古豪達の戦いの宴
残酷な描写があります。
立ったまま何か呟いてる衛兵は、白目を剥いて口から溢れた泡を垂らしている。その瞳が、その腕が、民衆を護る為に使われる事は永遠に無かった。
「ゴボボッ!」
だらんと垂れていたガントレットのついた両腕が、一気に伸びてセーリューに掴み掛かった。
セーリューの持っている槍は、十字槍と槍先に斧の付いたハルバードを合わせ持った特注武器だ。
襲い来るガントレットの片方を避け槍の石突きで、もう片方のガントレットを叩き落とし踏みつけると先に付いた斧で切断した。
「ゴボァァァ!」
元衛兵の怪物が奇声を上げると避けたガントレットが、Uターンし再びセーリューを襲う。ハルバードを戻すのには間に合わない、セーリューは腰に手を充てると何かを抜き取った。
それは一般の持槍より特化して短い用心槍だった。その短槍を逆手に振り襲い来るガントレットごと串刺しにして地面に突き刺した。
」張り合いが無いのう、なぁ」
持ち上げたハルバードの斧で触手をザンッと切断する。
「ゴボオオオー」
両腕を切られた衛兵の怪物が悶える。最初に切断された腕の断面から、新しい歪な手を生やし一気にセーリューの喉元を狙い攻撃した。
セーリューは、咄嗟にハルバードで受けるが吹き飛ばされ樫の木で造られた銅金の柄が折れる。
「油断は大敵じゃったな。チョッと持っとけ、なぁ」
触手が持つハルバードの残骸に目もくれず、腰からもう一本、短槍を外し大きく振りかぶる。
「我は弓なり」
セーリューが構えて唱えると腕と背中の筋肉が隆起しパンパンに盛り上がる。握っている短槍が微震動を起こすと一息に投げ放った。
一瞬で短槍が空気を引き裂いて飛んでいく。
空気抵抗を物ともしない一直線の軌道は、元衛兵の怪物に繋がり鎧兜の面を貫き通す。
セーリューを襲おうとしていた触手は、眼前で動きを止め力無く地面に落ちた。
ハルバードの先を拾い上げ衛兵の遺体に近寄ると這い出ようとしていた紫の【黒い小箱】に突き刺しトドメを差した。
「ギギィィ……」
寄生魔物は砂となり崩れていった。
「疲れるのう、なぁ?」
横を見るとセーリューの目の先に新たな犠牲者である平民服の怪物男が迫って来ていた。後ろには屍が何体も無惨に転がっていた。
「ウグ…ググ…ググ」
「見逃す訳には……いかないのう、なぁ」
セーリューは、短い用心槍と衛兵の所持していた。銅剣と盾を回収し戦闘に備えた。
「……」
後方にも気配を感じ振り向くと大柄な男が、怪物と成り果て狂気の形相でセーリューを威嚇していた。
「……ギュルルラル」
「挟まれる訳にはいかんな。待っとれ、なぁ……ふんっ」
セーリューは、銅剣を平民服の怪物に投げた。怪物男の腕を貫いたが身体はガードされてしまった。
少しの時間稼ぎだが、盾を斜に構え先に大柄の怪物男へ距離を詰めて仕留めに掛かる。
「ギュラアアアアア!!!」
大柄の怪物男は近くにある屋台を持ち上げセーリューに投げつけた。セーリューは身を屈め盾で直撃を防ぐ。
「余計の事をするわい、なぁ」
盾でガードしつつ用心槍で攻撃しようと構えると、後ろから伸びてきた怪物男の触手で足首を捕まれた。
「ぬっ!」
直ぐに槍を突き刺して逃れるが、目の前の大柄怪物男が持ち上げていた樽を投げつけてきた。
「うぐぅっ」
盾と槍を弾かれ無防備になったセーリューに大柄怪物男の胸から、触手が生え命を刈り取ろうと襲い掛かる。
「ギルァァ!」
セーリューは腰から、回収した短い槍を出し受け止める。更に大柄怪物男の腕が伸び。命を奪おうと一気にセーリューの喉元を掴んで持ち上げた。
「ぐぅっ」
セーリューの槍は捻れた触手に奪われる。
槍はクルリと回り銀鋭の刃を心臓に向けると主人の鼓動をおわらせようと差し下ろされた。
「ーー!」
「ギュァァーーーー!」
セーリューを持ち上げ殺そうとしていた大柄の怪物男は、肩口から真っ二つになり血飛沫を上げて倒れた。
背中に張り付いた紫の【黒い小箱】も一緒に真っ二つに切り裂かれて砂となり風で崩れていく。
「気合いはどうした小僧?」
