ダマスカス鋼の武器達
ようやく地下から、ローク・ロードスと神流が上がって来た。ロークの疲れた表情に若いドワーフ達は心配する。
「親方ぁーー」
「オヤジ!」
「旦那~何やってたんすか? ロロ爺は、老衰でボケが回ったんすか?」
「ボケとらんわ、ジャリン子! ワシの血圧を上げたいのか!」
ロークは怒りながら、地下から持ってきた武器をオイルステンのマホガニーの色をした味のある切り株テーブルの上に置いた。
1本は、細みのダマスカス鋼製の細く長い剣。1本は、ダマスカス鋼製の千枚通し風の武器だ。神流は、2人に呼び掛ける。
「聖桜は、ロングソードをイーナは、アウルを手に取ってくれ」
2人は、言われる通りにダマスカス鋼製の武器をテーブルの上から、手に取り確認する。
「ロングソードもアウルもワシが一応見立てたんじゃ。ダマスカス鋼製の剣は、力を入れなくても切れてしまうから取り扱いには気を付けろ。アウルは抵抗無く何にでも刺さるが、大した殺傷能力が無いから毒や薬でも塗るんじゃな」
ローク・ロードスから、使用方法が一応丁寧に告げられた。
「なんて綺麗な刀身なの、美術館にありそうね」
「上手く刺せるように命を懸けて頑張ります」
神流の腰には、鞘に収められたダマスカスソードが、べリアルサービルと共に装着されていた。
「!!」
「オヤジー! その剣は誰にも売らねえと言ってた純ウーツ鋼のダマスカスソードじゃないですか」
ダマスカスソードの柄と鞘を見て気付いた若いドワーフ達にどよめきが起きる。
「コイツに……神流に進呈した。ワシの判断に文句あるのか?」
ローク・ロードスが、握り締めたデカい拳がメキメキと鳴った。
「もっ文句なんてある訳無いじゃないですか、なぁ」
「ああ……俺は全く無い、最初から無い」
「なら良い」
ロークが、威圧を解き若いドワーフ達は安堵する。
「ワタシの新品のピカピカのアウル、ワタシの物は新しい御主人様の物」
「本当に艶やかさがあり綺麗で丁寧に細工がしてあるわ。日本刀に負けてないわね」
聖桜とイーナも武器に見入っていた。気に入ってるようだ。
「旦那~アッチだけ何も無ぇとか、おかしくねぇですか?」
不満一杯のレッドが、頬を膨らましている。
「おかしくないよ」
神流に普通に返されたレッドの表情が固まる。するとロークが、店の奥からデカい革の袋を持って戻ってきた。
「小娘、お前のはこれじゃ」
革の袋から、革の小袋や細工されたベルト、革の巻物のようなものが出てくる。
「ボルドーから、孫が20歳になったら渡してくれと、頼まれていたが、ワシが今死ぬとこじゃったから今日渡しておく。代金はボルドーから貰っている。だから遠慮せず受け取れ」
「ロロ爺の言ってる事は、さっぱり解んねぇですけど、ボルドー爺ちゃんからって事っすね?」
「そうじゃボルドーから受注した、開けてみろ小娘」
そこにはクナイ、手裏剣、棒手裏剣、爪楊枝から割りばし位まで大きさの違う針のセット、撒き菱等々忍者が使用する多数の武器が、革のシートに収納されていた 。
その全てが、ダマスカス鋼で造られ綺麗な木目調を魅せていた、1つだけ、和紙に包まれた紅い革の袋があった、開いて覗くダマスカス鋼製のヌンチャクが入っていた、ヌンチャクにしては鎖が長めの代物だ。
「ダマスカス鋼製の鎖ヌンチャクじゃ、それはワシからお前にやろう、ボルドーの墓に礼を言っておけ」
「有り難うっす。嬉しいけど全部年寄からのプレゼントか……旦那から欲しいんですけどねぇ」
レッドがチラチラ視線を送るが、神流は見ていなかった。
ようやく武器屋での買い物が、終わろうとしていた。神流は、ロングソードとアウルの代金を払い、外に出る時にレッドに店の名前を尋ねた。
「見なかったんすか? メガトンハンマーってデッカい看板があるっすよ」
帰りしなに、店の看板を見ると右腕と拳が張り出す、オブジェの下に"喰らわすぞメガトンハンマー”と書いてあった。
「…………」
店の外に、ローク・ロードスが見送りに来る。
「小……いや神流、頼まれた品は、すぐに取り掛かる。ワシは、そのダマスカスソードを越える、もっと凄い武器を造る事に決めたぞ」
「ロークさんなら、すぐ出来ますよ。頼んだ品物が、出来上がったら取りに来るんで、お願いします。」
神流達は、店を後にして帰途に就いた。
外は、既に夕方になり赤を帯びた太陽光に、うつろいはじめる、武器屋の影も赤く縁取られ、不思議な鮮やかさを帯びて来る。
聖桜のロングソードと、イーナのアウルを購入した料金は、オマケしてもらい合わせて金貨80枚だった。地下の武器は破格だ。無駄使いのような気もしたが、安全の為と自分に言い聞かせる。
「ビッチとチビっ子に武器を持たせるなんて、アッチは、街の治安が心配ですよ」
