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堕天使マニピュレイション異世界楽章   作者: 愛沙 とし
四章
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悪魔からの主張

 

 宮殿の主は、艶めく紅い唇を裂いて開くと流暢な音色に毒を載せて無機質な空間に響かせる。 


『…………今頃ノコノコ来て、君に呆れるだけで僕の魔力は減る思いだよ』


 ━━開口一番から腹が立つ発言だ。


 チアガールの青い衣装の胸には何か書いてあった。


《You are a fool》


 ━━「お前は愚か者だ」と書いてある、本当にとんでもない野郎だ。


『僕は野郎などではない』


 解りませんと片腕をしなやかに上げたポーズから人指し指を立てて溜め息をついている。


 ━━何処の外国人だ。


 ベリアルの衣装と髪飾りの感じが、また少し変わっていた。


「心を読むな、その腹立たしいポーズも止めろ」


 神流(かんな)は不満を露にしながら、高級感が溢れる革のソファーに無造作に座る。


『全く君は学ばないね、この脳ミソは何処まで蕩けて甘いのだろう』


 ━━俺の頭をボンボンでボンボンする。もうややこしい、て言うか俺がナメられ過ぎだ。


「うるさい触るな! 肝心な時に助けなかったくせに俺は一生廃人になるとこだったんだぞ! 雇われ悪魔」


『僕は堕天使だ。何度言えば覚えるのか? 君は何でもかんでも僕のせいにする。戻ったら羊の血をバケツ一杯にして飲むと良い短慮な癖も治るだろう』


 ━━コイツと話していると、沸き上がるストレスの多さに健康を害しそうだ。


「話が進まないんだよ、俺に話させるかチャッチャッと説明しやがれ!」


『何をだい? 主語が無いと伝わらないと、下界で習わなかったのかい?』


 ━━━━もうダメだ、コイツの事はバカなベリアルを短くしてバベルと呼ぼう。


「ハイハイ主語なバベル、ブライア島の霊宮ラァストゥの地下での話をな……」


 ベリアルは、全く話を聞かずにスカートの刺繍を気にしている。


「おい、人が話してるのにスカートなんかいじってんなよ」


『…………………だ』


「えっ?」


『チアリーディング スカートだと言ったんだ』


「何の話だよ!どうでもいいよ」


『君が僕をバカにしてる事は、契約している僕には伝わるんだ。自重する事だ』


 ━━どこまで自分を棚上げするんだコイツは、まさか何か目的が有るのだろうか、社会政治で習った牛歩戦術ってやつか?


 神流(かんな)は、ベリアルと会話が全く成立しない事に苛立ちを覚えたが、用件を優先して何とか堪える。


 ━━幼稚すぎる。何万年生きてるか知らないが、精神年齢は絶対に俺の方が上だ。コイツのペースだと終わりが見えなくなる。仕方無い、ここは大人の対応をしよう。


 神流(かんな)は、深呼吸して落ち着いた感じにしてから、ソファーに腰を掛け直す。


「解ったよ。バ、ベリアル話をちゃんと聞くから自由に講釈してくれ」


 無機質で無表情なベリアルは、スカートから手を離してラメのグラデーションが混じる長いアッシュグレーの髪を結わえながら、神流(かんな)の横にいつもより密着して座った。


 ━━気にしたら敗けだ。


『まずは1つ。君が腕に巻いてる布キレが、魔力や霊力等々の送出と吸収を妨げている。蛇口のホースを踏むようにね。自ずと此処には外界の情報が入り難くなり、君を手助けする力も出せない。その状況を作ったのが君だ!』


 ベリアルが、神流(かんな)に妖しく膨らんだ胸元をアピールして見せてくる。


 性的な意味では無く、文句の書いてあるロゴを見ろという意味で自業自得の愚か者だと言いたいのだろう。もういっそ直接言ってくれ。


 神流(かんな)が、少しでも自分のプライバシーを護ろうとした事が完全に裏目に出た結果となる。予想など出来る筈の無い災厄に溜め息を吐き出す。神流は、シグナスから貰ったストールの切れはしを、腕から外してポケットに仕舞った。


『2つ、君は僕の力を軽んじている。僕の力は世界を征服出来る力だ。この僕を、このベリアルを使役してるというのに、してることは獣の調教やお遊びの冒険をしたり、人間との喧嘩で死にそうになる。僕の心情を現すなら「呆れ果てた」という表現が最も適している、目の1つ位無くして反省するべきだ』


 納得いかない神流(かんな)は、流暢に講釈するべリアルに抗議する。


「目を失う反省など無い! あのなぁ精神魔法で世界征服出来るなら、催眠術士がとっくにしてるだろうよ。今の俺は、剣で刺されれば死ぬし、下手に魔法を見られたら兵隊や憲兵に捕まって牢獄だよ。魔女狩りだよ」


『それを、軽んじてると言っているんだ!』


 ベリアルは蒼いトルコ石のような瞳を此方に向け、マネキンのような表情のまま腰に手を当て怒るポーズをしている。神流(かんな)は、何故自分が責められるのか一ミリも解らない。


「何で、俺が悪いみたいになってるんだ。どうしろと言うんだ?」


『じゃあ聞こう。どうして街全体を標的にして僕の刻印を撃たなかった? 先に撃って攻撃してから街に入れば抵抗(レジスト)した者以外の敵は、消滅していただろう』


 更にベリアルは講釈を続ける。


 ━━何処かの政治家みたいだ。吐息に熱を持ち悦に入ってるところが癪に障る。


『何故、少人数で霊宮に入った? 奴隷にした者を大人数連れて行って戦わせれば、肉の盾や罠避けになり命の危険すら無い』


「そんな事したら、人権団体に囲まれたりテロリスト扱いで世界中を敵に回すよ」


『この僕をベリアルを使役して何を恐れる。その蜜より甘い考えが、君が仲間や家族と言う人形、いや、人間達を危険な目に遭わせてると何故気付かない。僕の過大な力を有していて、人間を相手に命の危険が起きるなんて誰が思う』


