地下神殿バトル
残酷な描写が有ります
神宮寺聖桜は、はぐれて群れている数人の邪教徒達を倒そうと勇敢に近付いていく。
邪教徒達は余裕の表情で、新しい生け贄を見るように醜悪にせせら嗤っている者や間合いをとって聖桜の出方を見ている者もいる。
神宮寺 聖桜の考えは決まっていた。
正攻法
ーーダマスカスロングソードが当たる間合いまで近付くと打って出た。
一番前に居た邪教徒は女とは思えない鋭い打ち込みに驚いて後退る。しかし、触手に持っていた死体でガードをすると、うねる触手で頭を潰そうと反撃してきた。
聖桜は持ち上げられた死体に一瞬驚くが、それでも死体の影から伸びる触手を一刀で切断すると邪教徒に向かって勇猛に斬り込みにいく。
横から迫る別の触手を避けながら、剣を一閃させ触手の先端を切断して落とす。更に踏み込み邪教徒の灰色のローブの上から太腿を大きく切り裂いた。
「ウギャーーッ!!」
崩れ蹲る邪教徒を見て、他の邪教徒達から余裕の表情が消える。次々と壁に備え付けられた金棒、棍棒、槍を触手に持って構える。
聖桜は雑に突いてくる槍を、最小限の体さばきで避ける。触手が伸びきった所で、ダマスカスロングソードを振るい触手を一閃すると、触手と共に槍がボトリと地面に落ちた、その時。
「!」
聖桜の背筋に冷たい戦慄が走る。周囲に気を張り巡らしていた筈なのに両方の足首が、ガッシリと掴まれていた。邪教徒は、地面に穴を開け地面の中を掘り進んで聖桜の後ろの地面から触手を伸ばしていた。聖桜は掴まれた足を後ろに引かれバランスを崩し倒れる。
「ブハハ、馬鹿め! 頭の中身が違うのだ。 低俗な反徒の女め。なぶり殺してから、アエーシュマ様への生け贄にしてくれる」
動けない神宮寺聖桜に5メートルの高さから、無慈悲な金棒と棍棒が一緒に振り下ろされる。
「《土杭強》、《土針5》」
金棒と棍棒は、神流の放った土杭の一撃で吹き飛んだ。邪教徒達は地中から起伏した無数の土針に貫かれ絶命する。
「あのさぁ、強いのは解るが何でいつも団体行動しないで単独 で動くんだ? 遠足とかで怒られなかったか?」
「怒られた事無いわよ! 礼を言うわ、ありがとう」
「ありがとう、じゃないだろ。孤高の剣士は禁止するから」
「ええっ? なんでそんな事言うの!?」
「コッチが、ええっ? だよ」
聖桜は、足の触手を斬って外す。聖桜と戦っていた邪教徒達は、神流の土針で胸を貫かれて絶命していた。
「1度合流するぞ」
神流と聖桜は、レッド達が戦ってるエリアに合流する。邪教徒の数も5分の1をきって150人位になっていた。
━━放置していても時間の問題で全滅するだろう。終わったら刻印の邪教徒達は縛って衛兵に突き出すか。
「旦那、かなり数減らしておきました。終わったらデートして下さい」
「ご苦労さん、何でも付き合うから怪我するなよ」
神流は、レッドの発言を華麗に聞き流した。
「御主人様、命を懸けて頑張りました」
「そうなのよ。二桁は倒したわね。少しは驚きなさいよ」
興奮したイーナが、神流の傍にピタッと寄り添う。頭をポンポンされると頬が紅潮したイーナは嬉しくて手をギュッと握る。
━━ルーニャも羨ましそうに見ていたので、やって欲しいのかと頭に触ったら怒られた。余計な地雷を踏んだ気がした。
みんな、慎重に動いてくれてるようだ。敵の数が2000人と聞けば、怯えて逃げ出してもおかしく無いのに。
「平気だったか? イー……Eガールとルーニャ」
「はい大丈夫です。御主人様と一緒なら何も怖く無いです」
「ワタシは魔術師よ。魔物モドキの邪教徒なんて敵じゃないわよ」
━━凄い自信だ。体育会系幼女達は。
イーナとルーニャが白クルミの杖とダマスカスアウルで、変な決めポーズを取っている。神流は苦笑いしながら頷いて相槌をうつ。
