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4話 街中デートで落としたい!(1)

「あの……ユイリア、本気?」

「はい、もちろん」


 恐る恐るアルテシアが尋ねると、ユイリアは当然とばかりに頷いた。その言葉にしばし呆然としたあと、アルテシアは頭を抱えて呻き声をあげる。――そんな、無理無理無理! 告白(・・)なんてできるわけないじゃない! メロメロにしてやるって決めていたのよ? 向こうから懇願させてやるって決意表明したのよ?? なのに結局こちらが恋しちゃったので結婚してくださいなんて絶対に無理!

 アルテシアがそう心の中で嘆いていると、ユイリアが「アルテシア様」と呼ぶ。


「私は本当に嬉しいのです。誰とも恋をせず、結婚をせず、親しい人は私だけ……そんな、アルテシア様が自身を押し殺した生活をしなくてもう良いのだと思うと、本当に嬉しくて……」

「ユイリア……」


 アルテシアは顔を上げて、目元を拭うユイリアを見ながらぽつりと呟く。まさか、そんなに心配をかけていたなんて思ってもいなくて、ジンっと目の奥が熱くなった。

 ――ああ、もう、そんなこと言われたらやるしかないじゃない。

 アルテシアは大きく息を吸うと、心を決めて言った。


「……分かったわ、ユイリア。私、ちゃんと幸せになる」

「それなら良かったです。では早速ですが……」


 アルテシアの言葉を聞いた途端、ユイリアは目元を拭っていた手を止めてすぐに姿勢を整えると、話し出した。その目元はよくよく見れば全く赤くない。完全に泣き真似だ。

 何よそれ!? と目を見開きながら心の中で叫ぶアルテシアのことなんて気にすることなく、ユイリアは話を続ける。


「街中デートをしましょう。色々店を回って、そして最後にハウザー公園で告白をするのです」


 知らない名称が出てきて、アルテシアは首を傾げた。


「ハウザー公園?」

「はい。ある方曰く、花がたくさん咲いており、カップルに人気の場所だとか。当日はコネを使って一部を立ち入り禁止にするそうなので、そこで告白です」


 ユイリアは淡々と述べる。対して、アルテシアは顔を真っ赤にしてうつむけた。告白をするんだって改めて思うと気恥ずかしくて、ユイリアには申し訳ないけれど、正直やめてしまいたい。

 うう、と呻き声を漏らすと、長年一緒にいたユイリアは察したのか、「何を照れているのですか」と言う。


「今まで散々落とす落とすと言っていたのはどこの誰ですか。今回も落とすことに変わりはありませんよ」

「でも……それは落とすの意味合いが違うし……」

「違いません。今までのことをよーく思い返してください。デートにも誘っていましたでしょう?」


 そう言われて、アルテシアは今までのことを振り返る。最初は……そう、オズワルドがいつもベリーのクッキーを食べるというから、それを作って、メイド服を着て届けに行って……。今思えば、よくあんな不味いものを渡せたな、と心底思う。そのあとはハンカチに刺繍をしてプレゼントをして……そのあと、王宮の庭をデートしたのだ。しかも正々堂々と「デートするわよ!」なんて言って。


 アルテシアは真っ赤になった顔を手で覆った。――いったい、なんであんなことができたのかしら? 今となるとデートのでの字も彼の前で出す勇気なんてないわ。

 そう、アルテシアが心の中で羞恥に悶えていると、ユイリアがゆっくりと口を開いた。


「大丈夫です。安心してください。それほど酷いことをアルテシア様は既にやらかしているのです。なら、今更デートに誘うことなんて不自然に思われませんよ」

「それって既に嫌われている可能性があること忘れてない!?」


「あ、確かにそうですね」とユイリアは肯定する。――ちょっとそれどういうこと!? そう、思わず叫びかけたところで、ユイリアが「まぁまぁ」とアルテシアを宥める。


「とりあえずデートに誘いに行きましょうか」

「まぁまぁ、じゃないわよ!」


 そうアルテシアは抗議をするけれど、ユイリアはいつもの鉄面皮ですくっと立ち上がり、アルテシアの腕を引っ張って立ち上がらせ、そのまま背を押して歩き始めた。行きたくないからアルテシアは必死で抵抗するけれど、徐々に扉へ近づいていく。


「ちょっ、押さな…………ああ、もう、分かったわよ! 自分で行くから! 行くから押さないで! あなた私より力あるから怖いのよ!」

「分かりました。では、参りましょうか」


 ユイリアはアルテシアの言葉を聞くとすぐに背中から手を離し、そそくさと移動すると部屋の扉を開けた。つい勢いで言っちゃったけどやっぱり行きたくない、とアルテシアがその場で立ち止まっていると、ユイリアはくいっと口端を上げる。


「行くって言いましたよね?」

「……はいはい」


 諦めたようにため息をつき、アルテシアはゆっくりと扉へ向かって重たい足を動かした。



△▼△



「し、失礼するわ!」


 若干どもりながらも、なるべくいつも通りを装って、アルテシアはオズワルドの部屋に突入した。今日もオズワルドは執務をしていて、アルテシアが少しどもったことにも気づいた様子はなく、静かな瞳で見つめている。

 そのことに、アルテシアは少しだけ顔を歪めた。――なんだか私だけ馬鹿みたいじゃない。どうせなら彼にも意識してほしいわ。


 アルテシアがそう思っていると、オズワルドが少し首を傾げた。普段と違うアルテシアを訝しんでいるよう。アルテシアは慌てていつものように笑顔を浮かべると、ふふん、と鼻を鳴らした。


「明日、街にデートに行くわよ!」

「……そうか、分かった」


 アルテシアの勇気を振り絞った誘いに、オズワルドはそれだけしか返さなかった。冷淡な瞳でつい、と視線を下げると、再びペンを取り、執務に戻る。

 ――何よ、それ。アルテシアは心の中で呟いた。なんなのよ、その反応。この私が誘っているのよ? なのに、その反応って……。拳をきゅっと握りしめ、震わせる。ムカムカとした怒りが胸の底から溢れてきて、キッとオズワルドを睨むと、心の中で叫んだ。


(絶対にメロメロにしてやるんだから!)


 ふんっと鼻を鳴らすと、アルテシアはくるりと踵を返す。そして部屋を出る間際にオズワルドの方を振り返ると、簡潔に言い放った。


「――明日の十時に迎えに来るわ。それなりに身なりのいいお坊ちゃんの格好でよろしく」

「ああ」


 しばらく待ってみたものの、オズワルドはそれ以降何も言わなかった。そのことが気に食わなくて、アルテシアは苛立ち紛れにカツカツと足音を立てながら部屋を出た。



△▼△



 アルテシアが部屋から出て行くと、オズワルドはポリポリと頭を掻いた。惚れていると気づいてから、どうも彼女の前で表情が緩みかける。そうならないよう顔を引き締めるのに必死で、かなり無愛想な態度になってしまった。

 ペンを置いて背もたれに体を預けると、はぁ、と自然とため息が漏れる。なんて情けない態度だろう。きっとレオンがいたら何かしら言うに違いない。


(だけど……)


 オズワルドは椅子から立ち上がり、すぐ背後にあった窓から見える王都を見下ろす。次第にかつての活気を取り戻しつつある街並み。明日はあそこでアルテシアとデートをしているのだと思うと、ゆるりと笑みが零れた。

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