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堕天使マニピュレイション異世界楽章   作者: 愛沙 とし
四章
67/140

食後の魔獣戦戯

残酷な描写があります。

 

 夜明け前の暗がりの峠に断末魔のような羆の悲鳴が無慈悲に木霊していく。 緊張の糸が切れそうになるほど張りつめて神流(かんな)の動悸を掻き立てる。


 ━━━━何だ羆がやられたのか? 何が起きてるんだ?


「どうします旦那?」


 レッドが真剣な表情で神流に指示を仰ぐ。神流(かんな)は立ち上がって腰を擦りながら答えた。


「何が起きたか調べておかないと余計に怖いだろ、イテテ」


 2人が、武器を携え闇の中を慎重に悲鳴の方へと進んで行くと異様な音が聞こえ始め段々と近くなってくる。明け方が近くとも漆黒の領域である峠の闇はまだ色濃い。

 地面に転がる木々を踏みしだき枝葉を掻き分けて奥の異音へ向かう。神流(かんな)の正体の知れない者への葛藤が、恐怖のメーターを手荒く上げようと心臓に過剰に血液を送る。緊張の混じる鼓動の波紋が全身に流れていくのを感じる。


「ギィ━━!」「ギィ!」「ヂヂィー」「ジィィィ!」


 湿度のある闇の中で耳が拒絶するような鳴き音が低く響く。


 先を歩くレッドの足音は神流(かんな)と違い殆ど聞こえない。


 ━━格好悪い話だが前を行くレッドの背中は頼もしい。


「━━」


 ふいに感じた危機感に息を殺し、神流(かんな)は自然と歩みを止めていた。


「!!」


 薄い月明かりが差して2人の目に鮮明に映し出されたのは、崖の斜面の手前で(ひぐま)を餌として群がる、羆より一回りお大きい双頭の鼠魔獣達の姿だった。2匹の巨大な鼠の怪物が四つの口で羆の肉を貪り喰いながら、血を舐め啜り濡らしている。


 「パギッガブッブヂィ!」「ムシャムシャムシャ!」


 魔獣、それは動物に純度の高い邪悪を織り混ぜた人類の驚異的存在だった。悪魔を知り多少の耐性がある神流(かんな)だったが、その(おぞ)ましい光景を視界に入れた瞬間に嘔吐(えず)き、胃酸が重力に逆らい食道にまで込み上がって来た。


 同時に抑えきれない恐怖心がレッドゾーンを振り切ろうとするが、親指の指輪が淡く輝く。すると、心拍数が下がっていき血液に氷を溶かしたように落ち着いていくのが分かる。


 魔獣は羆に爪を深く突き立て四つの凶悪な顎で腹に食らい付いていた。大きな門歯とは別に肉食獣特有の牙をはみ出る程生やし、羆の皮膚を簡単に食い破っている。


「旦那……はぐれの魔物みたいです。どうやら守護竜の結界を越えてたみたいっすね」


「どうやらって、結界の有る無しをそれで判断するのかよ」


 ━━はぐれ魔物は特別に強いとか言ってたよな。デカいし不気味だし東京の何とかマウスとはえらい違いだ。悪魔が居るんだから魔物ともいつか遭遇するとは思っていたが、こんなに早くとは。


 レッドは落ち着いた様子で神流(かんな)の横顔に話し掛ける。


「強いし狂暴なので、無理して戦わない方がいいです。気付かれてない様子だし、放って置いて熊を食べてる間にとっとと逃げましょうか?」


 神流(かんな)の目には多頭の怪物ケルベロスに喰われる獲物のように映った。レッドを見て頷いた。


「それもあるな。けど、今が楽に倒すチャンスとも言える。後ろから追って来られたら嫌だし、ここで倒しておければベターだな」


「倒すんですか。まあ旦那が居れば楽勝っすけどね」

 

 神流(かんな)はレッドに忠告する。


「レッド、俺が言うのも何だが攻撃するときに魔獣の唾液に触れないようにした方がいい」

 

