少女達の買い物事情
食事を終えた神流の酔いか少し残る中、レッドの主張を受けて4人で服飾屋クラヴァッテに向かう事となった、横には散歩がてらオルフェを帯同させている。
店に着くと直ぐにクラヴァッテが対応してくれたのでイーナと聖桜の採寸をしてもらい服を注文する「旅人の服」「仕事着」「部屋着」「寝間着」を4人×5セットの発注を済ませ、聖桜が屋敷から持ってきた学制服を渡して修繕とスペアを注文する、そして2人の足のサイズも測り「屋敷用」「街用」「旅用」「迷宮用」の靴とブーツを全員分追加で発注した。
するとクラヴァッテは店の奥に引っ込み神流は店の外に出てオルフェの元へ行く。
間を置かず店の奥からクラヴァッテの妻エパングラが、膨よかな身体を揺らして出て来る。夫婦揃って奴隷や平民に偏見が無い。手に持った大箱を降ろして開けると沢山の商品がズラリと並んでいた。全て下着類だ。
「店主クラヴァッテの妻エパングラです。最新はコルセットを分離したブラジャーが出てるわよ、女性は素敵な下着を着ないと駄目です。シュミーズにノーパンなんて流行らないわ、ハイレグ、ローレグ、ローライズ、さあどれでも選んで、サイズは見てあげるわ」
「ロッローラ……」
3人は色めき立った。母親の手作りを自分で手直しした物しか持っていないレッド。
ティヒゥルビヤンコの村で1枚を洗って使い回していた聖桜は特に待ち望んだ品物だ。元々下着を着けていないイーナがドキドキしながら大人用の下着を1つ手に持ち呟くとレッドが反応する。
「チビッ子に下着は要らねえっす」
「えええっ?」
「レッドそれは酷いわよ、すみませんエパングラさん子供用のショーツかフレアパンツ有りますか?」
「有るわよ~チョッと持ってくるわね」
「セオ、有り難う」
「いいのよ大した事じゃないわ」
エパングラは店の奥に在庫を取りに行き直ぐ戻ってくる。
「どうぞ、選んでる間に1人づつ測るわバスト、アンダーバスト、ウエスト、ヒップね」
エパングラが、上着を脱いだ全員を測りおえるとレッドと聖桜に最新のブラジャーの着付けを教える。
「ストラップに腕を通して前かがみのままホックをとめます。アンダー下のお肉を斜め上方向へ引き上げます。カップを支えながらしっかりとお肉を入れ込みます。そして……」
神宮寺聖桜が、途中で口を挟む。
「すいませんエパングラさん、ワタシは母に教えられたので着け方は解ります。レッドには教えてあげて下さい。ワタシはイーナの下着選びを手伝います」
聖桜を見るレッドの瞳孔は開きっぱなしで固まっている。
エパングラは驚きつつも頷いて、レッドに説明を続ける。
「イーナ下着のサイズ見てあげるわ」
「ありがとう、セオは下着の事を知ってるの」
「前に格安のムニクロの下着を使ってたからよ…………親に教えて貰ったの、早く選びましょう」
イーナは聖桜の勧めで、下着のトップスは肌着を多めに買うことにした。
全て屋敷に届けて貰う、後で精算したらおまけしてもらい金貨1枚で済んだ、如何に貴族の服が高いか解る。
セオは、凄いなぁレッドにもお店の人にもハッキリ物を言うし色々知ってるのにビックリしちゃう、でもワタシはセオの先輩よ、しっかりしなくちゃ。
イーナの心は、やる気になり背筋をピンと伸ばした。
買い物を終えた女性陣が興奮を露わに店を出て来る。神流は皆に次の店に行くと伝えオルフェを引いて歩き出した。3人の機嫌は上々で足取りも軽い。
「ワタシの下着は新しい御主人様の物
「旦那~何処に行くんですか?