鬼気を纏うローク・ロードスが異形の片手斧と両刃の両手持ち斧を携えて仁王立ちしていた。
「ローク・ロードス見参じゃ」
「また生き残ってしまったか。珍しいロークのジジイだのう、なぁ」
「小僧、お前も十分にジジイだろうて」
後ろの平民服の怪物男には、店のドワーフ2人が戦闘体制に入っている。
「ウグ……グ……グ」
触手が伸び腕を捕まれても、持ちこたえ手斧で切り落とす。
「ビヴォール、ドヴェル左右から攻撃しろ!狙いを定めさせるな!」
ローク・ロードスの指示で2人は左右に移動し牽制しロークは正面から歩み寄っていく。
「我は弓なり我が敵を殲滅し貫け」
『ストライクオブシャイン!』
一瞬で歩いて行くローク・ロードスの横を吹き抜けると、平民服の怪物男の胸のど真ん中に光を帯びた短い用心槍が突き刺さり背中を貫いて民家の外壁に深々と突き刺さった。
「良いとこ取りしおって……」
「借りは返すもんだ、なぁ」
平民男の服から這い出た紫の【黒い小箱】が、ドヴェルの額に飛び付いた。
「うぇっ!? 何だ何だ?」
「ドヴェル気合いだ! 動くな!」
ローク・ロードスの鋸のような刃の付いた手斧が一閃した。
紫の【黒い小箱】の姿をした魔物は、2つに裂かれ砂となり崩れていった。ドヴェルの額には寄生しようとした点々の傷が無数にあった。
「大したこと無いが帰ったら聖水でも塗っておけ」
「へい親方、有難う御座います」
ドワーフの男はおでこを擦り、頭を下げる。
「街の事に無関心を決め込んだローク爺が一体どうしたのか気になるのう、なぁ?」
「新しい人生の目標が出来た。街の平和を乱す魔物位なら退治してやる。だから弟子のお前も助けてやった」
「昔、教えは受けた事はあるが、ローク爺の弟子になった記憶は無いのう……取り敢えず、あそこで手こずってる衛兵達が相手してる寄生魔物を殲滅して街中の治安を守らせよう、なぁ」
『「良いだろう。オイ気合いを入れろ!ビヴォール、ドヴェル行くぞ!」
「「へい!!」」
錚々たる四人の屈強な男達は、狩でもするかのように悠然と進んで行く。
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ーー神流達は自分の屋敷に辿り着いた。
「平気か?……」
ドアを開けると神宮寺聖桜とイーナが、ダマスカス鋼のロングソードとアウルを構え向き合って何かの練習をしていた。
「何をやってるんだよ?」
「一通り家事を終わらせたから、素振りと武道の型をやっているだけよ」
「解った解った。2人とも武器を足元に置いてくれ」
武器を下に置くと神流は、2人にべリアルサービルを向ける。
「2人に簡単な魔法をかけるから、動かないで欲しい」
「魔法使えるの? 何の魔法よ? ちょっと怖いわね」
「はい、頑張ります」
神流は、2人の胸に効果の無い刻印を撃ち込んだ。
「?……何とも無いけど」
「はい、有難う御座います御主人様」
「特に効果は無い。今、街には魔物が沢山彷徨いている状態だ。万が一の時に2人を助ける為の魔法だ」
神流は続ける。
「レッドには因縁のある魔物なんだ。俺とレッドは今から魔物を退治しに行く。2人は此処で隠れていてくれ」
神流はレッドに指示をする。
「レッド、ポーションを持ってきてくれ。俺はダマスカスソードを取りに行く」
「了解です」
レッドはポーションを取りに神流はダマスカスソードを取りに向かう。
戻ってくると聖桜とイーナが、鎖帷子風のベストや皮の胸当てなどを装備していた。
「そっそうだな。何があるか解らないから、戦いが終わるまでは着ていた方が良いよ」
「なに言ってるのよ御主人様? 私達も行くわよ。はい貴方のマントよ」
神流の手に新しいマントが置かれた。
「ええ? 外は危ないから駄目だって」
神流は明らかに動揺する。
「何で街の人とうちの御主人様が、危ない目に合うのに私が隠れているのよ。おかしいじゃない、何の為の防具よ」
「お前はそうかも知れないけど、イーナは可哀想だろ」
「命を懸けて刺します。シュッシュッ」
「……賭けないでくれ」
思惑と違う形で、神流部隊が編成される事となった。




