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堕天使マニピュレイション異世界楽章   作者: 愛沙 とし
ニ章
42/140

魔力の熱

 

 ◇時間(とき)は少し遡る。


 ベリアルの座す綺羅びやかな宮殿が存立する異空間のシジルゲート(魔紋章の扉)を抜け納屋の中に降り立った神流(かんな)は、まだ顕現しているゲートに顔を向ける。


 ━━ずっと監視生活は流石にゴメンだ。 ただでさえ、四六時中盗視されてるようなものだろ。俺のプライベートは俺のだ! ……かなり時間掛かったな。


「殺すのか……それも運次第か」


 神流かんなは納屋の奥を覗く、


「……チョビヒゲ山賊がいない。……血だ、縄が千切れてる。まさか噛み切ったのか? ……馬鹿だな、死ぬかも知れないのに」


 べリアルは告げていた。神流に対して明らかな殺意を持ち攻撃を仕掛けた2人。その2人からは自分の目的の妨げとならぬよう殆んどの生気と魂に混在する力の一部を抜いた。それをシジルゲート(紋章の扉)を開く為の糧の一部としたと、衰弱を放置すれば瀕死になり期せず死ぬだろうと、


 ━━逃げてる途中でぶっ倒れてるかも知れないな。山小屋には閂が掛かってるし逃げるとしたら仲間の居る方面の林の中だ。てか、どうでもいい。


 逃げたグリルの事は頭から消し、ぐったりと虫の息で寝ている山賊ドズルの前に立つ。


「のんびりしてるとコイツも死亡するって事だな。どうせ過労死するかもなら役立ってからにしてもらう」


 ━━リアル?での初魔法をコイツで試そう。魔法使用に必要な魔力やシステムはベリアルが提供してくれるんだよな。問題は自分のあるか分からない魔力でベリアルサービル(ベリアルの軍刀)を呼び起こさないと自由にならないという事だ。


 神流かんなは真剣な表情を浮かべるとベリアルサービル(ベリアルの軍刀)の柄を握り締め脚を肩幅に開いて発動する為のイメージを伝える。


「むぅっ!…………」


 空白の静寂が流れ魔導武器は微動だにせず、変化も現さす様子が無い。


「……何なんだよ」


 ━━少し格好つけた自分が恥ずかしい。くそ。


 沸き上がる羞恥心と怒りを抑え再度ベリアルサービルを翳す。


「魔法よ出てこい! 魔力をジャカジャカ出せ! 出し惜しみすんな」


 ━━


「我は天原神流(かんな)である。不気味な山刀よビカビカ光れ。……ベリアルの知り合いだぞ」


 ━━もう心が折れそうだ。あの廻廊で出来た魔法は幻覚か? まさか、あの悪魔が嘘をついたのか? クソッ毛も生え揃ってない学生を騙したのか? 


 ━━!


 外が騒がしくなる。大勢の山賊達の雄叫びが聞こえてくる。


 ━━山賊共だ。もう行くか? ……待て冷静になるんだ。このままの俺が行っても役にも立たず犬死に確定だ。皆を護る為にはコイツが必須条件なんだ。


 自分の中の葛藤にはっきりと答えを出した神流。皆を護る、それだけを思い大きく息を吸い込み深呼吸を繰り返す。


「血でも魂でも何でもやるよ! 起きろ目覚めの時間だ魔山刀!」


 力の抜けそうな言葉を強く念じる神流(かんな)は、身体の芯に力を入れる。


 ━━きた。


 覚えのある予兆を感じた。心臓の彼方、魂の遥かで力の塊が形を成そうとしていた。深淵の闇に佇む魔力がドクンと鳴動した。目覚めた魔力に反応したベリアルサービル(ベリアルの軍刀)の刀身が淡い白光の明滅を始める。


 ━━この熱い感じな。


 喉の奥にも力を感じている。皓皓たる漆黒の煌めきが生起し輝きがベリアルに刻まれたシジルマーク(魔紋章)の軌跡を辿り終えると!リーンと鳴動し魔力の放出を経始した。


 魔力の大河が塞き止められているのを神流(かんな)は感じている。恐怖と高揚感、戸惑いと好奇心が入り交じった複雑な衝動に駆り立てられていく。


『【覚醒(エアヴァッヘン)】』


 簡易詠唱に反応したシジルマーク(紋章)からは莫大な魔力が流れだし神経網と魔力経路を伝いベリアルサービル(ベリアルの軍刀)に注がれる。すると、刀身が哭くように共鳴震動を起こし始める。刀身の紋様に妖しい燐光が宿り全体に淡い輝きが生まれ覆っていく。


 ━━おお、廻廊の時より光ってるな。本領発揮したのか? 


