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堕天使マニピュレイション異世界楽章   作者: 愛沙 とし
四章
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集いし精鋭と水面下の戦い


 広場には、怪物と化して、彷徨い歩く元街人や元衛兵、そして累累と横たわる死屍があちこちに並んでいる、石像となり動かない者、砕かれ朽ちた者もいる。


 地獄の様相を呈していた。


 上空に浮かぶ悪魔の上の手には、不気味な彫金の施された杯と木造りの悪魔人形の中にあった魔石と同じ素材で出来た黒い水晶が握られていた。

 薄く黒い靄が、その杯に向けて集まって行くのが見える。


「べリアルリングと同じように、魔力とかを吸い込んでいるのか?」


 牛の悪魔が、腰にある袋に1本の手を突っ込み、何かを取出すと広場に拡がるように、ばら蒔いた。


「……紫の【黒い小箱(カプセル)】かよ!」


 地面に落ちると、ワラワラと虫のような足を生やし、近くにいる怪物男達に飛び付き借宿にしているようだ。


 神流(かんな)の背筋に、寒気と嫌な汗が流れる。


 レッド達は、ギリギリ広場から見えない半壊した家屋の中から、様子を伺っていた。


 偵察してきた神流(かんな)は、皆の元に戻る。


「多勢に無勢ね」

「いっぱいの魔物を初めて見たわ~」

「旦那が居れば一撃で殲滅ですね」


「今は退治しない」


 神流(かんな)は、皆の顔を見て伝える。


「えっ誰かが、襲われるわよ」

「はい、御主人様」

「殺らないんですか?」


 三者三様の、反応を見せる、すると家屋の後ろの道で声がした。


「ウジャウジャいやがる、このリスト様が成敗してくれる」


 霊宮で出会った冒険者、リストのパーティーが広場に向かおうとしていた。


「新しい剣の試し斬りに、調度いいわ」

「この数、油断してると命を持って行かれるぞ」


 それを見ていた、聖桜(せお)が笑顔になる。


「人数増えたみたい、状況は良くなったわね」


 リスト達が広場に入る前に、1匹の怪物男が気付いて路地の3人に突進していく。


「来たぞ、構えろよーー」

「調度いいわ」

「俺が、最初に一撃入れる!」


 神流(かんな)は、直ぐ様べリアルサービルを起動(ファイアアップ)させて、刻印を撃ち込んだ。


「「「!!!」」」


 リスト達3人が、その場で崩れ落ちた。倒れた3人に怪物男が容赦なく襲い掛かる。


 神流(かんな)聖桜(せお)とレッドが驚きの表情で見据える。


「なっ何やってるのよ! 撃ち間違えよ!」

「旦那……」


 …………怪物男が、倒れている3人を襲おうとしたのを止めて、通り過ぎて行った。


「「!?」」


「怪物の男に、【(ゲーエン)】・【思考停止(ノットスィンク)】・【盲目(ブリント)】の刻印を撃ち込んで、リスト達には、【睡眠(シュラーフ)】の刻印を撃ち込んだ」


「なんの為に?」


 怪訝な顔をして、聖桜(せお)は顔を向け神流(かんな)をジッと見る。


「解りましたよ。旦那に何か考えが有るんですよね」


 レッドが、紅い編み込んだポニーテールを揺らして神流(かんな)の顔を覗き込んだ。


「ああ、先ず皆の安全が一番優先、要塞の砲台塔の上空に高位の悪魔が要る。広場の死体に衛兵の数が、異常に多いのは戦ってる最中に上空から攻撃を受けたからだろう」


「悪魔っ……?」

「うえっ、マジすか? かなり戦意が落ちましたよ。逃げません?」

「はい、御主人様」


「…………レッドと俺は、その恐ろしさを十分に知っている。怪物男や邪教徒との戦闘の最中に、即死や石化の魔法そして呪い等で攻撃してくる可能性が十分にある。今リスト達が戦闘を始めたら、ターゲットにされる可能性が有ったから眠らせた」


 皆の顔に緊張の色が浮かぶ。


「取り敢えず広場の怪物達を、上空に居る白牛悪魔メンに気付かれ無いように遠距離から無力化していく」


「こんな時に、ふざけてるの?」

「で、どうします?」

「はい御主人様、命を懸けて頑張ります」


「じゃあ始める。周囲とリスト達を見ていてくれ」


 神流(かんな)は、建物の隙間から広場を彷徨く怪物達にべリアルサービルを向ける。


「【(ゲーエン)】【思考停止(ノットスィンク)】【盲目(ブリント)】」


 無力化コンボを決めていき、広場の殆どの怪物を木偶にした。


 神流(かんな)は倒れているリストを揺すって起こす。


「ううっ何で俺は寝てるんだ、誰だお前?」


「私の名はKボーイ、悪魔に眠らされていたのを助けた」


「……何だ、兄さんかよ。悪い冗談は止めてくれよ」


「…………何故解った? 本当に悪魔が上空にいるんだ。生半可な戦闘をしていれば、即死の魔法や石化で死ぬことになる」


 リストは笑う。


『若くて黒髪、黒目、そして声だよ。そんな奴、この街には兄さん以外居ないよ。それで俺等は、どうすればいいんだい?」


「疑わないのか?」


「迷宮で兄さんの力を目の当たりにしたんだぜ。そりゃあ信頼してるよ。俺等だけじゃ高位じゃなくても悪魔は無理だ。そのマスクだって意味が有るんだろ? 質問したりしないぜ。黙って力を貸すから頼って欲しい」


 神流(かんな)は、胸に込み上げる熱い衝動を抑える。数秒の沈黙の後リストに話し掛ける。


「…………有難う、3人の中で要塞内部に詳しい人が、居たら教えて欲しい」


「フーンは元衛兵だ。要塞にも城にも詳しいよ必要なら連れて行ってくれ」


 神流(かんな)は、フーンとレイゾを起こしてリストに頭を下げて皆に向き合う。


「広場の怪物達を殆ど無力化した。俺は、砲台の塔に居る白牛悪魔メンを攻撃しに行く。皆は、リスト達と協力して、広場で襲われる人がいたら避難させて上空から狙われる前に離脱してくれ」


「アッチも一緒に行きますよ」


「駄目だ。イーナを聖桜(せお)と2人で、ちゃんと護れ。これは命令だ」


「……解ったっすよ……」

「私も了解よ」

「はい了解しました。御主人様」


「よぉいフーンいいか、兄さんと一緒に行って要塞の内部を案内してくれ頼む」

「……力になろう」


 路地に邪教徒の怪物が近付いて来た。


「我は無敵! 貴様等まとめて、邪神様の供物にしてくれるぅぅ!」


 神流(かんな)は、皆を制止する。


「【(ゲーエン)】【思考停止(ノットスィンク)】【盲目(ブリント)】」


 コンボを一瞬で撃ち込み、邪教徒の怪物を無力化する。


「ガッグッ……ウウ━」


「これは、ホントに凄いよな」

「改めて見てもビックリだ」

「相変わらず、やるわねぇ兄さん」


 リスト達に改めて驚きを与えた。


「気持ち的には邪教徒にウンザリしている。じゃあ行ってくる。行こうかフーン」


「ああ行こう」


「オルフェ頼む」


 オルフェから、レッドの父親の外套を取り出して、荷物を下ろす。


 神流(かんな)が、鎧姿のフーンの後ろに乗るとオルフェは、軽快に走り出した。



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