「何でっすか?」


「鼠の唾液には凶悪なバイ菌が有って病気になったり死ぬ事が有るらしい」


「そっすか。魔物の唾攻撃なんて全て余裕で躱してやるっす」


 ━━ホントに頼もしいな。俺が知ってるのは鼠咬症とアナフィラキシーショック位だが、魔獣ならもっとヤバイのを持ってるだろう。気を付けるに越した事は無い。


 神流(かんな)は落ちている2メートル程の長い枝を拾ってベリアルサービルを起動(ファイアアップ)させる。


「チョッとだけ待ってな」


 持ちやすいように枝葉を切り落としてレッドに手渡す。


「なんすかコレ?」


「使い捨ての武器だ。先っぽに麻痺を刻印しといたから、魔獣の射程外から攻撃出来る」


「面白そうすね」


「面白いか? とにかく攻撃を開始しよう!」


 鼠魔獣達の前に踊り出ると目を光らせた夜狼達が一斉に飛び掛かる。


 鼠魔獣達は既に近付いてくる神流(かんな)達を鋭い嗅覚で感じ取って警戒信号を出していた。闇の中に爛々と朱色に輝く双眸達が神流(かんな)達を一斉に睥睨し邪魔者の姿を認識すると、一瞬で邪悪な形相になり、悪鬼のような威嚇の奇声を放った。


「ギィィ━━━!」「ヂィ━━━!」「ヂヂィィィ!」


 夜狼に牙を返す鼠魔獣の太い尾が生きたゴムのように巻き上ったり伸びたりして、反動をつけた鞭のようにしなり夜狼達を弾いていく。


 何千匹分もの鼠の体積を持つような巨大な鼠魔獣達、あるいは鼠らの肉体が溶けて融合しあった世にもおぞましい鼠の怪物の姿にも怯まず、夜狼達の牙による攻撃が矢継ぎ早に繰り出されていく。


 夜狼達は魔獣の尻尾に弾かれては低く悲鳴を上げて半回転して着地し、体制を直しては飛び掛かる。レッドは身を低く構え攻撃のタイミングを計っていた。夜狼は咆哮を繰り返し戦意を高めていく。


「ガルァ!」「ガロウッ!」「ガァ!」「ガァロッ」


「さてと俺も行くか」


 倒すと宣言してレッドを参戦させた以上、逃げと様子見の選択肢は存在しない。


 力を込めれば簡単に折れる小枝のような勇気を支えに神流(かんな)は、夜狼とレッドが戦っている鼠魔獣とは別の鼠魔獣に狙いを定めてコマンドワードを詠唱する。


「【盲目(ブリント)】【盲目(ブリント)】!」


 刻印が鼠魔獣の双頭に見事に着弾する。


 ━━よし視力を奪った。あとは死角からベリアルサービルで斬りつけ格好よくトドメを刺すだけだ。


 神流はベリアルサービルを軽く構え、勘での攻撃を受けないよう死角となる後ろの横側から悠然と鼠魔獣にトドメを刺すべく近付こうとする。


「━━ん?」


 しかし、盲目にした鼠魔獣が鼻先を斜め上に向けクンクンと揺らすと、2つの頭がピンポイントで神流に向けて首を回し、羆の血に濡れた口を大きく開けて大量の酸の唾を吐き出した。


「……ゲロか!? 嘘だろ!」


 まだ薄暗い夜明け前、一瞬避けるのが遅れる。指輪から曲線の光が流れ、円を描いて大半を防いだが、後ろに引いた右の手首に跳ねた鼠魔獣の強酸性の大量の唾液が掛かった。


 ジュ━━!