「使えるって事か? ヤベッ手が震える」

 

 しっかりと柄を把持して簡易詠唱を唱える。


「【隷属(スクラーヴェライ)】」


 ベリアルサービル(ベリアルの軍刀)の鋒に光を醸す堕天使の紋章が立体で浮かび上がり一瞬で射出されドズルの胸に着弾する。


 撃ち込まれたのは、相手に対して奴隷状態を強要する最強に恐ろしい精神魔法の刻印だ。それがドズルの心臓の辺りに刻まれていた。


「どうだ? 成功したのか?」


 見た目上、特に変化は見え無い。神流(かんな)は眠るドズルに声をかける。


「おい起きろ」


 ドズルの瞼が開いていく。暴れることもなく、神流(かんな)を主人と認めたように大人しく見つめている。確信を得た神流は縄を解いて自由にすると立つように命じた。


 ドズルの巨躯が石像のようにぬっと立ち上がって直立し、雌伏して命令が下るのを伺っている。


「山小屋に来る山賊達を倒せ。山賊以外の子供と女性達を命を懸けて守れ! それと死なない程度に殺せ。今の説明を理解したなら頷け」


 黙って頷いたドズルに再度、ベリアルサービル(ベリアルの軍刀)の鋒を向ける。


 ━━戦いには強靭な肉体と燃えるような怒りと闘志が必要だろ。


「【治癒(ハイレン)】【快活(レジリエンス)】【肉体強化(クレフティゲン)】【剛力(シュテルケクラフト)】【激怒(ヴート)】【憎悪(ハス)】」


「ーー!」


 複数の刻印が刻まれると凄まじい怒りの形相に変化した。瞳孔が異常に開き、眉が歪み、額に青筋が派生していき、噛み締めた奥歯がギシギシと木霊し、皮膚の表層が熱を持ち電熱線のように真っ赤になっていく。


 変化はそれに留まらない、首、胸、背中、腹部、四肢、其々の筋肉がパンパンにはち切れそうな程、膨張していき血管がミリミリと浮き出ていく。毛細血管から運ばれる血液が濁流となり心臓に流れ込み鼓動という名の絶叫を響かせ続ける。


「なんて悪い魔法だ……」


 神流が呟く最中、ドズルは自分の身体に起きた急な異変に身を委ねていた。


(体に流れる血液が溶岩を流し込まれたように煮える。頭の中で大きな鐘がガンガンと反響して爆発するように聴こえる。何故か身体に力が破裂するほど溢れてくる。感じていた痛みと疲労が溶けるよう感じない。(みなぎ)る力が自分の巨躯を絶叫させ飛び出そうと暴走を始めた。心の底から噴き出してくる怒りが己の爪先から頭頂までを侵食していくようだ。憎い。見える景色が憎い。憎い。この狭い建物で大人しくしている不様な自分が憎い。憎い。この世に生まれてきた自分が憎い。憎い。山賊に身を置く境遇の自分が憎い。憎い。山小屋を襲おうとしてる野蛮な山賊仲間が憎い。憎い。まだ主人の命令を実行出来ない愚かな自分が憎い)


 ━━


 黒い怒りが渦を巻き狂おしく精神を悶えさせる。身体の中で吹き荒れる暴力衝動を抑える事が出来ない。ドズルのその瞳には、憤怒と憎しみの狂気が荊のように宿り、凶悪な戦闘マシーンと化した証明を果たしていた。


「行け! 山小屋を襲撃している山賊共を殲滅してぶっ飛ばせ!」


「シュゴオオオオーーーーッ!」


 身体から湯気の上がるドズルが呼気を荒げ納屋を出ていくと神流はベリアルサービル(ベリアルの軍刀)の鋒を自分に向ける。


 ~**


 徐に床に散らばる藁を一掴み空中に投げた。


 ━━


 空中に散らばる藁を一本残さず掌に掴み取った神流は口の端を少し上げる。


 ━━いける。後は運次第、大した事の無い命だが何度でも賭けてやるよ。


「チップは俺の命だ」


 瞳に覚悟と決意を秘めた神流は逞しく見えた。


 しっかりと柄を握緊(にぎりし)めたベリアルサービル(ベリアルの軍刀)と共に納屋の扉を潜り、既に口火の切られた戦場へと踏み出して行った。



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