 言いたい放題のベリアルは、結わえた艶のあるアッシュグレーの長い髪を掻き上げた。


 風も吹かず、音もしないべリアルの静空間にべリアルの声だけがオペラのように響いている。モンスター悪魔のモンスタークレームは、まだ続くようだ。


 べリアルが「家族や仲間」という悪魔とかけ離れた言葉を出して来るところがやらしい。前科持ちの犯罪者に言いくるめられてるようだ、何か打算があるのか胡散臭い。


「尤もらしいこと言って自信たっぷりだけど、お前の魔法を壊せる奴が居たり徐霊師みたいのにお前が御払いされたら終わりだよ。俺が牢獄行きというリスクを考えて無いのか?」


 ベリアルは立ち上がり少し離れた場所に指を描き鏡を出した、マジックのようだ艶かしいポーズを確認して戻ってくる。


『いいかい? 抵抗は出来ても、僕の刻印の解呪は普通の魔法使い位等では、まず無理だろう!高司祭か賢者、若しくは神官や呪い士なら可能だが1日の魔力を使い果たして1つだろう。しかも、僕が存在する限り解呪反応から刻印の再生を始める』


「自分で呪いと認めたな、悪質過ぎる。聞いてるだけで恐くなるよ。一般人は呪いと聞くだけで震えるわ。神様、此処に鏡に映る悪い悪魔が居ますよ」


『君に仕える命令を僕に啓示出来る存在が、神以外に居ると思える君の思考回路に更に興味が湧くよ』


「……」

 

 ベリアルは言い返せない神流(かんな)の反応に満足して優雅に腰を掛けて神流(かんな)に向き直り宣言する。


『契約した者が不様に死に至ることをタルタロスの管理者、堕天使ベリアルは赦さない!』


「……」


「赦さないも何も、身体中を串刺しにされて普通に1回死んでるんだけど」


『まず、さっきしまった布切れを小指に巻き直して貰おうか』


 ベリアルは神流(かんな)の話を聞いていないのか、聴こえてないのか、返事をせずに何処からか出した。ティーカップを持ち何かを飲んでいる。


『巻いたかい? では続けよう3つ、僕がリングから発している警告を無視してアスのシジルゲートを潜った事だ』


「警告? シジルゲート? お前は、あの薬物中毒ミイラを知ってるのか?」


『勿論知っているとも、警告を聞かなかった君に教えよう』


 ベリアルは空中に、トレイの上に生えた香草らしきものを出現させた。そこか1葉千切り、ティーカップに入れて飲み干し長く艶目く髪を撫でながら口を開いた。


『色欲を司る堕天使アスモデウス』


「……」


『ーーサタネルの一翼を担う1人だ』


 小指の指輪は呼吸無く沈黙していた。


『その小指に巻いている布切れのお陰で、此処からの情報が漏れる事はないだろう、しばらく巻いている事だ』


「薬物中毒の素性を知った処で嬉しくも何とも無い。もう会うつもりも無い!次の話をしてくれ」


『後で詳しく話すとしよう』


「因みに、お前は何飲んでたの? まさか生き血か?」


『魔ティーさ、街中の豊富な魔力や生気を君が文句を言わない程度に徴収している。言うまでもなく君の家族や仲間は除外してある』


「言い方変えても引くものは引く、ドン引きだ」


 元サラリーマンの神流(かんな)に魔力を飲む発想がまず無い、どちらにしても気味が悪い。


 堂々街中で魔力徴収を行うベリアルに神流(かんな)は呆れたが、悪魔に善悪を説くのは無駄だろうと思い、何も言わなかった。


 ベリアルは神流(かんな)の横に再び座り指を立てた。


『最後に、君が僕を放置して会いこない事で、僕との繋がりが希薄になり、ベリアルサービルなどの刻印の力も弱まってしまう』


「弱まる? まだ弱まってないんだろ?」


『耳の穴をタルタロスにして聞くがいい、いずれ弱まる。僕を放置しないことだ、僕に恥をかかかせないでくれ』


「……誰の真似してんだよ100%使い方間違ってるぞ、何だよ、その構ってちゃん的発言は? 何か知らんが、今日お前の宮殿に来たからしばらく平気だろ。」


 ベリアルが、ターコイズブルーの瞳を見開き神流(かんな)の顔の正面まできていた。


『駄目だ、このままでは弱まるだろう』


「何が駄目なんだよ、駄々っ子かよ? 何をさせようとしてるんだ」


『それを、女性の僕に言わせるのか』


 ━━悪魔に性別なんか関係ないだろ、魂と身の危険を感じてしまう。いつの間にか干からびてるかもしれない、と思うと油断出来ない、悪魔の手口は巧妙だ。


「その話はまぁ置いといて俺からチョッといいか? それが終わったら、お前の話を受け入れるか考えても良い。」


 ベリアルは、神流(かんな)の瞳に映える自分の容姿を確認して、座り直した。


『なんだい? 僕に解らない事があるとは思えないが、言ってみるといい』


 神流(かんな)は立ち上がり、ベリアルを見下ろして告げる。


「お前が、俺と交わしている必要最低限の契約以外で過剰に行使している魔法や刻印を解け」


 べリアルは、怪しく蒼い瞳を見開いた。


『ーーーーーーーーーー』


 チア服の堕天使は初めて沈黙を示した。


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