 手首の学生服の袖が溶け皮膚を爛れさせる。焼ける痛みの反射でベリアルサービルを地面に落とした。反対の腕で手首を握って痛みを堪える。


「うあぁ!」


 神流(かんな)の油断と失敗だった。元々鼠は視力が弱く、犬を遥かに凌駕する嗅覚と特に優れた聴覚を持ち合わせていた。更にのヒゲや体毛は周囲の振動や障害物を察知し、超音波で敏感に質感を感知する。


 視力に殆ど頼っていない鼠の魔獣を盲目にした所で活動に何ら影響が無かった。鼠魔獣は攻撃をした神流(かんな)に狙いを定めて身を屈め、命を狩るべく突撃してきた。


 ━━レッドに偉そうに忠告してたのに、この様かよ。


「時よさっきに戻れ! ううっくそぉっ! 痛ぇよってかヤベェ!」


 手首を酸で焼かれ炙られた痛みに我を忘れそうになる。無形の針が神流(かんな)の恐怖心を刺して煽るように刺激するが、身体は直ぐに動いていた。

 ベリアルサービルを左手で拾い直ぐ様、集中し覚醒(エアヴァッヘン)させる。


「唾吐きデブネズミめ!【麻痺(レームング)】【麻痺(スレームング)】!!」


 身を低くして突っ込んで来る鼠魔獣の2つの額に深々とベリアルの刻印が刻まれると、脳神経が麻痺し、身体を痙攣させながら急激に勢いを無くして倒れた。そして、その場で動かなくなった。


「いってぇ! マジで薬品の火傷みたいだ」


 自分の手を痛ましげに眺めてから、動けない鼠魔獣の腹部と2つの首をベリアルサービルで大きく斬りつける。くぐもった鼠魔獣の断末魔が響く。


「ヂィィ!!………」


「うん……やっぱ無理して戦わなくても良かった気がするな」


 巨大な鼠魔獣が活動停止するのを見届けてから、レッドと夜狼が対峙する鼠の魔獣へ身体を向け正確に刻印が当たる位置に移動する。


 戦闘で空気の流れが乱れると、場に異臭が立ち込める。先ほどまで有った峠特有の冷たい植物の青臭さではなく、思わず片目を瞑りたくなる羆と鼠魔獣の死骸の生臭さと獣臭さが周囲に漂って、嗅覚を鈍らせていた。呼吸が浅い神流(かんな)が上から飛び降りて着地すると、レッドに合流する。


「ハァ、レッド平気か?」


「全然平気っすよ。って、どうしたんすか? その手は?」


「チョッとサービスしただけだ」


「何を言ってるんすか? とにかく旦那に貰った魔法の棒で両足を突いてやったら、動きがノロマになりましたよ。魔法の棒は魔獣に弾かれてバラバラに砕けちゃいましたけどね」


 鼠魔獣を1匹倒して余裕の生まれた神流(かんな)だが、湿り気のある冷たい風を吸うと逆に口の中が渇き、喉が張り付く緊張感を覚えていた。そんな神流(かんな)の表情を見たレッドは軽く頷き魔獣にトドメを刺すと、暗闇に映える鳶色の瞳で告げた。


 足の動きが緩慢になった鼠魔獣の背中に夜狼が食いついている。それを一瞥したレッドは走り出し、口に手を当てて詠唱を開始する。

 

「ウィンド一族に繋がりし闇の精霊様、影に我が身を顕現させ我が敵に闇の一撃を」


  「【朧闇分身(ダークネスアバター)】!」

 

  鼠魔獣の周囲に八つの黒い霧が沸き上がる。沸き上がり暗闇と混ざる黒い霧は、それぞれレッドの形になり鼠魔獣に八方向から襲い掛かる。


  鼠魔獣は、魔力の質量を含む分身に向かって鞭のような尻尾を狂ったように振り回すが、空をきる。鼠魔獣の右の肩口に居る分身が、本体となって顕現し短刀を鼠魔獣の頚椎に突き刺した。


「ヂィ!ァ……!」


 鼠魔獣に麻痺の効果が色濃く現れる。思ったように咆哮を上げられず首を回してレッドに食い付こうとしても、痺れて思うように動かせない。双頭のもう一方の頭で噛み付こうとしても届かない。レッドは刺した短刀を横に大きく引いて、鼠魔獣の体液を避けるように飛び退いた。鼠魔獣の片方の頭の機能は停止した。鼠魔獣の半身の動きが麻痺していき緩慢になる。


