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堕天使マニピュレイション異世界楽章   作者: 愛沙 とし
一章
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悪魔の最期

 

 神流に照準を合わせた青い山羊悪魔は鋭い牙が羅列する紫の口腔から空気砲のような濁流を吐き出した。


『ゴハアアアアアアアアッーーーー!』


 至近距離で歯茎を見せて咆哮し魔力を乗せた竜巻の超音波と耳をつんざく轟音を神流(かんな)に叩き付けられる。足元が抉れ石ごと木っ端微塵になり風の濁流が迫る。


「ーー!?まっぁっぐろぉ!!」


 頬を数ヶ所切られながら神流は半身になって屈み頭を抱えて目を瞑った。


 ーーその刹那。


 親指の指環から光の波が音速を超えて迸った。クリスタルと水晶を溶かして合わせたように輝く極薄の魔力障壁が一瞬で3面構築され三角柱の形を成して神流を囲う。


 邪悪な魔力の混ざる咆哮の竜巻は、帯電し稲妻を走らせ摩擦熱で生じた炎を捲き込み谷ごと破壊する威力へと化していた。三角柱に直撃すると真っ二つに分かれ、魔法障壁の面に沿って爆音を響かせながら後ろに流れて行く。


 邪悪で狂暴な竜巻が通り過ぎると薄氷が割れる音を高く鳴らし魔法障壁の三角柱は砕け散った。後部で轟音と共に爆散した竜巻は地面を抉り崖の下腹部を破壊し巨大な岩や土石の山を作っていた。地鳴りと立ち上る土埃が恐ろしい衝撃の余韻を神流に伝えていた。


「はぁ……何という事?」


 常人なら驚きと恐怖でそのまま踞って思考を止めてしまう程の状況だ。左手の指環から流れてくる光の波動がパンクしようとする心臓の血流を諌め、恐怖を和らげて混乱しそうな精神を安定させている。


 ━━やられたい放題で、いい大人が半泣き状態だ。震えの残る足も万全じゃない。しかし、死ぬ選択肢は俺には無い。尖った石でも投げて逃げるか? いや、それ失敗するパターンだな。


 指輪の光は神流が恐怖に呑み込まれるのを防ぎ的確な思考をする猶予を与えていた。


 青山羊悪魔が放った咆哮の余波が周囲を抉り破壊してる間に、動くのに邪魔な籠の担ぎ紐から腕を抜いて立ち上がれる態勢を整える。


「ビビり過ぎて思考出来……」


『ヴオオオォォォォォ!!』


 再三攻撃を防がれた青山羊悪魔は雄叫びを上げて激昂する。喉を鳴らし怒りに任せ、トマトでも握り潰すように神流(かんな)の頭部にドス黒い鋭爪を立てて勢い良く掴みかかった。


 眼前にドス黒く毒々しい光沢を放つ鋭爪が迫る。


 ━━何もしなければ魂抜かれて死ぬだけだ。


 神流は青い山羊の悪魔が突き出した黒い鋭爪を息を吐いて奇跡のように横へと躱した。黒い鋭爪が空を切り青い山羊悪魔が体勢を崩すと後ろにある籠を手に掴み逆さまにしながら跳躍した。


「うらあぁぁぁーー! 当たって砕けろ!」


 青山羊悪魔の頭部に籠を被せながら飛びついて腰から山刀を抜いて両手に握るとエイっと切り付けた。が……非力な神流の攻撃は悪魔の皮膚に弾かれる。


「なっ!?」


 ━━鉈の刃が通らない…………!?


 絶望のカーテンが過る神流の瞳に青山羊悪魔の肩に残る斬撃の痕跡が映った。それはマントに極楽鳥の翼が刺繍された騎士が、死を賭して剣を振るい青山羊の悪魔に刻み込んだ傷跡であった。


 ━━いけるか?


 頭上に山刀を振り上げ息を肺に飲み再度力を込める。


『ヴォエゴアァーー!』


 青い山羊の悪魔が舌を極限まで震わせ狂乱し吠えながら魔方陣を構築していく。ここで魔法を爆発させたら籠ごと弾け神流の勝機は泡と消える。


『小癪ナゴミ人形ガァァ死ィィィーーーー!!』


「俺は最初からダメ(もと)だあぁーーーーーー!」


 咆哮し筋肉を過剰に軋ませる両腕の力が加わる刃は燐光に輝き出した光と共に肩の傷跡に吸い込まれる。


「ーーっ!!」


『……ξθ∫ゴバゥッ!!』


 一思(ひとおも)いにザブリと斬りつけた神流、肉を斬るような嫌な感触に表情が歪む。青い山羊悪魔の肩に山刀の刃が埋まっている。


 躊躇したい気持ちが脳裏を掠めるが両腕の力は緩まない。


「うおおおおぉぉぉぉーー!!」



 渾身の力を刃に乗せて斬り抜いた。


 火花をバチバチバチと散らし胸を大きく切り裂かれた青山羊悪魔から、黒い血が空気を染めるように噴き出した。悪魔の血飛沫を受けた神流はシュウと煙を上げる血の臭いに思わず顔を歪めるが腹の底から声を上げる。


「まだ動け俺っ!」


 ━━今を逃したら倒せない。心臓が悲鳴を上げて止まっても動け!