「……怖くないのも、無敵もいいんだけど、基本は多数の敵にはパーティーで挑むか逃げて退散した方がいい」
「逃げれなかったら、どうするのお兄さん?」
「煙玉とか目眩まし等のアイテムを使う。助けを呼ぶ、高所や狭い所で守りながら迎撃するしか無いよな、後は魔法とか」
━━そういえば俺も人に教えられる程、場数は踏んでいないな。お喋りなんかしてないで、とっとと終わらせるか。
「何で、アッチの心配はしてくれないんですかっ!!」
「してるよ。さっきしたろ? 平気だったろ?」
(ムカッ)
━━何か怒ってるよ、こんな時に。
「いっ一刻も早く、邪教徒を全滅させよう。変な話だが、自分の安全最優先で「命を大事に」で頼む。単独の戦闘はなるべく減らしてくれ」
「………………了解っすよ」
「解ってるわKボーイ」
「御主人様、命を懸けて戦います」
「ヤル気満々ね、お兄さん。まだ秘蔵のマジックアイテムは、有るから安心してて良いわよ」
━━解って貰えた……のか? レッドは怒ってるし、ルーニャはホワンさんのくすねてる可能性があるし女性陣に押されてる感じで、どうも調子が狂う。
気持ちを新たに邪教徒の残りを殲滅しようと向かう。すると大きな足音が聞こえてきた。
━━━!
砕けたアスモデウス像の近くの開口部から、神話に出てくるバイデントに似た二股の鉄槍を持った50人程の兵隊が慌てて出て来た。
━━その姿は全身がカラスの姿をした凶悪な魔物の兵隊であった。
邪教徒達の争う騒音が遠くに聞こえていたが気に止めず放置していた魔物兵。しかし、芳醇で香しい血の匂いが漂ってきたら話は別となった。
新鮮な血にありつける事を確信し神殿の大広間に出動したカラスの兵隊達の目の前には、物言わぬ凄惨な骸と化した邪教徒達が点々と散らばって転がっていた。
「カッカッ何だ? …………これは、この状況は何が起きた?」
邪教徒の1人が近寄って必死に伝える。
「クウニグル殿、いきなり狂気の信徒が反乱を起こしました」
「なっ何だと! タウラス殿の居ないこんな時に……すっ直ぐにマッマルファス様に御伝えしろ!」
カラスの兵隊が数人戻って行こうとする。
「《土格子強》」
開口部の地面と左右から、太い土の棒が何重にもせり出して土の面格子を構築して、カラスの兵隊の行く手を遮る。
「カァッ!これは?」
カラスの兵隊達が槍で突くが表面に刺さるだけで壊れない。
「行かせる訳が無いだろ」
カラスの兵隊が、振り向くと精霊紅魔鉱剣を地面に突き刺した神流が兵隊達を不敵に睨んでいた。
━━まだ姿は見てないが、その奥にマルファスとかいうレイドボスが居るのだろう。
「カカカ、お前等が何かしたのカァ?」
「さぁな? 今から、お前等をやっつけると書いてあるけど」
「なんだと! 信徒の揉め事は放っておけ、死んだら喰えば良い話だ! 侵入者を抹殺して排除しろっグカカカァーー!」
カラスの兵隊達が羽をバタつかせると大広間にカラス兵の軍団が舞い上がった。一斉に神流達を二股の槍で串刺しにしようと縦横無尽に空中を滑空して攻めてきた。
「カララララァァ、憐れな侵入者共、楽に死ねると思うなよ。串刺しにして蜂蜜に浸してから、ゆっくりと骨ごと齧ってやる」
「カカッ、そうだ目の前で仲間が食われていく様を見せてやる」
ーー猛るカラス兵が、レッド・ウィンド目掛けて槍を物凄い速度で突き出した。
「そんな突きが、アッチに当たると思うなんて甘いんすよ」
避けながら、跳ねてカラスの兵隊の背中に飛び乗ると同時に延髄に短刀を突き刺した。力無く墜落するカラスの兵隊から飛び降りた。
「!」
降りる瞬間に上から投げられた槍を、横に飛び退いて躱した。
「……投げても届かないっすね」