「ギィ……!」


「もう終わりだろうが一応な」


「【麻痺(レームング)】!」


 ベリアルサービルを構えていた神流(かんな)から、鼠魔獣の空いた胸ぐらに麻痺の刻印が撃ち込まれた。


「ギ……ィ……」


 心臓に刻印を撃ち込まれた鼠魔獣に麻痺の効果が現れ、痙攣し、動きが緩くなっていく。


 隙を逃さず一気に夜狼達の顎が襲い掛かる。まともに動けない鼠魔獣は、夜狼の牙に蹂躙され、あっけなく絶命した。巨体が前に倒れると斜面の一部が音を立てて崩れ、もう1匹の鼠魔獣の死骸と折り重なるようにして崖を転落して行った。それを見届けた神流は一息つき、あらためて周囲を見渡す。すると、朝日の薄白い光が峠に広がり1日の始まりを告げている事に気付いた。


「フーッ無事に倒せたな。やっぱ凄いな、泥棒のような分身忍者娘」


 声を掛けると頬を膨らましたレッドが抗議する。


「違います。アッチはトレジャーハンターですからね。それより旦那の手の治療をしに馬……オルフェの所に早く戻りましょうよ」


「そうだな、さっさと戻ろう」


 全員で夜営した場所に戻りオルフェから革の水筒を取り出したレッドが神流(かんな)に手渡す。

 神流(かんな)は爛れた手首を擦って洗い流す。


「イテテテッ、ナメてた。魔獣とんでもないな」


 ベリアルサービルを抜いて手首に向け刻印を打ち込む。


「【解毒作用エントゥギフトンセフェクト】【浄化(ベーレイニガン)】【快活(レジリエンス)】【自然治癒ナテューアリヒハイルング】」


 手斑模様の手首の表層がピンク色に再生を始める。


「おっ効いてるぞ」


 ━━こんだけ刻印まみれにしとけば心配ないな。ベリアルの魔力網が無かったら、手首ごと無くなってたかも知れないな、恐ろしや。


 その様子を眺めるレッドが


「あそこで倒した熊はどうします?」


「距離はあるが万が一ミホマさん達の山小屋方面に行ったら、マホとマオが危険な目に遭うかも知れない。念のため、トドメを刺しておいてくれ」


「了解です」


 レッドは短刀を逆さに持つと(ひぐま)の首の付け根に差し込む。小さく唸っていた羆は眠るように息絶えた。


「━」


 神流が繁みの向こうに目をやると、2頭の子熊が逃げていくのが見えた。ちょっと切ない気持ちが神流の心に触れて通過していった。


 神流の瞳に一抹の寂しさが浮かんで直ぐに消えた。視線を戻すと(ひぐま)の毛皮をレッドがせっせと回収している。

 レッドの作業が終わってから、羆は戦ってくれた夜狼の朝食となった。そして、羆と戦って死んだ夜狼を埋めてやり、散らかった荷物をオルフェに積み直すと気を取り直して出発した。


 **


 峠を降りきると大きめの街道に入った。チョットした平原に街道のラインが続いている。神流(かんな)は、通行人が来ても驚かないよう夜狼に自分を挟ませて端を歩く。


 街道に入るかなり前から、レッドはターバンで顔を隠していたが赤色の編み込みポニーテールは仕舞わずにブラブラさせている。


 ━━まさかアイツ、指名手配とかじゃないよな?