 地面に着地して目を見開くと屈んだまま脚の靭帯に急激な力を溜める。身体を跳ね上げて悪魔の腰の辺りを半回転しながら思いきり斬りつける。激しく散る火花を弾き飛ばすように返す刀でもう1度斬り抜いた。


 ズパシュッズパッ!!

 

『ヴォエ“ア“ア“ア“ア“ア“ァァァーーーー!!!』


 生々しい音と悪魔の絶叫河原に響いていく。山刀の刃紋は指輪と共に白い粒子の微光を揺らぐように保っている。付着した悪魔の黒い血液を刃から跳ばすように散らしていた。


『グフゥ! 人形メ……ナラバモロトモ……』


 籠を被ったままの青い山羊悪魔は神流を制するように両腕を前に出して曲げ血管をビキビキと浮き上がらせる。すると身体の中心が紅紫に光り禍々しく点滅を始め破裂しようとする。


 ーーズブッン!!


 止まらない神流は微光を放つ山刀の切っ先を点滅の中心へ突き入れていた。刃を伝いドス黒い血液が地面に流れ文字通り血煙を上げる。刃をズルリと引き抜いた神流はやっと距離を取った。


『ゴボエッ!!』


 青山羊悪魔がカゴを払い退けて、ふらつき始めた。首をグルンと回し神流を睨みながら口元が震えている。


 ━━今更だが徹底的にやってしまった。青山羊悪魔がメチャ怒って睨んでる。目から極太ビームか? また殺人魔法みたいので吹き飛ばされたら尾てい骨が耐えられそうに無い。


「ほあぁぁぁ!!」


 逃げる事も選択肢に入れている神流は、やったこともない剣道を真似て声を出し山刀を両手で中段に構え虚勢を張り牽制する。


『メ……ヴェァ人形ガ……何故ダ?』


 巨大な悪魔が粘土で拵えた塔のように傾き倒れていく。川辺の石にビタリと額をぶつけ怨恨の視線を彷徨わせている。


 ━━やっと終わった?


 その視線を神流に合わせると、


『死ネイ!!』


 ━━!?


 黄色い魔眼を極限まで発光した青山羊悪魔の口腔が、紅く輝き赤紫の巨大な火柱を吐き出した。


「うぁ熱っ!」


 逆巻く炎の竜巻をうねらせた火柱、それが神流に向かって進んで行き呑み込んだ。


 ーー瞬きの間に


 神流の指輪から光りが放出され瞬時に長細いひし形の魔力障壁柱を構築し神流(かんな)を覆っていた。火柱は神流を通り抜けると爆発音と共に爆散し周囲を火の海と化した。


 魔力障壁は薄氷のように砕け空気に溶けていく。


「危っねい! ……火傷は……ヒリヒリするけどしてない?」


 踞った神流が顔を上げる。目には火がバッと燃えて目の前がビカッと光ったとしか映らず、一瞬の攻防を認識する事などまるで出来なかった。


 またもや命を拾った神流は周囲に上がる炎を見て呆然としながら青山羊悪魔を睨み返す。


「………………お前の丸焼き攻撃は読んでたんだよ! 料理じゃ有るまいし焼けてたまるかヤギ野郎!」


 ━━こう言えば悔しくなるかな。駄目だ、やはり最後の最期まで銀製の杭を刺しとかないと甦るかも知れないな。


 神流が(とど)めを刺そうとジリジリと近付くと青山羊悪魔に変化が起きる。痙攣し口から黒い薔薇のような毒々しい液体を、大量にゴボリと垂れ流すと端から砂になり崩れていく。


 神流はその様子に耐えられず視線を逸らしていた。刀身の輝きは落ち着き薄い微光となる。


 ━━キモッグロッ、不気味で見ていられない。まさにホラー映画さながらだ。わざわざ危険を侵して止めなんか刺したくないに決まってるだろ。


「俺が倒したのか……指輪と鉈がビカッと光ってた。着信とかじゃないんだろうな」


 ━━解らん。それより、まだギグッと喉がつかえてる様な気がする。


 神流の精神は落ち着きを取り戻しつつあった。穏やかな精神と緩やかになる心臓の鼓動とは、逆に不思議な高揚感と胸の高鳴りを覚える。


「ーーーー!」

 

 黄金の指環が崩れる悪魔の砂から、スモッグのように浮き上がる黒い靄を凄まじい早さで吸収していく。残らず吸い込み終わると集束した光を鎮めて静かに明滅していた。


 ━━もしかしたら、この指輪が。


 ドクンッ!


 黄金の指環が生き物のように脈動した。気付いた 神流(かんな)は、指環を注視したが薄く光ってる以外の事は解らない。


「この指輪やっぱり生きてるのか? オイ、何かの呪いで俺をサポートしたか?」


 神流は不思議な面持ちで指輪を暫く凝視した後、目を離し青山羊悪魔の残骸の砂を睨みつける。


「山羊のクセにメェと言おうとしたろ? お前の罪はグロ過ぎて閲覧注意罪だ。……間違っても俺を呪ったりするなよ」



 谷に流れる絶望を含む不気味な風は止んでいた。



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