舌打ちして、取り出したダマスカス鋼の手裏剣を懐に戻した。機嫌を直そうと神流が白々しく誉める。
「素晴らしいな。身のこなしは流石だな」
「そんなんじゃダメっす。チューっす」
「……何か考えておく」
ーー神宮寺聖桜は、五行の構えの中から八相の構えを選択していた。剣を立てて右手側に寄せ、左足を前に出して構える。陰の構え、木の構えともいう。
竹刀より重い剣を長時間振る事に特化し、乱戦で仲間との連携では、最適の構えだった。この構えの主要技は、斜めに斬り下ろす『袈裟懸け』である
聖桜に一撃入れようとバイデントを突き入れたカラスの兵隊の羽と片腕が、剣閃の後に吹き飛んで肩から血を噴き出し地面を転がる。神流は、棒立ちで見物している。
━━なんて凄い切れ味だ。サムライかよ? アイツを怒らせるのは控えよう。
それを見て神流が息を呑むと走って近付いたイーナがレッドの真似をして転がったカラス兵の延髄にダマスカスアウルを突き入れた。
「えぃっ!」
カラスの兵隊は音を立てて倒れると絶命し砂と崩れていく。
━━容赦ないな。当たり前か、命懸かってるんだもんな。
神流は、幼女イーナの思い切りの良さに少し戸惑った。幼女を戦わせてる罪悪感が、神流の胸に波のように押し寄せてくる。すぐに気を取り直して、こちらを窺っていたルーニャに目配せをする。
「出すわよ。魔術師様の魔法を、ちゃんと見てなさいよ」
ルーニャが袋をまたゴソゴソ漁る。
「あっ猫ちゃん」
黒猫アリューも一緒に覗く。すると、階段で使用していたのと同じ透明度が限り無く高いひし形の魔石を取り出した。スーッと持ち上げて小さく呪文を唱えて空中に固定する。ルーニャは魔石に向けて杖を翳した。
「バー・ブレン・ネス・シュトース、炎よ矢となりて我が敵を貫け」
「炎矢」
収束した炎の矢が3条の焔の線を描いて透明な魔石を通り抜けると、魔石が紅く輝き10倍の30本に増殖してカラス兵の軍団を目掛けて飛んでいく。大広間を明るく染めながら、次々と刺さる炎の矢。羽や身体に刺さっても消えない炎にカラスの兵隊達は墜落して顔や身体を覆い転げて苦しみ悶える。
「グカアーーッ!」
「ガカァァッ!」
「ゴカァカーーーー!」
「カカカガッ!」
━━簡単に出るな。どうやって覚えるんだろう? 効率が、かなり良い。……全くグロい焼き鳥になりそうだ。
「お兄さんボーッとしてて良いの?」
━━いけね、怒られた。
「チョッと作戦を練っていたのだよ君」
神流は、地面に精霊紅魔鉱剣を突き入れた。
「《床上昇》」
神流の周囲の地面が、隆起して上昇していく。天井の近くで剣を抜いて天井に差した。
「《土針30》」
高く飛翔しているカラスの兵隊が、天井から突き出る土の針に羽や身体を串刺しにされ、力無く墜落していく。
「《床下降》」
神流を乗せた土の床が地面の高さまで下がっていく。カラスの兵隊達は既に全滅していた。いや、1匹だけ呆然自失で座り込んでいる。邪教徒達も20人位しか残っていない、方囲しているのは3倍の人数で防戦一方だった。
神流はベリアルサービルを握り魔力サーチをした後、レッドに声を掛けた。
「カラスマンも1匹だし、後は任せて良いか?」
「良いっすよ。旦那はどうするんです?」
「像を壊してくる。それだけ、すぐ戻る」
レッドは、紅い編み込みポニーテールを振って軽く頷いた。
「残りを殲滅しておくっす」
「助かるよ、頼んだ相棒」
神流は、砕けたアスモデウスの石像の横に目を向けて進んで行く。魔物が出て来た入り口の前で精霊紅魔鉱剣を抜いて入り口の土の格子を解除する。崩れた土格子を踏み越えて中に入って行く。
神流は、迷い無く篝火と禍々しい像が立ち並ぶ廊下を進んでいくと行き止まりに見える部屋を覗き込んだ。