「━!」


 向こうから、10人位の集団が街道を此方に進んでくる。普通の人間ではない。今の神流(かんな)には脅威では無いが、頭の中で警報を鳴らし、レッドにどう攻撃するか訪ねる。


「敵? ちゃいますよ。虎族の兵隊じゃないですか? 会釈して通り過ぎましょうよ」


 ━━虎族? 何でもありか。獣人というやつだな。軍の制服を着たリアルタイガーマスク軍団が剣を持って馬に乗っている。初見でこれはかなり怖い。青山羊悪魔メンや魔獣を知らなければ、もっと驚いたと思う。


 神流(かんな)は念のため夜狼とべリアルサービルを臨戦体制にしていたが、会釈したら珍しそうに夜狼を見て通り過ぎて行った。


「アイツ等は街にいっぱい居るのか?」


 ━━言葉がおかしいが、レッドに聞いたら沢山居ると言われた。敵なのか、どうやって見分けるか聞くと『敵意』とケロッと言われ返す言葉も無い。武器なしで勝てる気がしない。いや、あっても無理くさいな。 


 ~*


 陽は高く上がり、寒々しい街道を鮮やかに照らしている。


 神流(かんな)達が獣人達とすれ違ってから2時間位進んだが、誰ともすれ違わない。神流は人通りが少ない事に不安を感じたが、レッドが何も言わないので構わず進んで距離を稼ぐ。


 やっと景色が変わり街道から外れた所にポツポツと畑が見え、長閑な風景が拡がる。遠くに看板や柵などの造作物も見え、この先に街が在ることを仄めかしている。街道の先を見通すと二股になる岐路があり側道で行商が仮店舗を建てていた。


 オルフェをゆっくり引いて近づいて行く。夜狼達を少し離れた場所で伏せさせる。


 ━━言葉が伝わってるのかイマイチな気がしたから、今はジェスチャーをメインにしてる。


「どうですか? お兄さん、新鮮な野菜や果物等は? 要塞街まで結構な距離があるよ」


 ━━ベテラン風のオジサンに声をかけてきた。親子で商いをやっているみたいだ。


 店の板の上には木箱が並び、水々しい新鮮な野菜や果物が詰めてあった。


 その隣の店は、香辛料を扱っていた。その奥の端の店では、袋に入った粉物みたいのを販売している。


 ━━隊商(キャラバン)というらしい。リスクがあるから組むのだろう。勿論、俺は一文無しという旅人だ。


「ここでアルバイトでもしようかな


 見ると、レッドが何か交渉して受け渡しをしている。ボケッと見ていると渾身の笑顔で神流(かんな)に向かい歩いて来た。


「旦那売れましたよ。かなり安いですが夜狼と熊の毛皮が、中銅貨2枚と飲み水と油になりました。半分どうぞ」


「いいのか? 倒したのも殆んどお前だし、毛皮を剥いだのもお前だぞ」


 レッドが神流かんなを真顔で見つめる。


「旦那、つまらない事を言わないで下さいよ! アッチに恥をかかせないで下さいよ!」


 怒られてしまったことに驚きを見せた神流かんなは、悪かったとレッドに素直に謝ると中銅貨を受け取り、礼を言った。


 ━━レッドは、俺が遠慮しないように強い口調で言ったのだろう。お陰で素直に分けて貰う気持ちになれた。


 神流(かんな)は、そのお金で小麦粉、お米、唐辛子らしきモノを購入した。


 ━━色々サービスをしてくれて、小銅貨4枚で済んだ。異世界で初めての買い物は、予想以上に品物を選ぶ楽しさがあり楽しかった。後でレッドにもう一度お礼を言おう。


 神流(かんな)がそんな事思っていたら、レッドが静止するように前に来る。


「旦那! 貴族達が来ました。逆らうと無礼討ちで殺される可能性が有ります、早く端に寄りましょう」


 ━━レッドが緊張している。冗談の類いではないようだ。何故だ? 無礼討ちって侍かよ?


 神流かんな達は端に寄って少し離れる。馬に乗った身形の良い3人組が、店舗の脇に来て止まり1人が降りた。


 ━━こんな外の露店で、貴族が買い物でもするのだろうか?


 貴族の男の1人が、店舗の入り口から身を乗りだし店主を脅すように話し掛けた。


「おい、ジャーミィ家の領地で、無許可で商売してるのか? 挨拶は、どうした?」


 周囲に不穏な空気が流れ始めた。神流(かんな)の瞳は闘いの予兆を示すように、冷たい視線で貴族の男を射抜いていた。


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