここで、悪かったと謝罪するのは簡単だ。
だが、この罪は謝罪程度で解決できるようなものでもないし、寧ろ彼女を怒らせてしまうだろう。
それに何よりも、メルト自身が謝るつもりなど毛頭なかった。
――――――それなら、俺がすべきことは……
「イスフィエール・アルサリア、剣を構えろ。俺は……お前を倒してこの学園に入学しなきゃいけないからな……!」
メルトは挑発するように告げると、漆黒の剣をイスフィエールの顔に向けた。
「……メルト・エイセリス」
「……何だ……」
「貴様は……貴様だけは……殺すっ!!」
刹那、イスフィエールの姿がぶれる。今までのどの彼女よりも早く、メルトがこの戦いで見せた最高速と殆ど遜色ない速さだ。ただ、同時に体力の消耗もこれまでのどの一撃よりも激しい。さっきの疲れ具合から見ても恐らくこれが最後の一撃だろう。これを凌げばメルトの勝ち。メルトは向かってくるイスフィエールの氷の剣を漆黒の剣で迎え撃つ。
「貴様は、貴様だけはここで殺すっ!!」
イスフィエールの氷の剣がメルトの銅を横薙ぎに。
「悪いが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよっ!!」
メルトの漆黒の剣がイスフィエールの剣を袈裟に。
「「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
それぞれの思いを乗せた剣が剣同士とは思えない程の轟音で衝突し。
「はいは~い。二人共、剣を止めてくださ~い」
突如響いた気の抜けた声によって遮られた。
二人の勝負の行方や如何に・・・・・・!
少し間が開いて登校させて頂いた第二話。
徐々にメルトの投獄された理由なども明かされてきました。
新しい登場人物たちも続々と登場してきています。
そして多少、雀の涙ほどですが壊刻の五芒星を書いていたおかげで読みやすくはなっていると思います。
あっちも最初の方修正しなきゃなぁ・・・・・・
同時進行になり更新ペースは遅いですがぜひ次話もよろしくお願いします。