「誰が、ビッチなのよ!」
「ワタシのあうる~」
……無事に買い物が終わって良かった、まさか買い物するのに、命を賭けるなんて誰も思わないだろうな。
帰る途中で、道の脇にみすぼらしい格好の少年と少女達がお椀や袋を持って立っていた。気になったので、対応をレッドに相談してみる。
「あれは親が、居なかったり貧しくて食べて行けない貧民街の子供っす。貴族街の近くに行くと無礼打ちで殺される事があるから、大人しく平民街の隅で物乞いしてるんです。無視でオーケーっす」
その選択は無い。幾らが相場か聞いたら鉄貨や食べ物でいいと言うので、小銅貨をお椀や袋に1枚づつ入れていく。
「お兄ちゃんどうも有り難う」
「貴族様ありがと」
「どうもありがとーー」
「有り難う御座いました」
「やったー」「何食べよう」「今日は幸運の日」
子供達は、喜びながら貧民街に引き上げて行った。それを見る神流の表情は優れなかった。
「旦那、気にしない方が良いですよ。あんなのに構っていたらキリが無いです。山のように、また来ますよ」
「子供だろ放っておけないだろ」
「そんな良いもんじゃねえすょ……」
神流にレッドの最後の呟きは聞こえなかった。
相変わらずレッドの意見はドライだ。認めたく無いが説得力があるのは何故だろう。
屋敷に戻るとジャーミー家の使用人達が、屋敷の奥に荷物を運び込んでいた。
「運び終わりました。鍵付きの扉も取り付けしておきました。御主人様」
ジャーミィー・ギードが、頭を下げて挨拶をしてきた。
「ああ、ご苦労さん。また頼む」
ジャーミィー・ギード達は、用を済ますと馬車と共に帰って行った。目の前の光景に聖桜が目を丸くしていた。逆にイーナは、神流の事を崇拝に近い信頼をしていて全く動じる事がない。
神流が、運び込まれた荷物を見に行き戻って来ると、手に卵の積まれたザルを持っている。
「今日は、卵料理にしよう」
広間の食卓には、スクランブルエッグ、ベーコンエッグ、トマトのリゾットが入ったオムライスが並ぶ。
「御主人様は凄い貴族なのね」
聖桜が、神流に素直な感想を言った。
「俺は、貴族じゃないよ平民だ。お前達の料理を作ってるだろ」
「旦那は、貴族なんか目じゃないっす魔王です」
「ワタシの御主人様は魔王……カッコイイ。ふわふわのタマゴは美味しい」
「格好良くない。レッド、適当な事を言うな」
夕食を終えた神流は、再び運び込まれた荷物の山を確認しに行く。
━━全てジャーミィー・シード家からの落とし前だ。宝箱には金貨が一万枚以上は入っているだろう。ジャーミィー・シードは元々は広大な土地持った豪商人で、更に儲ける為に金や賄賂で爵位を買ったらしい。ギード達が、虐めてきた貧民街の人達や奴隷達に、何かしら還元してあげよう。そうだ、先に衛兵のアルマンドと誘拐されてた市場の人の様子を見に行こうかな。
神流が荷物を漁ると頼んでおいた医療用品も入っていた。包帯、糸、針、ハサミ、注射器、薬草類、紅い水薬、蒼い水薬等々ある。
━━注射器は勿論だけど知識が無いから薬も使えないな。
「ポーションじゃねぇですか?」
振り向くとレッドが後ろに立っていた。
「気配を消して後ろに立つな。声を掛けろ声を」
「アッチ位のトレジャーハンターになると、足音消すのも余裕っす。旦那のハートも頂きです」
レッドに呆れた声で、神流は返す。
「ハイハイ、これの使い方を知ってるか?」
神流は、薬草と瓶を持ち上げる。
「また記憶喪失ですか? こっちの薬草は、煎じて飲んだり貼って体の免疫とか自然治癒力とかを上げて傷を治せます。手に入りやすい庶民の味方です」
レッドは、瓶の方を揺らす。
「こっちは、確か薬草と魔石の粉と魔力で精製されてて、その力で肉体の記憶と結合して一瞬で変換増殖を始めて、一気に治すバカ高い水薬剤です。要するに魔法の薬です。赤いのが、外傷用で青いのが内服用水薬剤っす。注射器は患部に直接的に届かせる緊急用ですね。ハイハイ、御褒美のチューを下さい」
「良く解った、ありがとな」
レッドの頭をボンボンボンとしたが、不満そうに口を尖らせているので、ハグしてやると大人しくなった。
神流は、荷物の確認を済ませて風呂に入り早めの就寝に入った。天井を見ながら呟いた。
「ポーションか、瀕死でも助かるのか魔法って凄いな……調べてみる価値はあるな」
そう呟き眠りについた。
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━━んっ?部屋の扉が空いて誰かが入って来た。多分イーナだろう床に寝る前にベッドに寝るように言おう。
身体を起こし目を開けると、目の前に寝間着を着た聖桜が、悩ましげに立ち神流を切ない瞳で見つめていた。