レッドが聞いてる間に遠目に目的地が見えて来た。
服飾屋クラヴァッテから北に進み、程なくして着いたのは入口の上に大きな青銅の盾と鎧が飾られた防具屋だった。
目立つ看板には「アーダポルシールド」と書いてあった、大きめの木製扉を上げて中に入ると店主から温和な声が掛けられる。
「おやレッド久しいね。貯金が貯まったのかい?」
親しげに声を掛けてきたのは、横に跳ねたヘアスタイルで人の良さそうな30代のアメリカンサイズの太った男性だった。
店の中は綺麗で壁には立派な盾や鎧はが並び、飾りの付いた兜や装飾された籠手が木の棚にディスプレイされている。
「いらっしゃい店主のポテイト・フォルスティーンです。品揃えは確かなのでいくらでも御覧下さい」
「旦那~駄目ですよ。此処は高い値段でぼったくりしてる店です」
「待ってよレッド、御客さんの前で人聞きの悪い事を言わないでくれよ。高い素材と手間暇かけて丁寧に仕上げてるからその分、値段に反映してしまうだけだよ」
「今日はアッチも立派な御客様です。しっかりとシャキシャキ接客するっす」
店主のポテイトもレッドにタジタジだ。迷惑掛けても悪いから早く買い物を済ませよう。それにしても彼は凄いな、どう食べたらこの世界でこんなに太れるんだろう。
「すいません迷宮やダンジョン用の装備を買いに来ました。見せて貰ってもいいですか」
店主のポテイトに眉を上げた満身の笑顔が宿る。
しかし皆の反応は頗る悪い。
「私には必要ないわよ」
「防具を着用するとアッチの良さが消えるのでパスっす」
「ワタシ誰かと戦うんですか? 新しい御主人様」
「残念だが拒否権は無いよ。全員が自分に合った防具を見付けるまで帰らないから」
神流は譲らない。
悪魔や魔物が普通に存在するこの世界、戦う戦わないは別として手段として防災や逃避行動や防衛用に保持はしておく。
病院があるか無いかもまだ調べてない。人数が増えるとカバーするのに何工程か増える。そのラグでの取り返しのつかない事故は避けたい。
「取り合えず鉄の盾や兜や鎧を見てみよう」
店主に客間の広いカウンターテーブルに品物を並べて貰い促すと皆が其々試着を始める。
「鉄の鎧は腕回りが重くて全然動かせないわ、動くのが大変」
「この兜着けてたら危険の察知能力が激減ですよ、前しか見えないっす」
「この盾を持ち上げられる用に命を賭けて頑張ります」
この様子では青銅の防具も駄目だろう。イーナのやる気には頭が下がりそうだ。
「……すいませんが鎖帷子とかって有ったりしますか?」
「ハイハイ、有ります有ります」
店主のポテイトは嫌な顔1つせず品物を奥の倉庫から運んで来る。
置かれたのは新品の細やかな鎖で編み込まれた鎖帷子だ、シルバーメッシュカバーで覆われている、 ヘッドピースも似たような造りだった。鎖帷子と聞くと忍者を想定すると思うが、どちらかというと中世の騎士を思わせる造りだ。
店主のポテイトに簡単な説明をして貰う。
「鎖帷子は鋼を編み込んでます。剣などで斬りつけられた場合に非常に効果的に斬撃を受け止め、その衝撃を鎖が分散してくれます。刃物による斬撃に対して高い防御効果を発揮するのです 。是非安全の為にもお買い上げ下さい」
神流は皆に試着をしてもらう。
「動けるけど重さはあるわね」
「アッチは避けるのがメインなんで1グラムでも軽量化したいとこですよ」
「これを来て動けるように命を賭けて頑張ります」
さっきよりマシだが やっぱり重さがネックか、最後に革の防具を並べて貰い装着する。
「意外と動けるわ、筋力的にも軽い方が良いわね」
「どうも微妙なんですけどアッチの旦那の為に着ます」
「この盾をずっと持てるように命を賭けて頑張ります」
皆の意見と様子を見て其々別に注文する事にした。それにしても イーナのやる気は果てしない。
鎖帷子は重すぎるから薄いベストに細かい鎖を3センチの格子状に縫い付けたものを全員分作って貰う。
・レッドは革の籠手と革のマント。
・聖桜は革のガントレットと革の胸当て。
・イーナは革の帽子と革の鎧と盾を幼児用に改良して貰う事にした。
神流はレッドと同じマントにした、素材は皆は牛の革で神流だけ高級エイ革だ、皆に勧めたが気持ち悪いと嫌がられた。
格好よく言えば、合成革でなく全て本物のスエードの装備だ。
店主のポテイトに発注を、滞りなく済ますと神流達は店を後にした。 次の店に向かい歩き出すとレッドから、ストップがかかる。
「旦那の考えは解りましたよ。だけどそっちの方向の店は本当に止めた方が良いですよ」
「俺なら平気なのは、お前も知っているだろ?」
イーナと聖桜が全く解らない会話を2人でしながら進んで行くと、先に見える強固な煉瓦造りの建物の前で男と女が言い争ってるのが見えてきた。




