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エピローグ 幸せな結末を迎えて

 たった二ヶ月で見間違えるほど明るくなった街並みをアルテシアに見せながら、馬車はゆっくりとこの街の中心である王宮へ向かう。そして王宮の門へ着くと、今回はちゃんと止められることなく中へ入っていった。

 ……やがて馬車が止まるとアルテシアは座席から立ち上がり、扉が開かれるのを待つ。期待と不安で胸がいっぱいで、心臓がドキドキとやかましく鳴り響く。きゅ、と手を握りしめた。

 しばらくして扉が開かれる。そこには――。


「久しぶりだな」


 穏やかな笑みを浮かべるオズワルドがいて、手を差し出してきた。アルテシアは手を緩めながら、思わず口元を綻ばせる。


「ええ、久しぶりね」


 そう言いながらオズワルドの手を取る。そういえば硬く、武人らしい手にこうしてそっと触れるのはこれが初めてだと気づいて、頬に熱が集まった。……何となく気恥ずかしくて、幸せだった。




 あの日、戦闘が終わったあと、オズワルドとフェルディナンドとの話し合いの場を設けてレーヴェン王国の事情を説明すると、オズワルドは快く兵をひいてくれた。もちろんレーヴェン王国側も同時に、だったが、いきなり軍を反転させて襲いかかる可能性があるにも関わらず提案に乗ってくれたのだ。感謝しかない。


 そしてアルテシアはシュミル王国に戻ることなく、ユイリアを連れ、フェルディナンドらと共にレーヴェン王国へ戻った。そして二人して国王に手紙の内容を歪めたことを問い詰め、説得し、なんとかシュミル王国の提案に乗ることを了承させた。


 ……ちなみに、主犯は国王だった。理由をなるべく穏やかに尋ねたところ「シュミル王国を道連れにしたかった」と言われて、思わずアルテシアは叫びかけた。何もしてこなかったのに、そうそうに国の未来を諦めて滅びるのを早めようとしたなんて正気の沙汰じゃない。尻拭いはするから、ということで説得し、しばらくするとレーヴェン王国はフェルディナンドを王として新たなスタートを切ることが決まった。


 それから幾度か両国の会談の場を設け、とうとう今日、アルテシアはシュミル王国にまたやって来た。


 ――今度は正式に嫁ぐために。




 ユイリアに荷解きを任せると、アルテシアは少しだけ以前と変わった廊下を歩き、オズワルドの執務室へ突入した。そしてオズワルドの手首をひっつかむと、何故か嬉しそうに手のひらを振って見送りをするレオンを置いて庭園へ向かう。


 足早に進んで無人の庭園へやって来ると、アルテシアはオズワルドの手を離した。向かい合うようにして立つと、これからやることに対する緊張からかじんわりと手汗が滲む。バクバクと跳ねる心臓を必死に宥めようと努力していると、オズワルドが先に口を開いた。


「……ここでおまえは俺に協力すると言ってくれたな」

「え、あ……ええ、そうね」


 突然の言葉に、アルテシアは慌てて返事をする。だけど確かにそうだとそう遠くない過去を思い出すと、自然と唇が弧を描いた。

 それほど期間は空いていないのに、かなり昔のことに思えてくる。きっと、そう思うくらいに色々なことがあったからだろう。


 突然条約のために嫁げと言われてやって来たらその王は死んでいて、オズワルドが王になっていた。それでアルテシアは国のためにと無理矢理王宮に居座って、オズワルドから求婚させてやろうと私情を交えながら色々とやった。人生で初めてクッキーを作って、同じく人生で初めて刺繍をしてプレゼントをした。

 そして、ここでデートをして……アルテシアは彼と協力して国を救おうと頑張ることにしたのだ。


 ふと、そういえばいつから彼に惚れていたのかという疑問が湧き上がる。自覚したのはオズワルドに膝枕をしたときだったということはその前に好きになっていたのだろう。だけどいったいいつなのかが分からない。


(まぁ、いいわ)


 アルテシアは気持ちを切り替える。いつだなんて気にしている余裕はない。……余裕がないからこそ気にした可能性もあるけれど。

 ゆっくりと深呼吸をする。――今日こそ言うのよ。きっと、ここで言わなければずっと後悔してしまう。だから……。


「――ねぇ」


 アルテシアは呼びかけた。オズワルドの深い瞳に見つめられ、どきりとする。

 アルテシアは友好の証としてオズワルドの元に嫁ぐと決まる前も、決まってからも、結局告白をできていなかった。勇気を振り絞って告白をしようとしたときに戦争が始まって結局できずじまい。その後はアルテシアもオズワルドも忙しくて、個人的に会う機会なんて皆無だったのだ。告白をする時間なんてない。

 だから、今から告白をする。夫婦として契りを結んでからでは、言いづらいだろうから。


 すぅ、と息を吸った。ここで告白を断られて、関係がぎくしゃくしてしまったら、という不安はもちろんある。だけど結果が分からないからと理由をつけて縮こまるのは嫌だった。


「私、あなたのことが好きよ――恋愛的な意味で」


 沈黙が辺りを包んだ。ゴクリと唾を飲み込んで、アルテシアはオズワルドを見つめる。正直、不安で胸が張り裂けそう。指先が小刻みに震える。

 ……短い時間、アルテシアにとっては長い時間が経つと、オズワルドはふっと笑った。すっと腰を折り、アルテシアの耳元に顔を近づける。


「やはり、おまえは可愛いな」


 ゾクリと背筋が粟立つ。何故だか胸がきゅう、と締まって、顔が熱くなった。思わずふるりと身を震わせると、くつくつという笑い声が耳朶を打つ。

 アルテシアを見つめながら、「うん」とオズワルドが誰にでもなく頷く。


「そうやって恥ずかしいと顔を真っ赤にするところも、自分なりの信念を持って突き進むところも、全てが可愛い」


 熱っぽい瞳で見つめられて、アルテシアはこれ以上ないくらい頬を朱に染めた。たぶん耳まで赤くなっている。嬉しいけど同じくらい恥ずかしくて、視線を下へやった。

 すると、オズワルドが言う。



「だから、俺も好きだ」



 ばっと勢いよく顔を上げると、オズワルドは相変わらず熱っぽい瞳で微笑んでいた。――好き。その言葉の意味を噛み締めて、アルテシアは破顔した。そして衝動の赴くまま彼に抱きつき、ぽつりと呟くように言った。


「……私、幸せだわ」

「……俺もだ」


 オズワルドの腕が背中に回されて、ぎゅっと締めつけられる。自身を包む熱に、アルテシアは身を任せた。

これにて完結です。

一週間後くらいを目処にオズワルド視点の番外編?を追加する予定なので、よろしくお願いします。

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