竜の領界
『グオルロロロ、我の温情を足蹴にするとは、やはり無知な羽虫よ。瞬時に塵と化して亜空間に棄て去るも一興』
巨大な御簾がスーッと音も無く上がって行く。すると竜姫リンの姿が少しづつ露となっていく。
その姿は人型で白と銀が混ざり光沢のある長い髪を床まで伸ばした十代後半の女性であった。身に付けているのは、胸が大きく開いた藤色の裾に幾多の椿の模様がされた日本の浴衣を五衣重ね比翼仕立にしたような羽織りだった。
着付けを崩し緩んだ帯をだらしなく垂らしサングラスを掛けている。
━━本物の竜では無い。人型ロボじゃなくて人型竜か、とりあえず何故下着を来ていない? 竜乳が溢れて零れそうだぞ。それにしても何で和服にサングラスなんだ、異世界で日本かぶれか? 見た目的にはヤンキー崩れの……うっ……。
神流は竜姫リンの全身をはっきりと見た直後、ぐにゃっと空間が捩れた感覚に陥り、靴を脱いだ縁側の下まで吹き飛ばされていた。
「おぶなっ!」
「バカな人族め、リン姫様の素の竜羅気を遮る物も無く浴びれば、人間如きの命など蝋燭の火のように消し飛ぶに決まっておろう。ひれ伏しておれば生き延びれたものを……馬鹿は恐ろしや」
『浅薄な命を棄てて自ら死ぬ道を選ぶとはな……ドリュアス、憐れで不様な死骸を亜空間に棄てて参れ』
「ははっ!」
「……まだ死んで……ねえよ。リン太郎……何しやがった……」
縁側の縁に手を掛けた神流は震えながら、ベリアルサービルの鋒を竜姫リンへ向けようとする。
『生きておるとは……生命力の溢れた魔の羽虫だのう。特別に教えてやろう』
竜姫リンの口角は僅かに上がり、邪気と蔑みを含む冷笑の色が浮かんでいた。




